自分の命を投げ打ってでも、
どうしても、生きてもらわなくてはいけない。
『大事にしたい』人…いや人達がいる。
それは………。目の前に凛と座っている女性
彼岸花の花の色の様な美しい色の羽織
そして、美しく綺麗で漆黒の色の長い髪
右目には、2つの泣きぼくろ
小柄で華奢な身体
民を大事に想う優しい心は、殿譲りだ。
俺は………朝霧蔵之進の助 鬼丸は
竹田宮重春の次女 ハル様に恋心を抱いている。
(※命燃え尽きるまでに登場)
想いは……告げてはいけない。知られてはいけない
何故ならば、弱みとして握られ。殿や姫様の命が
狙われるかもしれん。この想いは俺の胸の中に閉まっていれば良い…。今日もハル様や殿が笑って
生きていれば……俺はそれだけで良いのだ。
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あの日も、先の戦が終わり疲れ切った身体を引きずるように歩いていた。あと一つ山越えをすれば国に帰れる。山越えをする前に、小休憩しよう。と小さな小料理屋に入った時だった。店の中が怒涛の声と騒ぐ男を取り押さえようとしている人達で賑わっていた。
『これは、何事か?』近くで食事をしていた客に声をかけた。客は「あの男が酒によって騒いでいるんだよ。」
と、苦い薬でも飲んだような顔をして指をさしていた。
指をさした方に顔を向けると騒いでいた男は、
赤い顔をしていた。随分長い間呑んでいたようだ。
なりふり構わず、騒いでいて周りの客は迷惑そうにしていた。止めたくても暴れている状態だ。
これは…良くないな。そう思った俺は、
その男の方に向って歩いていった。
「おっ…おい!兄さん」
突然のことに驚いて声をかけた先程の男。
もちろん後ろから、声が聞こえていたが構わず進んだ
騒いでいた男の元へたどり着くと、男は
《…なんだぁ?おめぇさんは??》
と、俺の顔をジロジロと見てきたが気にせず俺は、
騒いでいる理由を尋ねた。
すると、男は悔しそうにこう叫んだ。
《……金が無くて家族を幸せにできねぇ!そんな時に城の使いが来たんだ!沢山の金銭を持って!突然のことで動揺したさ!そうしたら、使いの者が言ったんだ!娘様と正典様との祝言を、この金銭で無かったことにしてほしいと!!正典様は、隣の国のハル様と婚儀をあげると。ワシもチヨも金銭に困っていた時に
金銭が手に入る話が来た。これには勿論喜んだ!!
そして、受け取った!ワシもチヨも初めから正典様との婚儀に反対していたんだ、そんな人とは相応しくないと…城には良い話が一つも聞かぬと…なのに…
娘は………娘は!!泣きながら言い返してきた…。
そして…家から出て行き帰ってこなかった!!》
その男の話を、その場にいた皆が静かに話を聞いていた。男は、一つ深呼吸をし話を続けた。
《しばらくして……家に知らせが来た……
娘は…シン…は…沼地で死んでたんだ…。。
沼地のその近くで遊んでいたガキ共だ…。娘とは顔見知りで、着ていた着物で…髪飾りに見覚えがあって…
すぐに家に知らせに…。帰ってきた娘に
どんなに声をかけても二度と目を覚まさなかっ…た…。
………。あの時……金銭を受け取らなかったら……。》
男は、その日を思い出しているのだろう。
今度は、ボロボロと泣き崩れた。
金銭を受け取った喜びと娘を失った後悔が、まだ
男の中に深く深く沼の底のようにズブズブと入り込み
抜け出せないでいた。
(……この男の話は、何かしらの手段で
必ず殿の耳にもハル様の耳にも届くだろう…。
民を想うお優しい方達だ。
きっと、胸を痛くするだろう…。)
俺は、ボロボロと泣いている男の肩に
そっと手をかけ、男の側を離れ何も食べずに店を出た。
※それから先の話は、「命燃え尽きる」の物語へ続く
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竹田宮家の殿が、信田家へ文の返事を書いた。
〘一人の娘の命が、この世から消えてしまったは
事実真か?。ハルにも、同じ事をするのか?
そして…民が育てた稲作を全て取り上げるのか?
もし、同じ事をするのであれば
民を苦しめるのであれば
この話は、全て無かったことにする。〙…と。
父上は、我に文の内容を確認させた。
書いては文を破り、書いては文を破りを繰り返し
ようやく納得がいったようだった。
「…変か?」
父上は、納得がいった文を書いたのだが
やはり何処か不安だったのだろう。我の顔をジッと見つめていた。
『…いいえ。』
我は、微かに微笑みながら応えた。
(この文を届けてしまったら…きっと戦になる。
そうしたら、民たちはどうなるんだろう…?
田や畑…それに城は…?みんなは…?
……やはり正典様と…)
文を見つめていると我の考えを見抜いたのだろうか?
父上は、
『ハル……。好きでもない男子(おのこ)と
祝言を挙げることはない。父上は反対だ。
それから…戦になったら朝霧と遠くへ逃げなさい。
あの男なら、お前を…』
筆を片付けながら、父上はポツリと言ったが。
そこから先は話さなかった。
「……その先は…?」
文から目を離し父上を見つめ我が尋ねても、
父上は何も答えなかった。
何も答えてはくれないなら、これ以上は
聴くこともないな…。我は、まだ日が落ちていない空をジッと見つめていた。
―同じ時に、空を見つめていた人がもう一人。―
鬼丸は、殿に呼び出された時のことを思い出していた。
その日は、武具の手入れをしていた時に殿に呼び出されたのだ。使用人と共に早足で向かっている最中に、考えていた事は、
(殿や姫様のところにも例の話が来たのだろう。
……これは、あの男の話を出すときかもしれないな。)
今まで、この話を隠していたことを打ち明ける事が出来る。話さなかったのは、今では無いと思ったからだ。
殿の元へ着くと、そこには姫様も居た。
……相変わらず美しい。
そんな事が、一瞬頭に浮かんだ。
殿は、俺が着いたら直ぐに
文の話を説明し文も確認させてもらった。
どう思う?尋ねられた時に俺は
男の話を簡単に話を短くして説明した。
二人は、驚いた顔をしていた。
そんな事があったのか…!と、言いたげな表情だった。
それから、こうも付け加えた。
城の話は、悪い話しか聞かない。その話は無かったことにした方が良い。と
この国を何よりも大切に思っているなら、全てを奪われる危険があるならば、その話は無かったことにしたら良いと考えたのだ。
殿は、ようやく返事を書く決心がついたらしく
さっそく、文の用意を頼んでいた。
殿は、俺にこういう命令もしてきた。
命が燃え尽きるその時までハルを護れと命令をした。護れなかったら殺すとも言われた。
もし……ハル様の小さな手を繋ぎ、小柄な身体を抱きしめ
遠く遠く離れたところ迄、連れ去ってしまったらどんなに良いものか…。
しかし…俺の手は、汚れている大勢の命を奪い怨まれている俺の手で汚してはいけない。
……男に抱かれたことの無いであろうその小柄な身体を抱きしめてしまったら…力が強い俺は…ハル様を壊してしまうのでは無いか?
それが、どんなものよりも
怖がらせてしまうことのほうが…俺は怖かった。
『「……だから言えぬのだ…
我には、俺には……この先も、そして何よりも
大事にしたい人だからこそ…この恋心は
知られてはならぬのだ…例え、命が燃え尽きるその時までも。」』
空を見つめている場所は、違えども
想っていることは、ちゃんと繋がっていることを
知っているのは天の神様だけかも知れない。
9/20/2024, 2:33:10 PM