「おネェちゃん、おそらが
エーン、エーンってないてるね。」
上から下まで、全身が真っ黒の服に身を包んだ
姪とアタシ。アタシの世界一、可愛い可愛い4歳の姪が
窓の外を眺めながら、こう言った。
『そうね……。アタシの代わりに
泣いてくれているのかもね』
アタシは、姪の隣に座り込み
姪の目線に合わせて、小さく呟いた。
その呟きに姪は、視線を外からアタシの方に向けて
アタシの顔を覗き込み不思議そうな顔をしていた。
アタシは、不思議そうな顔をしている姪のほっぺたを
優しくツンツンっと、突いて微笑んであげた。
姪は、くすぐったいのかクスクス笑っていた。
あなたは、今もこれからも笑っていなさい…。
アタシは、そう想っていた。
チラッと、後ろを振り返ると親戚達が
コソコソと、アタシたちの方を見ながら
何やら話し合っていた。
まあ…。この見かけじゃ何か言われるか…。
ふぅ…。と、小さなため息をアタシはついた。
アタシの格好…。それは
男なのに、女物の礼服を着て薄いメイクいること。
周りの目は、アタシのことを
化け物でも見ているかのような、冷たい目だった。
嫌味も言われ、恥ずかしいとも悪態をつかれた。
死んだ父も母も、アタシには近づかなかった。
けれど…。お姉ちゃんだけはアタシの味方だった。
事ある弧度に、あなたは、とても綺麗よ!と褒め
アタシが泣いている時は、泣かせた奴に文句を言い
嫌なことを言われた時は、
私の可愛い可愛い子に嫉妬しないで!と、言い。
アタシが、女の子の格好が好きなのと告げた時は
次の日に、お姉ちゃんの服を着させられ手を繋いで
女物の服屋と化粧品を買いに行った。
周りの視線に怖がっていたアタシに、
自分のサングラスと帽子を被せ、視線を遮ってくれた。
どんな時でも、味方だったお姉ちゃん。
そんな、お姉ちゃんが嬉しそうに
結婚と妊娠をした事をアタシに報告をしてきた日。
アタシが一番最初に思ってしまった事がある、それは
「アタシ…一人になるんだ…」と、哀しくなったこと
また、お姉ちゃんの旦那さんに冷たい目で
見られるんじゃないか…?と、恐れた事だった。
しかし、旦那さんと初めて会った日に
旦那さんから言われた事がある。
それは、『あなた事は、お姉さんから聞いている。
可愛くて優しくて綺麗な自慢の子よ。臆病な一面もあるけど、人を傷つけない。世界で一番愛しているの!』
あなは、愛されていますね…。旦那さんは
嬉しそうに、お姉ちゃんと見つめ合って
こう、話してくれた。
アタシは、あぁ。この人はアタシのことを否定しないで
くれるんだ。アタシは、それが何よりも嬉しかった。
お姉ちゃんに、赤ちゃんが生まれた時には
赤ちゃんをアタシに見せながら、
ほら、あなたのおネェちゃんよ〜!と笑顔で話していた
アタシは、よろしくね。と、小さな手と握手をした。
何もかもが、暖かく幸せな日々だった。
あの日が来なければ……。
来なければ、暖かい日々は永遠に続くはずだった。
あの日も、雨だった。
朝から、ずっと降り続いていた。
アタシと姪は、病院に向かう為タクシーに乗っていた
何が起きているのか何もわかっていない姪は
呑気に鼻歌を小さな声で歌いながら、大人しく
アタシの隣に座っていた。
アタシは、今朝に来たメールを素早く確認していた。
『娘と一緒に、富士槍大病院へ向ってくれ。頼む』
お姉ちゃんの旦那さんからのメール…
……お姉ちゃんに、何かあったの??
アタシは、不安で不安で仕方が無かった。けど…
アタシが不安になっていたら、姪に気付かれてしまう
そう思ったから、変わらずいつも通りに姪に接していた
タクシーが、病院についた時
アタシは、お金を払い。すぐ姪を抱きしめて
一目散に、お姉ちゃんの所へと早足で向かった。
途中、看護師さんやナースステーションに立ち寄り
病室への道を尋ねながら速歩
もうすぐ、病室に着く!アタシは突き当りを右に
曲がろうとした時に、見覚えのある人が廊下にいた。
「あっ…!ぱぱだ」
姪は、嬉しそうに声をかけた。アタシは抱きしめていた姪を降ろして、一緒にカレの所へと歩いていった。
何があったのか?聞こうとしたら
カレは、アタシの耳元で
姪に聞こえないように…そして囁くように話してくれた。
『妻が……車同士の追突事故に…
巻き込まれ……ついさっき…息を…。』
アタシは、「なぁに?冗談でしょ?
アタシのことを、お姉ちゃんと仲良くからかっているんだ〜!』と、笑ってみせたが。
カレは、静かに涙を流しながら首を横に振った。
お姉ちゃんの遺体を見るまで
アタシは、コレが現実だと思いたくなかった。
……お姉ちゃん…??
アタシと…今度ランチへ行くのよね??
お買い物をしようねって約束したよね??
小さなこの子を置いていくの??
旦那さんを置いていくの??
アタシを……置いていくの?
けれど…静かに眠っているお姉ちゃんを見た時に
あぁ…現実なんだなって実感が湧いた。
ボンヤリと虚ろな目で、お姉ちゃんを見ていたら
カレが、手続きがあるから娘を頼む。
泣き腫らした目で、頼んできた。
アタシは、頷くと姪に
おネェちゃん、のどが渇いたのだけれど
ジュースで買いに行かない?
姪に、そう聞いたら可愛い声で行く!と返ってきた。
アタシたちは、自販機が置いてある場所へと
向かっていった。
その間、泣いたらダメ…泣いてはダメ…
呪文のように心の中で唱えていた。
ジュースを買って、二人で仲良く飲んでいて
飽きないようにと、持ってきていた絵本を読んであげたりお絵かき帳でお絵かきをしたりしていたら、姪はいつの間にか眠ってしまった。
夢の中で、ママに会えると良いな…。
アタシは、姪の髪を優しく撫でて願った。
止まない雨が降り続けている窓の外を眺め
ボロボロと静かに涙を流しながら
小さな小さな声で鼻歌を歌っていた。
曲は、ジュディ・ガーランド 虹の彼方に
アタシが、泣くのは…涙を流すのは…
これが、最初で最後。
9/16/2024, 1:45:52 PM