ん?『クリスマスの過ごし方』、ですか?
そうですね。さして人に言うほどのものでもないのですが...。
もちろん今年も恋人と過ごしました。
午前中は仕事があったので午後からですが。
いえ、彼女は夕方まで仕事でしたので、私が用意を。
チキンを焼いて、ロープストビーフや彼女の好物のホワイトソースのシチュー、それからチョコレートケーキも手作りです。
ふふ。いえ、すみません。思い出し笑いを。
チョコに目が無い子なんです。去年イチゴのケーキを用意したらイチゴは食べられない、と泣かれまして..。あの時は焦りましたが今はいい思い出です。
彼女が帰ってきてからは共に湯船に浸かり、食事を共にして....その後を聞くのは野暮、と言うものでしょう。
では、もういいですか?
それでは失礼します。今日も、彼女とこの後用事がありますので。
それでは。
#クリスマスの過ごし方
#スパダリ彼氏
駅3つ分。
毎朝同じ電車に乗っているハーフの彼が気になる。
サラサラの燻んだ金髪をキッチリ分けているのにダサくなくて、チラリと見える耳も形がいい。日本人離れした筋の通った高い鼻や綺麗な顔に似合わない少し傷だらけの拳で吊り革に捕まる彼。カッコいい....。
彼が電車に乗ってきて私が降りるまでに3駅、読んでるフリして本越しに今日も彼を見る。
席2つ分。
高校に入学すると同じクラスに彼がいた。今まで見つめるだけだった彼の名前を知った。話してみるとしっかりと日本語で、ハーフでなくクウォーターだと言っていて驚いた。想像より低い声の落ち着いた話し方とさり気無いレディーファーストが他の男子にはないもので、余計に好きになった。彼は私の席から一つ飛ばして前に座っている。私は今日も後ろからそっと彼を見る。
頭1つ分。
階段を踏み外してしまった。途端に視界はスローモーションになった。もう一段で登り切るところだったのに..体が後ろ向きに倒れていく。頭から落ちたら血が出るかな...とゾッとしつつも、走馬灯ではないけれど、ああ今日パンツ可愛くないの履いてたから見えたら嫌だな...なんてしょうもない事が頭を過ったが、これからくる衝撃に備えて強く目を瞑った。
.........目、開けられない。確かに体に回る腕や鼻腔を擽る彼の香水の匂い。......私、抱きしめられてる。
まさかこんな漫画みたいな事が本当に起きるなんて。それがこんなに恥ずかしいなんて。バクバクと打ち鳴る心臓がうるさい。
「ぼーっとしてるから踏み外すんだよ」
頭上から降ってきた声にびくっと肩が跳ねた。咎めていながらも宝物に触れるみたいに優しい手つきで私の頭を撫でている。恐る恐る見上げると目尻を下げてふやけた顔で彼が私を見ていた。そんな顔で見られたら...!恥ずかしくて背けた顔が彼の手によってまた戻された。
「こっち見て」
おずおずと合わせた視線か絡む。顔が熱い。彼の目に映った自分の顔はトロトロに溶けた顔をしていた。
頭を撫でていた手が頬に添えられた。
「そんな可愛い顔されたら期待しちゃうんだけど」
耳を赤くして、ゆっくりと彼の顔が降りてきた。私はそっと目を閉じた。
#距離
朝同棲している彼に衣替えをお願いされてクローゼットから冬服を出した。その際に服の間に隠すように挟まれていた写真を見つけた。私の知らない女の子と、高校時代の彼。私が知らないという事は他校の子なのだろう。寄り添って彼の肩に頭を預けている..。彼の、昔の恋人だろう。同じ高校だったとはいえ、彼の全てを知っている訳ではない。私が知らなかっただけで、他校に彼女がいたのだろう。
別にいい。私だって元彼の1人や2人居た。それなのに、自分のことは棚に上げておいて彼の過去に嫉妬している自分に嫌気がさす。
『高校の時からずっと、オマエの事だけ見てた』
そう告白してきた彼のあの言葉が嘘だったとしても、今、彼は私の横にいる。
その事実があるだけでいいじゃないか。
そうは言っても、一度胸を覆った黒い霧はなかなか晴れてくれない。少し気分転換しようと近くのコンビニまで散歩がてら行くことにした。
♂♀
「ただいま」
帰宅し声をかけるも返事がない。
今朝、今日は何も用事がないから家に居る、と言っていた彼女はどこか買い物にでも行ったのだろうか。
クローゼットは開けっぱなし、服も床に散らかったまま...ふと床に落ちていた写真に気付く。
「....っ!」
コレを見たのか...!昔好意を寄せられていた他校の人に強請られて撮った写真。捨てるのもなんとなく憚られて、やましいことはないのに服の隙間に隠してしまっていたから、勘違いを...!
彼女を探さなければ...!誤解だと伝えなければ‼︎部屋を飛び出してマンションのロビーを出ようとしたところでコンビニの袋を持った彼女と鉢合わせた。人目も気にせずに強く抱きしめた。道ゆく人たちの視線が刺さるがそんな事どうだっていい。
「どうしたの?」
驚き目をまんまるにした彼女が上目遣いで訪ねてきた。最悪の事態でなかった事に安堵してドッと体の力が抜けた。彼女の肩口にぐりぐりと額を擦り付けるとくすぐったいよ、とくすくす笑う彼女の声が耳に届いた。
「ごめん!あの写真はお願いされて一枚だけ撮ったのを、もらって...」
「なんだ、彼女かと思った」
「まさか...!知ってるだろ...」
「何を?」
首を傾げる彼女の顔を両手で包むとふふっと嬉しそうに彼女が笑った。その可愛らしい微笑みに我慢ならずにキスを落とす。
「........俺はずっと、オマエだけだよ。高校の時も、今も、オマエしか見てない」
耳から首まで真っ赤にした彼女が愛おしい。抱きしめても抱きしめても、伝え足りない。俺の彼女への愛は、この重たい感情は、彼女に届いているのだろうか。伝わってほしくて、強く、キツく、縋るように抱きしめると彼女の可愛らしい手が伸びてきて私をふわりと抱き返してくれた。
「居なくなったと思ったの?」
「うん。出ていったのかって、怖かった。あんなの残しておいてごめん...!」
「ううん。でも、やきもち妬いちゃった」
「.....‼︎あ〜〜‼︎かわいいな‼︎」
#衣替え
『私は好きな人の好みのタイプに近づけるように努力するタイプなの』
そう言っていた彼女は、少し前に髪型を茶髪のパーマから自分が前から好きだと言っていた黒髪ロングに変えた。彼女が俺の事が好きらしいと同級生から聞いた時、天にも登る気持ちだった。本当に?そうであったらこんなに嬉しいことはないのに。だが彼女から微塵もその気配が感じられなかった。彼女は最近俺に話しかけることも、目を合わせることすらもしてくれない。彼女が自分を好きだという自信がなかった。俺は割と早く自分から告白するタイプだったが、それは相手が自分に粗方好意があると分かっている場合だ。彼女はわからない。勝率が低い段階で手は出せない。もっと核心が欲しい。そんな臆病な気持ちが告白すると言う行為を躊躇わせていた。彼女の髪型が自分の好みであるうちは安心できた。だから毎朝、彼女の髪型が変わってないことを確認してはほっと胸を撫で下ろす、そんな毎日を送っていた。
朝晩が寒くなり出した10月上旬の朝、手をこすりながら教室へ入り、いつもの癖で彼女の席を確認する。
瞬間、絶望。
窓際のいつもの席に座っていたのは、黒髪から明るい髪色に変えて、長かった髪の毛をバッサリとボブに切った彼女だった。
♂♀♂♀
『俺、好きな子出来たら自分から告るタイプなんだよね』
そう言っていた彼は、私の前の席の人だ。プリントを回す時しっかりと振り向いて目を合わせて渡してくれる律儀さや、私が困った顔をしていると大丈夫?と腰を屈めて覗き込んでくれる優しい所に惹かれて気がついたら好きになっていた。
彼の幼馴染にアイスを奢って、黒髪のロングヘアが好きだと言う情報を得て、すぐに実行に移す。前々から好きな人のタイプに寄せると言いまくっていたから私が彼を好きだと言う噂はすぐに広まった。もしかしたら彼の耳にも届いてしまっているだろうか。好きだと気づいてから変に緊張してしまって目を合わせられなくなった。私を覗き込む彼の顔も見れない。プリントを回してくれる時だって目線をずらしたまま手だけで受け取った。恥ずかしい。彼の近くにいるだけでバクバクと脈打つ鼓動をバレたくなかったし、赤く染まる頬や耳も見られたくなかった。彼は好きな人ができたらすぐに告白するタイプだと言っていた。すぐっていつだろう。もうすぐ10月、私の誕生日がある。誕生日に彼が告白してくれなかったら、諦めよう、そう思った。
#すれ違い
「こら、離れなさい」
「やーだ」
「貴方も仕事でしょう」
「代わりに行って」
「無理言うな」
「まだ一緒にいたい」
シャツの前ボタンを閉めながら、私の背中に抱きついている愛しい彼女に声をかけると、これまた可愛らしい返事が返ってくる。ボタンを閉め終わってネクタイ首に回そうとして後ろから伸びてきた手が私からネクタイを掻っ攫っていった。
「あ、返しなさい」
「やーだよー」
逃げる彼女をすぐに捕まえて、後ろから覆う様に抱き締めると彼女はとても嬉しそうにくすくすと笑った。
「貴方も早く準備をして。一緒に出ますよ」
「んー」
クルッと向きを変えて私の方を向くとぎゅうと抱きついてくる。いつもより高くて、甘えるように出す声が可愛い。
「もっと、ずっと、一緒に居たい」
「次は休みを合わせて1日一緒にいましょうか」
元々大きい目をさらに大きく開かせてまるで宝物をもらった子供のようにキラキラと彼女は目を輝かせた。
「うん!絶対ね!」
#子供のように