駅3つ分。
毎朝同じ電車に乗っているハーフの彼が気になる。
サラサラの燻んだ金髪をキッチリ分けているのにダサくなくて、チラリと見える耳も形がいい。日本人離れした筋の通った高い鼻や綺麗な顔に似合わない少し傷だらけの拳で吊り革に捕まる彼。カッコいい....。
彼が電車に乗ってきて私が降りるまでに3駅、読んでるフリして本越しに今日も彼を見る。
席2つ分。
高校に入学すると同じクラスに彼がいた。今まで見つめるだけだった彼の名前を知った。話してみるとしっかりと日本語で、ハーフでなくクウォーターだと言っていて驚いた。想像より低い声の落ち着いた話し方とさり気無いレディーファーストが他の男子にはないもので、余計に好きになった。彼は私の席から一つ飛ばして前に座っている。私は今日も後ろからそっと彼を見る。
頭1つ分。
階段を踏み外してしまった。途端に視界はスローモーションになった。もう一段で登り切るところだったのに..体が後ろ向きに倒れていく。頭から落ちたら血が出るかな...とゾッとしつつも、走馬灯ではないけれど、ああ今日パンツ可愛くないの履いてたから見えたら嫌だな...なんてしょうもない事が頭を過ったが、これからくる衝撃に備えて強く目を瞑った。
.........目、開けられない。確かに体に回る腕や鼻腔を擽る彼の香水の匂い。......私、抱きしめられてる。
まさかこんな漫画みたいな事が本当に起きるなんて。それがこんなに恥ずかしいなんて。バクバクと打ち鳴る心臓がうるさい。
「ぼーっとしてるから踏み外すんだよ」
頭上から降ってきた声にびくっと肩が跳ねた。咎めていながらも宝物に触れるみたいに優しい手つきで私の頭を撫でている。恐る恐る見上げると目尻を下げてふやけた顔で彼が私を見ていた。そんな顔で見られたら...!恥ずかしくて背けた顔が彼の手によってまた戻された。
「こっち見て」
おずおずと合わせた視線か絡む。顔が熱い。彼の目に映った自分の顔はトロトロに溶けた顔をしていた。
頭を撫でていた手が頬に添えられた。
「そんな可愛い顔されたら期待しちゃうんだけど」
耳を赤くして、ゆっくりと彼の顔が降りてきた。私はそっと目を閉じた。
#距離
12/1/2022, 12:05:11 PM