消し残しのある黒板、落書きだらけの机、不揃いの椅子、誰もいない教室、静まり返った室内に窓から聞こえてくる放課後の音。
ふわりと舞ったカーテンに隠すようにして彼女を腕の中へ引き入れた。
艶やかな黒髪が揺れてそこから香るシャンプーの爽やかな匂いに堪らなくなる。
俯いて少し恥ずかしそうにしている彼女が風に揺れた髪の毛を耳にそっとかけた。
そうしたことで見えた耳が真っ赤に色づいていて、そこへ小さくキスを落とすと、ハッと見上げてくる彼女の目には薄い幕が張っていた。
煽られる加虐心を抑えつつもう一度、今度は唇へ。
それからぎゅうっと抱きしめた。
「俺と付き合わない?」
「・・・・・・順序が逆」
#カーテン
この開けた場所でレジャーシートを広げて彼がくるのを待っていた。
『付き合ってくれるなら、今夜19:00、丘の上に来てください。』
仰向けになって空を見上げる。
もう20:00を過ぎた。
彼は来なかった。
暫くするとキラキラと光る筋が夜空の奥からこちらへ迫ってきて消えた。
これを皮切りに次から次へと星たちが光りの尾を伸ばしている。
流れ星ってその名の通り、本当に流れるんだ。
綺麗....。
もし彼が来てくれたなら2人で見よう、なんて思ってたのにな。
願いが叶うと言うのなら、消し去ってくれないだろうか。
この胸の痛みを、楽しかった思い出も、何もかも彼に関する事は全部。
最初から無かった事になればいいのに。
告白なんてしなければよかった。
流星群が終わりを迎えるまで何度も、星が流れるたびに1人そう願った。
#星座
いつも心がざわついている
街中でも、仕事中でも、何かを探している
いや、誰かを探している...?
どこにいる?
誰を探しているんだろう
男だっけ?女だっけ?
背は高いっけ?ああ、背は高かった気がする。
それじゃあ男なのかな。
お父さんかな、お兄ちゃんかな。
ああ、恋人だ。私はきっと恋人だった人を探している。
確信した途端、彼の情報が頭の中にぶわっと流れ込んできた。
ナチュラルな金髪、高い鼻、スラリと伸びた手足、ああ、広い肩幅とは対照的な細い腰。
耳触りのいい低い声。
今日も探す、探す、探す。
どうして彼を探しているんだっけ?
頭の中に響くキ───ンという高い音。
ああうるさい。
頭の中で一層に鳴り響く音。
キ──ン。
『......必ず、アナタを探し出します』
へ?何今の。
キーン。ああ、また。頭痛い。
『だから、泣かないで。来世ではきっと一緒になりましょう』
.........。ああそうだ。私は、私たちはあの時死んだんだ。身分違いの恋を反対されて、疲れて、疲れて、疲れて...。それで2人で海に...。
私は今日も彼を探している。
#巡り会えたら
ふと気づくと部屋の中は薄暗くなっており、窓から差し込む光が無くなっていることに気づいた。
時間を確かめようと時計を見て目を見開く。
18:00
暖かい光に少しまぶたが重くなって、30分だけ、いや、1時間ぐらいでもいいかな、お昼寝しようなんて布団に入ったのがいけなかったのか。こんなに寝てしまうなんて...
ソファーで寝ればよかったなんて思ったところでもう遅い。
黄昏時というのは一瞬でもうすでに夜になり始めている。
せっかくの休みがぁ......後悔先に立たず、覆水盆に返らず、後の祭り。
次々と言葉が浮かんできては消えた。
大袈裟だがこんな気持ち。
ああ、明日からまた仕事だ。
頑張らなきゃ、と思いながらカレンダーを見る。
「うっそ!....あ!そうだった‼︎」
今日は土曜日、明日は日曜日。明日も休みなのだ!
サイッコー。
アレだけ落ちていた気持ちは今や天にも昇る心地だ。
明日こそ、洗濯掃除、ショッピング。色々やるぞ...!
きっと素敵な日になるに違いない。
#きっと明日も たそがれ
形にしたらまぁるいような、そんな温かな、柔らかい夕陽が部屋全体をオレンジ色に染め上げている。
ソファーでうたた寝をしていた彼の上に寝そべって、胸に頬を寄せる。
頬に感じる彼の暖かさと、心音。
トク、トク、トク。
その音は私を安心させる。
彼の生きている証の音を子守唄に私も深く沈む感覚がした瞬間に、ふわりと頭を撫でられて意識が浮上した。
「.......」少し顔を上げて彼を見る。
「.......」彼は私を見て目尻を下げて、頬を撫でる。
「.......」私は彼の手に擦り寄る。
「.......」優しい力で抱きしめられて、そのまま彼はまた寝ていった。
なんて幸せなんだろう。
この幸せが続きますようにと、願いを込めて彼の頬にキスをして、それからまた彼の上で遅い時間のお昼寝することにした。
きっと2人とも変な時間に起きてしまって、夜寝れなくなるだろう。
でもたまにはそんな夜があっても良い。
#静寂に包まれた部屋