時を止めて歩き出すとまるで別世界に来たように感じた。人々は微動だにしない。石像のようだ。ふと足を止めて一軒の店に入る。いつもは流れているBGMは息を潜めている。そのままテーブルに腰掛ける。何かを煮ていたのだろうか厨房から美味しそうな香りが漂っている。その時だった。「あの、すみません。」
誰かが戸を叩いた。私は急いでトイレの中に隠れる。
誰か入ってきた。おかしい。時を止めたはずなのに。「ここにはいなさそうだなぁ」男はそう言うと出ていったようだ。ドアのパタンとなる音が響いた。恐る恐るトイレのドアを開ける。すると「見つけましたよ」
そこには仮面を被った男がいた。「あなたに依頼したいことがあります」そう言って男はお辞儀をした。
大勢の人間が遠くからかけてくる音がした。母はその音を聞くや否や娘の私に言った。「ついてきなさい」と。つかつかと書斎に入ると本棚の前に立ち何やら呟いた。すると本棚が二つに開いた。そこには薄暗い空間が広がっていた。中に私と入るとまた母は何やら呟いた。すると出口が塞がった。そのまま母は私に言った。「今から悪い人たちがこの家を荒らしにくるわ。目的は私とあなたを火炙りにすることよ。あなたはこの家に人が入ってこなくなるまで、ここに隠れていなさい。」「いやだよ。ママはどうするつもりなの」私は必死に駄々をこねた。母は私の目線の高さまでしゃがみ込み、私の頭を撫でた。「もうすぐ人が来るからあまり時間がないの。ママは悪い人たちを懲らしめに行くわ。だからそれまで悪い人に見つからないようにお利口にしてて」母の優しげでどこか堪えたような表情を見て、私は泣かないようにした。「うん。わかった。絶対戻ってきてね」「ええ約束よ。それじゃあここを出る方法を教えるわね。それから・・・」その会話が私と母の最初で最後の束の間の休息となった。
私が大事にしたいと思っているのは何なのだろうか。
私には大事にしたいというのがない、いやわからないというべきか、私は私というものがないのだ。
このままではいけない。そう思っていると、あることができるようになった、それはもう1人の「自分」を創り出すということだ。創り立すというと仰々しいが、もう1人の「自分」が今何を思っているのかということに思いを馳せるのだ。すると思いもよらない姿が心の中に映る。自分は笑顔なのに「自分」はしょぼくれている。自分はリラックスした体勢なのに、「自分」は
体育座りでうつむいた顔で泣いている。少し眠った後は自分は無表情なのに、「自分」は立ち上がって喜んでいる。私はもう1人の「自分」を大切にしてやらなければいけないなと思った。そこから自分が変わりはじめた、今まで聞いていた流行りの音楽は「自分」には落ち着きを与えるものではなく、合わないとわかり、試しにピアノ曲を聞くようになった。すると「自分」がとても落ち着いた。自分もとても楽になった。どうやら「自分」と自分は連動しているようだ。
自分がわからなくなったり、制御が難しくなった時は「自分」に思いを馳せ、「自分」を思いやる行動を取る。これが今、私が大事にしたいことだ。
今まで手をひっくり返すように裏切られたり、組織のリーダーが変わったりと、変わらないものはないんだということは嫌というほど経験してきた。でも変わらないものを私は知っている。それは自分自身だ。自分は腹黒い性格をしていて目立ちたがり屋、でも努力は嫌いだという何一つ取り柄のない性格なのだが今までそれを変えるために努力しようとしてきた。しかしどの努力も長続きしなかった。それはなぜなのかというと無力感だ。今までの自分を変える努力の失敗の積み重ねが無力感を学習させたのだ。そこで無力感を消す方法を私は探し、ついに一つの結論に至った。今はそれを試すところだ。
「ここら辺じゃない?」「たしかそうだよ。」「ここに埋めたよね。」僕は今、小学校からの友人男女二人と夜の山奥に来ている。
理由は.....。
「じゃあタイムカプセル探そっかー」そうタイムカプセルだ。小学校の頃の宝物を入れてある。未来の僕らが見つけることを願って。
昨日、その話になってわざわざ今日の朝から、ど田舎の母校のある裏山に何時間もかけてやってきたのだ。
「あったー!」友人の一人が埋めた場所を掘り起こすと、そこにはタイムカプセルが。
僕たちは大はしゃぎで中を開ける。
「何が入ってるんだろうね」「楽しみだね。」ワクワクしながら開ける。
中には手紙や写真、そして.....。
「これってもしかして.......」それは一冊の本だった。
誰かが書いた小説らしい。
「すごいね、これ。」「ねえ、読もうよ」友人たちは本を手に取った瞬間から読み始めてしまったのだ。
「え.......なんで......」
本を読んだ僕らは驚きを隠せなかった。
それは誰も当時、タイムカプセルにいれていないはずのものだったのだ。
物語の中で描かれているのは、僕らの内の誰かが元々いた友達を殺した犯人であるというストーリーだった。
僕らは元々四人だったのだ。
彼らは真っ青になっていた。
「これって...君が書いたの?」友人の一人が疑い深く尋ねた。
僕は当然のように首を横に振る。
「いや、まさか自分が書いた覚えないし。でも、内容が...不気味だよね。」
友人たちは一瞬沈黙し、不穏な雰囲気がただよった。
「でも、これってただのでたらめでしょ?」もう一人が笑いながら言ったが、笑顔には微妙な緊張感が漂っていた。
「でも、もしこれが現実だったら...」僕は震える声で言った。
「怖いね。」そして僕らは皆、顔を見合わせて固まってしまった。
「ねえ、もしかして.......」「まさか......」友人二人はタイムカプセルを埋めた場所に誰かが来てこれを埋めたこと、そしてそれをする可能性が高いのはタイムカプセルの話を昨日始めた人に限られることに気がついたのだ。
そしてその言葉が友人二人の最期の言葉となった。
「翔太。やっと終わったよ。」僕は今は亡き親友の名を呟いた。
そして月を見上げて涙を流した。