日陰ぼっこをしよう。
太陽の光は、僕達には眩しすぎるから。
灰になってしまうだなんて冗談を言い合いながら、
太陽から隠れるように小さな樹の下に集まろう。
木陰で寄り添って、内緒話をしよう。
眩しさに目を細めると、
君の表情がわからなくなってしまうから。
ペットボトルの水で喉を潤しながら、
こっそり持って来たタオルで汗を拭こう。
束の間の休息。二人だけの時間。
一本しかない木の幹に、もたれるフリをして寄り添おう。
小さな葉の影にすっぽり埋もれるように体育座りをして。
グラウンドで揺らぐ陽炎を、今だけは遠いものとして。
そっと、日陰で並んで眺めていよう。
「日陰」 白米おこめ
カサって音。
持ってるだけで崩してしまいそうな音。
君の綺麗な箸遣いが見たい。
焼けた私の匂いを、
変な香りだと思いながら
その手でそっと掴んで
崩してしまえ。
「そっと」 白米おこめ
星のかけらを食べてみたい。
眠れない夜に、紅茶を飲みながらこっそりと食べたい。
口の中がちくっとして、痛くて。
それでも根気よく舌の上でころころと転がして、
ほんのりと溶け出す星の蜜を味わいたい。
息をするために少し口を開けば、
唇の隙間から淡い光が漏れて、慌てて手で押さえるような。
いつか、星のかけらを取りに出かけられるなら、
小さなビンにその光を閉じ込めて、綺麗なまま保存したい。
空気を抜いて真空にして、真っ暗なところに置いて。
マイナス270℃の世界で輝くその光が消え去る前に、
37度の熱でじんわりと溶かしたい。
「星のかけら」 白米おこめ
公衆電話の受話器が、するりと手から抜け落ちた。
くるくると巻かれたコードが伸びて、
壁にカツンとぶつかっては上へ横へと飛び跳ねる。
その動く緑を見つめながら、俺は後退りをする。
受話器を拾えない。拾いたくない。もし、拾ったら。
背中が固く冷たい壁に当たる。
狭い狭い、公衆電話のボックス。
手で押せば外へ出られるのに、俺はひっくり返った受話器のその粒々とした穴から目が離せず、ただただ壁に背中を押し付ける。
自分が押す前に、ボタンがひとりでに凹んだ。
かち、かち、と確かめるように押されていった。
先に入れておいた10円が落ちる音がして、無機質なオレンジの画面に⑩が表示される。ああ、ああ、何処につながったというのだ?
誰かが呼んでいる。呼び鈴がなっている。
電話の向こうから。遠くで鳴る掠れた音質。
いや、違う。もっと近くから、まるでそう、
自分の携帯から鳴っている、ような。
はは、と笑ってスマホを耳に当てれば、そう、
自分とそっくりの声が、俺に誰だと聞いてきたんだ。
「Ring Ring…」 白米おこめ
びゅおう、と脇の下を潜り抜けるようにして、
不躾な風が通り過ぎていく。
私の髪を散らかして、整えもしないただの暴走族。
マフラーの隙間を縫うようにして、
わざわざ首に触れてきては「俺は冬だぞ!」と叫び
ブルンブルンと勢いよく吹かせている。
腹が立ったので、家に着いたなり要らないチラシを
新聞の間からひったくって紙飛行機を折る。
空き地めがけてベランダから飛ばせば、
暴走族の肩に乗って紙飛行機はぐんぐんと前に進んだ。
お前のバイクと私の紙飛行機は同じスピードなんだ。
ざまーみろ!と呟けば、風は不服そうに
私の髪をぐちゃまぜにした。
「追い風」 白米おこめ