私はいつか、ウユニ塩湖に誰かと2人きりで行きたい。
あの壮大で、人がちっぽけに感じられるような所に、
「世界にこの人さえ居れば良い」と思えるような人と
一緒に行きたい。
感嘆の息を漏らすだけで、何も言えない私の隣を、
同じように何も言えないまま立ちすくむようなひと。
そっと、指先を握っても許してくれるひと。
私が一緒にいきたいの、あなただったかも。
そっと微笑んで、言えてしまったらどんなに楽か。
2人きりじゃなくたって、いつか行けたのならば。
一瞬だけでも話せるその空間だけを切り取って、
私ずっとあなたを好きでいられる気がする。
素足のままで浸っていたいだけ。
あなたへの愛に。
「素足のままで」 白米おこめ
もう一歩だけなら、踏み越えてもいいかな。
線は見えてるの。ちくちくした有刺鉄線の線が。
“越えてはいけないよ”と、誰かの声がするの。
ずっと憧れている、大好きな誰かの声がするの。
でも、あとちょっとだけ進んでもいいかな。
もう一歩だけなら。
私、分かってるつもりなの。
白線から外に出てしまったら、
アスファルトには人喰いザメが泳いでいるの。
線は目の前にあるの。
触ったら焼けるような熱いレーザーの線が。
信号機はずっとひまわりのように光っている。
止まるべきで、でも、止まらなくたって咎められない色。
だから迷ってしまう。基礎的な性善説に
当てはまってしまう前に、動いてしまいたい。
ちかちかと点滅する黄色を進んだところで、その先に
何もないことも、それが危ないこともしってるけど。
私が後悔するのも、彼を傷つけるのも分かっているけど。
だから私、ここで止まっているの。
変わらない信号機の点滅を体育座りでずっと数えているの。
だから、暇だから考えてしまうだけなんだって。
熱いレーザーを帽子で避けて、
海へ落ちないように白線の上を進んで、
ずっと大好きなあの人に会って、
有刺鉄線さえ抜けられるのならばどんなに良いかって。
赤になりきれず青にもなれない、優柔不断な向日葵の黄色。
“貴方だけを見つめる”なんて、そんなの馬鹿みたいだよね。
でも、ここはやっぱり暗いから。
もう一歩だけなら、許される気がするの。
貴方に近づきたい、私を許して。
「もう一歩だけ、」 白米おこめ
見知らぬ街に行ったって構わない。
私が知っている人がいなくたって、
私を知っている人もいなくなって、
誰も彼も分からなくたって構わない。
その時にただ一つ未練があるとすれば、
貴方の家の郵便番号を知らないことだけ。
私が引っ越した先で、貴方に手紙を送れないことだけ。
私は見知らぬ街に行ったって構わない。
貴方が、私を忘れない限り。
それ以外は、全部変わったって生きていけるから。
「見知らぬ街」 白米おこめ
あなたしか指さない羅針盤を、後生大事に持っている。
そんな磁場など狂って仕舞えばいいのに。
誰かとたのしい場所へ行く貴方を、
私なんかが探してもどうしようもないのに。
どうかなだらかに眠っていて。私の宝物だったはずの人よ。
できれば健やかに、静かに、幸せでいて。
宝の地図はもう破いてしまったの。
間違っても、貴方の幸せを掘り起こさないように。
コンパスの表面にヒビが入る。
今にも割れてしまいそうなまま、
ただぎゅっと握りしめている。
好きだった。今だって。針はあなたしか指さない。
針はあなたしか指せない。真っ赤に燃える恋の針先。
穏やかな白波に身を預けて、
時間をかけてゆっくりと砂浜が引いて動いて。
ずっと深く、砂を被せたはずの宝箱のその頭が
見えてしまう時がもし来るのならば。
その時はどうか、貴方に鍵を開けてもらいたい。
しまったはずの心の羅針盤はきっと、
遠くなってしまった貴方をずっと指しているから。
「心の羅針盤」 白米おこめ
ぬめって、洗って、流されて。
縋ろうとシンクにしがみついても、
裏をかこうと蛇口にひっそりくっついていても、
全て見つかって、いとも容易く蹴落とされる。
流されてしまいたい。
恋して、やぶれて、忘れたくて。
縋りたくなくて手を離そうとしても、
いっそ壊れようと貴方に想いを伝えようとしても、
全て怖くて、落とせないまま過ごしてしまう。
シャワーを何度も何度も浴びて流そうとした。
でも流れなかった。泡なんかじゃなかった。
今だけは、恋心が儚いなんて嘘だと思う。
許しを得てなんかいないのに、
もう私に何にもしてくれやしないのに、
図々しく居座って流されずにずっと留まっている。
飲みこんではいけないのならば、
シャンプーやリンスみたいに注意書きに書いておいてよ。
貴方への想いを一個ずつ、カラフルな容器に入った
しゃぼん玉の液に溶かしてしまいたい。
大好きを溶かしたしゃぼん液の膨らみが、全部割れて
宙に消えてしまえば、きっと楽になるから。
「泡になりたい」 白米おこめ