白米おこめ

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10/11/2025, 4:03:59 AM

一輪のコスモス。
やさしいひと。
あなたみたいだと思ったことはなくても、
あなたを象徴する花であると思う。
花瓶にいれるのは似合わなくて、
そっと、ひろい平原のどこかに、
真ん中ではなくて、端っこすぎるところではない、
陽の光のよくあたる風通しの良い場所へ、
そっと咲いていて欲しい。
写真にとるのも烏滸がましく、
そっとただ見つめて、スケッチをするくらいの距離感で。
風に揺れるその姿を見ているだけで、
私は小さく、息ができる。

「一輪のコスモス」

10/6/2025, 11:38:45 AM

ぱちぱちと、火花が散っている。
爆ぜる木の葉の、その燃えた香りが懐かしくて。

あなたの持つ線香花火の行く先を見るふりをして、
指先を辿り、その奥のあなたの顔をそっと眺めている。
夜に溶けこむように花火の茜色が頰に反射して、
まるで恋しているようにあたたかく染めあげる。

あなたの隣に誰もいなければよかったのに。
そうしたら、わたしが隣にいたって、
あなたはわたしをただ優しいだけだと思ってくれたのに。


私の火種は、ただ火種のまま燻って、はたと落ちた。
あなたは、ぱちぱちと華を咲かせてゆく。
知らない誰かに笑いかけるように、
悲しいほど美しく、鮮やかに火の粉が舞う。

いっそのこと、あなたの花火で火傷させて欲しかった。
近づきすぎた自分に、戒めが欲しかった。



あなたの線香花火の火種が、ぽとりと落ちた。
もう終わったのに、その火種は
枯れ落ちた葉を柔らかく燻らせていく。
じわりと燃え広がって、ゆっくりと、冷めないままで。


溶けた蝋は戻らず、使い終わった花火は棄てるだけ。

はじけるような恋は、あなたの手の中にだけ。

燃やし尽くせなかった灰のような想いが、
私の中にただ、残っている。

「燃える葉」 白米おこめ

8/26/2025, 6:28:40 PM

私はいつか、ウユニ塩湖に誰かと2人きりで行きたい。
あの壮大で、人がちっぽけに感じられるような所に、
「世界にこの人さえ居れば良い」と思えるような人と
一緒に行きたい。

感嘆の息を漏らすだけで、何も言えない私の隣を、
同じように何も言えないまま立ちすくむようなひと。
そっと、指先を握っても許してくれるひと。

私が一緒にいきたいの、あなただったかも。
そっと微笑んで、言えてしまったらどんなに楽か。

2人きりじゃなくたって、いつか行けたのならば。
一瞬だけでも話せるその空間だけを切り取って、
私ずっとあなたを好きでいられる気がする。

素足のままで浸っていたいだけ。
あなたへの愛に。

「素足のままで」 白米おこめ

8/25/2025, 5:17:51 PM

もう一歩だけなら、踏み越えてもいいかな。
線は見えてるの。ちくちくした有刺鉄線の線が。
“越えてはいけないよ”と、誰かの声がするの。
ずっと憧れている、大好きな誰かの声がするの。

でも、あとちょっとだけ進んでもいいかな。
もう一歩だけなら。

私、分かってるつもりなの。
白線から外に出てしまったら、
アスファルトには人喰いザメが泳いでいるの。
線は目の前にあるの。
触ったら焼けるような熱いレーザーの線が。

信号機はずっとひまわりのように光っている。
止まるべきで、でも、止まらなくたって咎められない色。
だから迷ってしまう。基礎的な性善説に
当てはまってしまう前に、動いてしまいたい。
ちかちかと点滅する黄色を進んだところで、その先に
何もないことも、それが危ないこともしってるけど。
私が後悔するのも、彼を傷つけるのも分かっているけど。

だから私、ここで止まっているの。
変わらない信号機の点滅を体育座りでずっと数えているの。

だから、暇だから考えてしまうだけなんだって。
熱いレーザーを帽子で避けて、
海へ落ちないように白線の上を進んで、
ずっと大好きなあの人に会って、
有刺鉄線さえ抜けられるのならばどんなに良いかって。

赤になりきれず青にもなれない、優柔不断な向日葵の黄色。
“貴方だけを見つめる”なんて、そんなの馬鹿みたいだよね。

でも、ここはやっぱり暗いから。
もう一歩だけなら、許される気がするの。
貴方に近づきたい、私を許して。

「もう一歩だけ、」 白米おこめ

8/24/2025, 6:09:30 PM

見知らぬ街に行ったって構わない。
私が知っている人がいなくたって、
私を知っている人もいなくなって、
誰も彼も分からなくたって構わない。

その時にただ一つ未練があるとすれば、
貴方の家の郵便番号を知らないことだけ。
私が引っ越した先で、貴方に手紙を送れないことだけ。

私は見知らぬ街に行ったって構わない。
貴方が、私を忘れない限り。
それ以外は、全部変わったって生きていけるから。

「見知らぬ街」 白米おこめ

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