白米おこめ

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公衆電話の受話器が、するりと手から抜け落ちた。
くるくると巻かれたコードが伸びて、
壁にカツンとぶつかっては上へ横へと飛び跳ねる。
その動く緑を見つめながら、俺は後退りをする。
受話器を拾えない。拾いたくない。もし、拾ったら。
背中が固く冷たい壁に当たる。
狭い狭い、公衆電話のボックス。
手で押せば外へ出られるのに、俺はひっくり返った受話器のその粒々とした穴から目が離せず、ただただ壁に背中を押し付ける。

自分が押す前に、ボタンがひとりでに凹んだ。
かち、かち、と確かめるように押されていった。

先に入れておいた10円が落ちる音がして、無機質なオレンジの画面に⑩が表示される。ああ、ああ、何処につながったというのだ?

誰かが呼んでいる。呼び鈴がなっている。
電話の向こうから。遠くで鳴る掠れた音質。
いや、違う。もっと近くから、まるでそう、
自分の携帯から鳴っている、ような。

はは、と笑ってスマホを耳に当てれば、そう、
自分とそっくりの声が、俺に誰だと聞いてきたんだ。

「Ring Ring…」 白米おこめ

1/8/2025, 2:46:36 PM