白米おこめ

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12/8/2024, 1:34:58 PM

部屋の片隅に立つ、
貴方のそばに近づく度に心臓が高鳴っていく。
Andante, Andantino, Allegro, Presto.
一歩ずつ、一歩ずつ。
目が合わせられず、ただ貴方の顔をちらりと見ては
目を外して、忙しなくその視界を泳がせて。

まるで自分の眼がレンズになったようだった。
眼の中で動画が流れているような、流れる映像の“枠”が
ないことの違和感だけがずっと残るような。

信じられなくて、夢のようで、よく分からない。

握った手は細く、冷たく、大きくて。
私の着けている指輪が彼の手の肉と私の手の肉で挟まれた、
その感覚だけが現実にあった。
それ以外は全て、幻のようだった。
手を離してすり抜けていくその感覚一つですら、
霧のようだった。

それは部屋の片隅であった話。
内緒話のような触れ合い。ささやかで小さなFermate.

部屋の片隅から離れていく。

andante,and.

「部屋の片隅で」 白米おこめ(遅刻)

geschmackvoll!

12/6/2024, 10:30:11 PM

つんのめって逆さまに落っこちた後。
頭上に広がる蒼の中で、
鰯の群れは優雅に泳いでいた。

横を見れば、沢山のガラスのその奥に
私を見つめる人の姿が見える。
通過列車のような速度で、断続的に見える目。

数十メートルの水槽の中に投げ入れられた鰯。
群れから逸れた鰯。可哀想な鰯。

昼放課は餌やりの時間。
空の鰯の群れにもなれず、
冷たいコンクリートに食べられる迄。

「逆さま」 白米おこめ

12/4/2024, 10:31:23 PM

“日記をつける”というと、
夢日記と、現実の日記の二つがある。

でも、両方つけている人っているんだろうか。
面倒くさいからかもしれないけど、
無意識に人は「どちらが大切なのか」を
考えて、どちらかを切り捨てているのかもしれない。

このアプリは、夢をかける現実の日記。
なんて良いものを手に入れたんでしょうね、私たちは。

「夢と現実」 白米おこめ

12/4/2024, 2:32:30 PM

通勤時に見た、ふたり並んで登校する高校生に
学生時代の自分と彼女の姿を空目した。

君と並んで歩いた時間。
しがらみから解放されて、ただの人となって、
好きな事だけを話せる時間。
駅から学校まで、行きで15分。
帰りは、ちょっとゆっくり歩いて20分。
幸せな時間を挙げるとしたら、
多分こういう時間なんだろうな、と今になって思う。

たまに走って、息を切らしながら乗り込んだり。
目の前で電車を逃して、
駅のベンチでまた次の電車を待つまで喋ったり。
…話し足りないから、早足でも間に合うような電車を
わざと見送ったりして。
いつだって私達は、遮断機が降りる音を聴きながら
電車の音にかき消されないように話していた。

反対方向の電車に乗る君が、電車が来てから、
向こうのホームに行くまでのその数分。

その時間が、数分なのに、惜しい。
今の私にはもう、二度とない時間。
だから、今朝見た学生達のように、
私達がまたあの時に戻れたのならば。

私はきっと、彼女の袖を引っ張って、
最後の電車を乗り過ごすんだ。
もう二度とない時間を、もう少しだけ、温めるために。


「さよならは言わないで」 白米おこめ(遅刻)

12/2/2024, 12:28:56 PM

むぎゅ。

眩しさに目をつむる音。
眩しさに抱きしめられる音。

そうやって光に包まれている時、
後ろからは影がそっと自分の背中を支えてくれている。

目が灼かれないように、
闇がそっと目の中の色を消してくれている。

光と闇。真逆のようでいて、隣り合う存在。
どちらか一方だけでは成り立たない。存在しえない。
その確約された存在の狭間で、私達は生きている。

産まれたその時から、分娩室のライトに照らされて、
母の胎に影を落としている。
そうやって生きて、死して尚、ろうそくの光に照らされて、
骨壷や墓標からずっと影を落とし続ける。

光だけでは影を生み出せず、影だけでは光を生み出せない。
狭間に何かが、
私達がいるからこそ光と闇は共存できるのだ。


光と闇。それと私たちは、共依存である。

光と闇の狭間で、私たちは存在を維持している。


「光と闇の狭間」 白米おこめ(加筆)

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