あなたとの距離が近づく度に、
怖くて離れる僕を許してください。
遠くで見つめるくせして、目が合うと
何でもないふりをしてしまう僕を見ないでください。
近づきたいくせに、勇気がなくて
ちっぽけな一歩も踏み出せない僕に気づかないでください。
お願いだから、そんなに近づかないで。
僕は、あなたが近くにいるともうどうしようもないんです。
だから後ろに下がるしか、方法がなくて。
そうやっていつも逃げていたら、
気づかないままあなたと背がぶつかってしまって。
固まる僕に近づいたその距離の分だけ、
また彼女のことを好きになってしまったんだ。
「距離」 白米おこめ
あなたの目尻をそっと舐める犬。
「泣かないで」 白米おこめ
悴む指先で、自販機のボタンを押して、
あたたかい飲み物を取り出す、その瞬間。
「冬のはじまり」 白米おこめ
コンポタはじっくりコトコト派。
さよならは、頬を撫でるその手つきで分かったの。
離れがたさを含んで、いっとう優しく撫でていたの。
私は微睡の中で、生ぬるい優しさの中で、
ひとつ泣いていたの。
あなたは私よりもずっと泣いていたから、
気づかなかったのでしょうけど。
私とあなたの涙のペトリコール。
さよならを言えないまま逢えなくなったって、
別に構わないの。
私はずっと好きなのだから。
だから、どうか、あなたの人生を。
「終わらせないで」 白米おこめ
一口に“愛情”と言えど、
それは姿かたち、色、匂い、味でさえもバラバラであり、
またそれを食す人によっても感じ方が変わる、
摩訶不思議な感情なのである。
誰かに嫌いだと言われた時に、
自分は好きだよと言えることと、
自分も嫌いだよと言えること。
言うなれば、どちらも愛情だと捉えることができる。
…愛の反対は、嫌悪ではなく無関心だという話がある。
言葉を返してくれるのならば、
そこには一種の愛が消費されている。
こちらに伝えたい訳ではなく、伝わることもなく、
会話をするために必要な最低限のコストのような愛。
私達は日々誰かの為に愛を消費して、
そして他者からの愛に口を付けながら、
血液の循環のように、身体中に張り巡らされた愛情の管を
満たして生きているのだ。
「愛情」 白米おこめ