白米おこめ

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部屋の片隅に立つ、
貴方のそばに近づく度に心臓が高鳴っていく。
Andante, Andantino, Allegro, Presto.
一歩ずつ、一歩ずつ。
目が合わせられず、ただ貴方の顔をちらりと見ては
目を外して、忙しなくその視界を泳がせて。

まるで自分の眼がレンズになったようだった。
眼の中で動画が流れているような、流れる映像の“枠”が
ないことの違和感だけがずっと残るような。

信じられなくて、夢のようで、よく分からない。

握った手は細く、冷たく、大きくて。
私の着けている指輪が彼の手の肉と私の手の肉で挟まれた、
その感覚だけが現実にあった。
それ以外は全て、幻のようだった。
手を離してすり抜けていくその感覚一つですら、
霧のようだった。

それは部屋の片隅であった話。
内緒話のような触れ合い。ささやかで小さなFermate.

部屋の片隅から離れていく。

andante,and.

「部屋の片隅で」 白米おこめ(遅刻)

geschmackvoll!

12/8/2024, 1:34:58 PM