白米おこめ

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10/28/2024, 9:51:18 AM

ある日、夕食の終わり時。
お皿洗いの最中に、紅茶の香りが鼻をくすぐり、
私はふと窓の外を見た。

窓の外から、風に乗ってその香りがした。

かちゃりと、洗い流した真白い皿を立てかけて。
泡のついたものは放ったまま、
ベランダのテラスドアに手をかけた。

からからと外へ出ると、ふわりと。
紅茶の香りが、夜の冷えた空気に纏っている。

お隣さんの電気は消えていた。
下を覗き込んでも、ただ黙った草木が揺らぐだけ。

ここにあるのは、遠くのお月様と、小さな星々。
私はふと気になって、部屋の奥の、引き出しの更に奥から、
埃を被った望遠鏡を取り出した。

軽く払って、狭いベランダで三脚を立てて。
屈んでレンズを覗き込んで、月を探す。
光のある方へ。上へ、上へ。

ぱっと目の前が白く光って、ピントを合わせると。
月の光だと思ったものは、
ふわふわとした毛並みに変わって。


そう、一匹のうさぎが、紅茶を飲んでいた。


…と、思ったが、もう一匹うさぎがいた。
何やら慌てて飛び回っている。

布巾を持って、小さなクレーターの周りを
あちこち拭いている。


「零したのかな」


ああ、だから。

「だから紅茶の香りがするのね」




『紅茶の香り』白米おこめ(改変)

10/22/2024, 6:29:01 PM

貴方の声に、恋をした。
始まりはきっとそうだった。

優しくて落ち着く、貴方の声が好き。
表情や行動が冷たくたって、
声を聞けば照れ隠しだとすぐに分かる声が。

私、貴方の声が聞きたくて、ずっと隣で過ごしていた。
そうしたら、貴方と手を繋いで過ごす時間が好きになった。

貴方の声が聞きたくて、貴方の部屋に押しかけて。
そうしたら、貴方と一緒に暮らすことになった。


私、貴方とずっと一緒に居たいと思ったの。


時が経って、私と貴方の手が、皺のせいで
ぴったりと重ならなくなっても。

貴方に会うために、
病室の番号を覚えなければならなくなっても。

たとえ、吐く声が言葉を紡げずに、
唇さえも酸素マスクに覆われようとも。

私達、声が枯れるまで、愛し続けよう。

「声が枯れるまで」 白米おこめ(遅刻)

10/20/2024, 3:11:56 PM

 文章の始まりはいつも、一マス空ける。
それって、何でだろう。
ちょっと、奥ゆかしさを出すというか。
一歩引くことで「今から始まりますよ」っていうのを
伝えてるのかも。
読んでいる人が、読むぞ、っていう切り替えができるように
っていう、配慮なのかも。

調べれば出てくるのかもしれないけど、
まずは自分で勝手に考えてみる。
絶対に違うだろう、絵本の中のような理由。
それを想像できる自分の単語の蓄積。

なんだかんだ、まぁ、悪くないと思うんだ。

「始まりはいつも」 白米おこめ

10/16/2024, 1:04:58 PM

やわらかな光が瞼に注ぐ。
うっすらと目を開けて、天井に焦点を合わせていく。
そのまま視線だけをずらして、
僕はぼんやりとカーテンを見つめた。

扇風機の首振りに合わせて、
隙間から漏れる日差しが揺れている。
毛布の小さな隙間から、温もりが逃げていく。
閉じ込めるようにもう一度深く被り直して、
深く、ため息のように息を吐いた。

眩しい、と。
勝手にカーテンを閉める君がいないこと。

二度寝を誘う声がないこと。

毛布の隙間を埋める、温もりがないこと。


やわらかな陽射しは、あの頃の彼女のようで。
僕は彼女に会うために、そっと、瞼を閉じた。

閉じたせいで溢れてしまった涙が、頬を伝って耳へ落ちる。
その冷たい感触が、彼女の触れる指先の温度に似ていて、
どうしようもなくなった。



やわらかな陽射しが、閉じた瞼を追いかける。
眩しいだろうから、目を開けたくない。
どうかこのまま、沈むように眠らせてほしい。
もう一度目を覚ました時、
君の指先の温度を思い出すものが
涙じゃなくて、やわらかな陽の光になるように。


「やわらかな光」 白米おこめ

10/15/2024, 12:40:22 PM

 「で、誰のことが好きなの」って、それ、そんな鋭い眼差しで言う言葉じゃないと思う。2月にチョコを持って彷徨いてた私が悪いかもしれないけど、これ自分用なんです。いや信じて。どんどん鋭く機嫌悪くなる目つき。違うんです、席替えしたばっかりだから前の自分の席に行っちゃっただけで、それで慌てて戻ろうとしたから挙動不審になっただけで。このチョコは誰のものでもない自由のチョコなんです。そもそも、市販の安物のチョコそのままだし。流石の私でも、人にあげるってなったらもうちょっとちゃんとしたの渡すと思う。意中の相手なら、尚更。

というか今日13日じゃん。冬とはいえ、チョコを一日前から机にスタンバイさせるのは良くないんじゃない?…と、ここまで言って、やっと彼の説得に成功した。もはやドラマの尋問する警官みたいな顔してたよマジで。もうちょっとでカツ丼たべれるかと思った。

「…じゃあさ」

若干反省というか、寂しそうな顔をしている
彼が口を開いた。

「そのチョコ、明日俺に渡して」

え、と声が先に出た。食べるなよ、とだけ言ってそそくさと出て行った後のドアをポカンと見つめる。手のひらに残るのはもう食べれなくなったチョコレート。陳腐ななぞなぞの答えのようだ。…とにかく、この安物チョコレートをなんとか包装できる代物を、今日中に用意しなければならない。人にあげるとなると、ちゃんとした物に仕上げるべきだ。

そう、意中の相手なら、尚更。



お題「鋭い眼差し」 白米おこめ

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