高く高く舞い上がるしゃぼん玉を見ている。
巻き上がる風に乗って、
あの歌のように屋根まで飛ぶだろうか。
太陽の光に目が眩んで、薄い輪郭が見えなくなる。
球体のプリズム。虹色を初めて教えてくれたきみ。
どうか壊れないで、僕のもとに戻ってきて。
これは恋のおまじないなのだから。
シャボン液に口付けた苦いキスを、きみに。
「高く高く」 白米おこめ
放課というのは、地域によって表している時間が違うそうだ。私は放課後といえば授業が終わった後の時間のことなのだが、他の地域の人と同じなのだろうか。あんまり詳しく言うと住んでいるところがバレそうだから、この辺でやめておくけれど。
夕暮れが差し込む窓際から、蝉の声が聞こえる。蝉という生き物は大抵が五月蝿くて嫌になるが、ヒグラシだけは別だろう。カナカナと優しめの声が響くところに風情を感じるのは、他の蝉達にはあまり面白くないことだろうけれど。まぁ、夏を感じさせるといえばそうなのだが、いかんせん暑さを倍増させるような声だからいけないのだ。いきなり飛ぶのも。
階段を下る。一つ段を降りるごとにリュックが揺れて、中の教科書が動く音がした。テスト週間に入ろうとしている今、教科書の持ち帰りでリュックはパンパンに膨らんでいる。歩くたびに肩にのしかかるものだからたまらない。下駄箱から学校規定の白い運動靴を出して、少し土を落としてから履く。山へ帰る途中なのか、カラスが鳴いている。いつも通り、なんてことない帰り道だ。田んぼの上を飛び回る赤とんぼも、キィキィ音がする古い自転車も。
ただ、彼が居ないだけ。
下駄箱の靴がずっと無いのも、上履きすらも片されているのも。カラスが鳴いたら絶対に空を見上げて探す横顔も、とんぼが止まらないかと指を差しながら歩く姿も。
二人乗りをしてから変な音が鳴るようになった自転車もそのままで。ただ、彼が居ないだけ。他の蝉がいなくなっても、ヒグラシが変わらずに鳴いているのと同じように。夏が終わることを告げるために、わたしたちは変わらずに生きて、ないている。
「放課後」 白米おこめ