「あなたとすごしーたひーびを、このむねにやきーつけーよう」
夏の入道雲が際立つ暑い日。
雷雨になるかな、なんて呑気なことを考えながらアイスを齧る。
夏になるとこの歌を歌いたくなるのは私だけじゃないはず。
“凄い夏、って感じの事してるね”
傑だったらきっとこの季節にこの歌を賛同してくれるはず。
悟はお坊ちゃんだから金ローとか観て育ってない。
なんて1人で木陰に座ってアイスを食べ切る。それでも暑さは逃れられなくて頬に汗が流れるのが分かる。
去年の夏は傑も居たのに。皆でアイスを食べたり、お祭り行ったりしたのに。傑は射的が上手かったな。悟は初めての綿飴に興味深々だったし、硝子は手一杯に食べ物持ってたし。
「楽しかったな…」
今頃、傑は何してるかな。
時々でいいから私たちのこと、思い出してくれてるといいな。
まだ心の整理はついてないけど入道雲を眺めながら去年のことを思い出した。
-入道雲-
ジリジリと日差しが肌を焼く。
日焼け止めを塗ったとしても毎年焼けてしまうのが不思議で悔しい。
「あっつー」
天気がいいからとテラス席にしたのは失敗だなと氷のグラスに注がれたサイダーを一口飲む。
喉でパチパチと弾ける感じが堪らないし気温も相俟ってより一層美味しく感じた。今日の休みをどう過ごすか考えていたら向かいの席に見慣れた赤髪の彼が腰掛ける。
「お疲れさん、と」
「レノ!今から任務?」
彼はウエイターに注文をすると体をこちらに向ける。
「いーや、今日はオフだぞ、と」
確かによく見ればいつものスーツではない。
私服から覗く腕や足は日焼けなどしておらず綺麗な肌だ。
「レノって日焼け止めとか塗るタイプ?」
「あ?んなの使った事ないぞ、と」
運ばれて来たカクテルを飲みがら聞く衝撃的な事実にさっきまでサイダーで気分が上がっていたのが急降下だ。
「う、そでしょ。塗らないでその色白を保ってるの…信じられない。」
ガクリと肩を落とすとそれを見たレノが私の姿を上から下まで見る。
「俺は少し小麦肌位がちょうどいいと思うぞ、と」
いうが先が行動が先か、レノは肌が少し見えてる私の腕をツツっとなぞって来た。
「ぴぇッ」
ビクッと肩が跳ねたのに気をよくしたのか口角を上げ満足そうにこちらを見つめる。
「ほー、可愛い反応するな」
「突然揶揄わないでよ!もう…恥ずかしい」
その場を誤魔化すように、私は結露したグラスを持ってサイダーを一気に飲み干した。
ジリジリ焼けるのは肌かそれとも恋心か
-夏-
「ねぇ、アクセル」
「ん?」
「もしあの月が完成して、心を手に入れて、この機関も無くなって、自由になったとしたら…行きたいところとかある?」
あるかどうかも分からない未来の話。
「そうだな…美味いもん食べに行くのもいいし、景色が綺麗なところでのんびりするのもありだな」
考えながらあれこれ候補が出てくるアクセル。その未来の話は希望と一緒に私の胸を苦しめる。今は遂行する任務があって一緒にいられるけれど、もしそれが無くなったら…もう一緒に居る理由がない。
「お前はどうしたい?」
「んーそうだな」
自分で聞いておきながら上手い返事は見つからない。
「なんもねぇのか?」
「うん、いざ自由になったらどうしたらいいかいいか分からない、かな」
私の返事を聞くと暫く考え込むアクセル。
「それなら自由になってから決めたって遅くない。一緒に色んな世界にいってお前のやりたい事、行きたいとこ、見つけようぜ」
「…一緒に?」
「そうだ。1人より2人のが楽しいだろ。勿論、ロクサスだって誘えば付き合ってくれるぜきっと。」
私といるのが当たり前のように話してくるアクセルに胸の辺りがギュッとなる。苦しいけど、嬉しい。
「ふふ、アクセルがいればどこへ行っても楽しそう」
「そうか?でも俺も、お前がいるならどこにでも行ける気がするな」
「じゃあ色んなところ連れて行ってね。約束。」
「あぁ、記憶したぞ、と」
いつもの夕焼け空の時計塔、小さな未来の話をした。
-ここではないどこか-
「……いつまでさがしてるんだぞ、と」
任務の帰り道、いつも彼を探す。
「分からない。どこで区切りをつければ良いのか…どうすれば良いか、分からないの。」
彼に会ったら話したいことが沢山ある。
エアリスと花を売ったこと。
任務で失敗したこと。
レノとルードが喧嘩したこと。
“俺が帰ってきたらさ、キミしか知らない事、沢山教えてよ”
なんて言っていなくなった彼。
あの日が最後だなんて思っても見なかった。
「エアリスだって毎日のように手紙書いててさ、預かってるのに…まだ渡せてない」
「…それは、もうどうしようもないんだぞ、と」
「レノは…もし私が居なくなってもう探すのはやめろって言われたら…辞めちゃう?」
自分でもずるい聞き方だなと思う。
「まぁ、無理だろうな」
私の隣に並び、周りを険しい顔で見るレノ。
「だから毎回付き合ってるんだぞ、と」
「…ありがとう」
「見つかったら臨時手当、貰わないとな」
探索した目印に祈りをのせて私たちはその場を後にした。
-君と最後に会った日-
「レノ見て。エアリスからお花貰った!」
「対象と仲良くなってんじゃないぞ、と」
「別にいいじゃない。私は今日休みだもの」
手に抱えてるのは教会に咲いている花だろう。
花を見ながら嬉しそうにしている姿は年相応にみえる。
「それなら文句もいねぇな」
プライベートは仕事と分けているのは俺もこいつも同じだ。
「教会で花が咲いている所に日の光がさしてるの本当に綺麗。神秘的だなって思う。」
勝手にオフィスに花を飾りながらそんなことを言う。
「でも床がボロボロだぞ、と」
女ならもっと綺麗なところが好きそうだけどな。
「でも周りが静かでね。鳥の囀りとかも聞こえてさ。時間がゆっくりに感じるの。あそこ、結構好きなんだ。今度の休みレノも行こうよ」
そういって笑いかけてくる姿がどこの花より綺麗だと思う俺はもう手遅れなのかもしれない。
-繊細な花-