彼が私を傷つけるような言葉を言ったら。
そうして溢れた私の涙が、彼の心に突き刺さったら。
それはどんなに良いだろう。
気にしてほしい。
私の事を、深くまで知って。
表面は、嫌ってほしい。
でも、私の心は愛してほしい。
一緒に帰って、一緒に笑って、そのうち手もつないで。
それでも、外では、「私と一緒にいるのが恥ずかしいから」って、距離をとってほしい。
誰にでも完璧な彼の、心の内を見せてほしい。
私にだけ、「汚い感情」を見せてほしい。
全てぶちまけてほしい。
それから、全部理解して、その上で、彼の本心で、「愛してる」って聞けたら。
それはどんなに良いだろう。
祈りの果て
その昔、地上にも天使がいた。
天使は、とても美しい羽を持っている。
夜になれば、全てのものを吸収してしまいそうな、真っ黒な羽を。
朝になれば、全てのものを跳ね返してしまいそうな、真っ白な羽を背中に生やした。
愚かにも人々は、天使を捕まえて、その羽を一目見ようと躍起になった。
しかし当然、天使が人間の好きにされるわけもなく。
各地でポツポツと目撃情報はあがっても、決して人間が触れることは叶わなかった。
やがて、天使の話題が収まった頃。
一人の天使が、天に帰ろうとしているところ、強烈な眠気に襲われた。
天使はふらめく。
そうしてゆっくりと、地面に足をつけた。
何時間か経った頃、天使は目を覚ました。
どうやら寝てしまっていたらしい。
目の前には、大勢の人。
いや、その前に、鉄格子が見えた。
天使は捕らえられてしまったのだ。
人々は口々に言う。
「素晴らしい。」
「美しい。」
「真っ白だ。」
そこに、仕切り役のような人物が声をはった。
「順番に並んでください!今、檻をどかしますから。」
人は続々と列に並ぶ。
ゆうに百は超えるだろうか。
先頭の数名は、いまだ一番を取り合っている。
仕切り役が合図を送ると、重たい音を立てながら、鉄格子があがり、もう天使と人とを遮るものは何もない。
先頭の座を勝ち取った人間がゆっくりと前へ進んだ。
仕切り役が言う。
「一人、一本ですから。」
天使の背中に、焼かれるような痛みが走った。
人間の手には天使の羽根。
天使は転がり、悶えている。
何十回目か。
天使の美しかった羽の片側は完全にむしり取られていた。
天使は人間の数百倍の回復力をもつ。
それが、天使に生き地獄を味あわせていた。
もはや、息をしているかすら分からない。
ひたすら背中の羽をむしられ続ける。
天使は、限界を迎えていた。
天使の羽が、数秒真っ黒に変わる。
人々は息を呑んだ。
天使の羽が元の色に戻る時には、天使の息は尽きていた。
天使から抜いた羽根は色を失う。
天使の背中に生えている羽も、抜けば色を失った。
それならばと、天使ごと展示しようとしたが、時間が立つにつれて、天使のからだは薄くなり、最後には感触すらも消えてしまったと言う。
透明な羽根
「こんにちは。
突然ごめんなさい。
貴方から何の連絡もないので、今こうして、手紙を書いています。
最近、寒くなってきましたね。
そちらは、どんな景色になったのでしょうか。
良ければ、写真を送ってください。
どんな形でも構いませんから。
もうすぐ貴方と別れて、一年経ちます。
英語には慣れましたか?
毎日楽しいでしょうか。
物騒なニュースも見ますから、どうか、気を付けてください。
去年、来月には帰ると言っていましたが、実際帰れそうですか?
心待ちにしております。
ですからどうか、この手紙を開いたのなら、返事を書いて欲しいのです。
私は、貴方が心配です。
追記
Is the address correct?
If it's incorrect, please send it to the address below.
○○○○○○○○□□○○」
「Hello.
The address is probably correct, but the person who used to live here no longer resides here, so I am returning this letter.
I'm going to write something a little inappropriate, so please read carefully.
... Is that alright?
... The person who used to live here apparently passed away about three months ago.
I heard it from the landlord.
If you'd like, please send another letter.
I'll be lonely for a while.」
「Thank you so much for explaining the reasons so carefully.
And I also appreciate your kind consideration.
It's true that I'm filled with complex emotions right now.
However, I don't think it's right for me to rely on you.
I haven't fully come to terms with the reality yet, but I will do my best to move forward.
Please continue to support me.
I sincerely wish you happiness.」
凍える朝
【小さい頃から、絵を描くのが好きだった。】
目の前に、彼女が立っていた。
人通りの少ない歩道の真ん中に、数年前に見て以降、一度も見なかった彼女が。
【君も、褒めてくれたよね。】
〈君〉という呼び方が鼻についた。
【それで、話すようになった。】
心臓が、煩い。
【いつの間に、唯一無二の親友になってた。】
吐きそうなほど、頭の中が、グワングワンと揺れていた。
【いつからだっけ?】
彼女がこちらに近づく。
息がかかりそうなほど、まつげがあたりそうなほど、いつのまにか近くにいた。
【君が私をいじめ始めたのは。】
彼女は、少し楽しそうだった。
【ねぇ、理由を聞きたいの。】
甘ったるい声が、耳をなぞる。
そのまま、耳の中に、こびりつきそうだった。
光と影
世界は素晴らしい。
なぜなら、こんなにも綺麗なのだから。
綺麗は正義だ。
綺麗は無二だ。
綺麗なものは、つねに人の心を揺さぶってきた。
それがどんなものであれ、人々は美を求めた。
どんな犠牲があっても、そんなもの、知ったこっちゃない。
なぜなら、…言っただろ?
綺麗が正義だからだ。
それが全てさ。
綺麗なものを誰よりも綺麗な角度からみようとする。
もっと、もっと。
優越感を覚え、背徳感をすする。
世界は素晴らしい!
素晴らしい!
なぜなら、…そうさ綺麗だから!
自ら命を投げ出すのは、この世界の「綺麗」を見つけられなかったから。
それでも、思考が絶えると、それを美しいと話すやつは必ずいる。
どんな人でも、この世界の「綺麗」だが、それを見出すのも、誰かに見入られた人なのだ。
人は支え合って生きている。
自ら命を投げ出すのは、人の「綺麗」が、心に届かなかった人なのだ。
カラスは綺麗だ。
そう、とても、どこもかしこも愛おしい。
カラスは、光るものを集める習性がある。
物事のはじまりは、興味。
ひいては、綺麗から始まるのかもしれない。
揺れる羽根