その昔、地上にも天使がいた。
天使は、とても美しい羽を持っている。
夜になれば、全てのものを吸収してしまいそうな、真っ黒な羽を。
朝になれば、全てのものを跳ね返してしまいそうな、真っ白な羽を背中に生やした。
愚かにも人々は、天使を捕まえて、その羽を一目見ようと躍起になった。
しかし当然、天使が人間の好きにされるわけもなく。
各地でポツポツと目撃情報はあがっても、決して人間が触れることは叶わなかった。
やがて、天使の話題が収まった頃。
一人の天使が、天に帰ろうとしているところ、強烈な眠気に襲われた。
天使はふらめく。
そうしてゆっくりと、地面に足をつけた。
何時間か経った頃、天使は目を覚ました。
どうやら寝てしまっていたらしい。
目の前には、大勢の人。
いや、その前に、鉄格子が見えた。
天使は捕らえられてしまったのだ。
人々は口々に言う。
「素晴らしい。」
「美しい。」
「真っ白だ。」
そこに、仕切り役のような人物が声をはった。
「順番に並んでください!今、檻をどかしますから。」
人は続々と列に並ぶ。
ゆうに百は超えるだろうか。
先頭の数名は、いまだ一番を取り合っている。
仕切り役が合図を送ると、重たい音を立てながら、鉄格子があがり、もう天使と人とを遮るものは何もない。
先頭の座を勝ち取った人間がゆっくりと前へ進んだ。
仕切り役が言う。
「一人、一本ですから。」
天使の背中に、焼かれるような痛みが走った。
人間の手には天使の羽根。
天使は転がり、悶えている。
何十回目か。
天使の美しかった羽の片側は完全にむしり取られていた。
天使は人間の数百倍の回復力をもつ。
それが、天使に生き地獄を味あわせていた。
もはや、息をしているかすら分からない。
ひたすら背中の羽をむしられ続ける。
天使は、限界を迎えていた。
天使の羽が、数秒真っ黒に変わる。
人々は息を呑んだ。
天使の羽が元の色に戻る時には、天使の息は尽きていた。
天使から抜いた羽根は色を失う。
天使の背中に生えている羽も、抜けば色を失った。
それならばと、天使ごと展示しようとしたが、時間が立つにつれて、天使のからだは薄くなり、最後には感触すらも消えてしまったと言う。
透明な羽根
11/8/2025, 1:16:05 PM