No.31:cute!
僕の恋人はとっても可愛い
いつもはそう言うと右ストレートが飛んでくるから高頻度では言えないけれど。
溢れちゃうと自然と口から出てしまうし
殴る時も耳が真っ赤なのを知っているから、僕にしてみれば痛みなんてツンデレで可愛いな〜に変換されるのだが
「ん、ん〜...」
...そんなツンデレが可愛い恋人は、僕の膝で疲れと酒に沈むまま、ツンデレのデレを発揮していた
酔って赤らんだ頬
暑い、なんて言って少しはだけさせた服装
+眠気によってトロリと潤んだ瞳
...ハッキリ言って、理性を保ててる僕に感謝して欲しい。
と言うかプッツンしそう、なんなのこの可愛い生き物
「ん...□□?」
「?どーしたの?もう寝るの?」
「ん〜...や、...□□...褒めろ...」
おや、今日はどうやら褒めて褒めてデーらしい
仕事とかストレスが限界突破するとよく発動する甘えたデー。
こういう時はめいいっぱい甘やかして、褒めてあげなくてはならない。
「△△は凄いねぇ、何時もお仕事頑張って、今日も交渉上手く出来たんでしょ?偉いねぇ」
そう言いながら頭を撫でると、嬉しそうに手に擦り寄って来るのが可愛くて、ずーっと撫でていたくなってしまう。
「んふ、もっと褒めろ...」
「ふふ、△△可愛〜い♡」
「?可愛いの?」
「うん、可愛いの♡」
「くふ、そっかぁ」
え、何この生き物可愛い(2度目)
うーん...うーん...よし
__プツッ
「今日はここまで、△△の可愛い所、ちょっと見せたから良いでしょ?」
「ここからは、二人きりで楽しみたいから♡」
「それじゃ、またね」
No.30:記録
忘れられない様に、どんなに正確に綴っても
必ず綻びが生まれて、間違った情報が伝わっていく
書かれた文面をなぞりながら、私はひしひしとそれを感じていた。
彼はこんなに謙遜者じゃなくて、もっと自信家だったし
苦い珈琲より、甘いココアが好きだった。
ここはあってる、ここもあってる。
でもここが違う。ここも、ここも違う。
私の知ってる自信家で、甘いもの好きな勇者じゃなくて、優しくて、しっかりした、力強い勇者しかいなかった
本物の彼は、もう私の中にしかいないんだね
少し優越感を感じると思っていたのに
綺麗な勇者像を指摘して、違うよなんて笑ってやるつもりだったのに
私はいつの間にか、頬を濡らしていた
No.29:さぁ冒険だ
「ね、僕と一緒に逃げ出しちゃおうよ」
何時もは真面目を装ってる此奴が、急にそんな事を言い出してきた。
「...いや、もうすぐ授業なんだが?」
今は休み時間で、あと数分もしない内に授業開始の鈴が鳴る
そりゃあ面倒臭い授業なんて抜け出したいが、そんな事をしたら職員室直行案件である
「えー、良いじゃない。君だって前サボってたじゃない」
そんな事も分かってないのか、少し不貞腐れたように口を開いている。
いや、だから実体験なんだって。
一度屋上でサボっていただけで2時間も放課後居残り説教をされたのだ。あんな経験はもうコリゴリである
「今は自重してるわ、怒られんの面倒臭いし」
「なら僕が無理やり連れ出したって事にすればいい」
「日頃の行い的に俺だって思われるだろ」
「ニッコリ笑えば聞いてくれるよ?」
「お前のそれは圧って言うんだよ」
「まぁまぁ、気にしない気にしない♪」
カラカラと笑った彼奴は、俺の返答も聞かず手を掴むと、何食わぬ顔で下駄箱前まで引っ張られた
「っおい...!だから俺は...!」
「”自重“してるだけで、逃げ出したくないとは言わないじゃない」
「ッ、」
「ね?本気で嫌なら手を振りほどいて見てよ」
まるで俺の本心を見透かす様に問う此奴に腹が立つ。
真底、癪に障る...が、俺は手を振り解け無かった
...あくまで、授業が面倒臭いと言うだけである
「ふふ、じゃあ行こっか。ちょっとした穴場スポットがあるからさ♪」
「つまらん場所だったら鼻で笑ってやるよ」
「大丈夫、君もきっと気にいるよ」
そうして振りほどかなかった手を握り直され、開始の鈴の音を背に、俺達はちょっとした逃走劇を初めたのだった
No.28:一輪の花
”立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿はユリの花“
何処かで見た記事が、頭に過ぎった
「?どうしたの?」
「...なんでも」
見ていた此奴に言うのは癪で、俺はそっぽを向いた
3つの花を持つ、一輪の花みたいな此奴。
人目見た時から、今まで、ずっとそう思っていた
「くふふ、そっか」
「笑うな気持ち悪い」
「酷いなぁ」
全くそう思ってなさそうに呟く彼奴には、言ってやらないけれど
No.28:魔法
「ちちんぷいぷい、□□よ笑顔になーれ♪」
気持ちが落ち込んでいた時
悩み事があった時
彼奴はよくそんな事を口にしていた
最初はよく分からなかったし、この歳でちちんぷいぷいとか...なんて思ってた
「...ふはっ、またそれかよ」
「あ!笑ってくれた〜!やっぱり僕は魔法使いだね♪」
「は?笑ってねぇーよ」
「もー、ツンデレちゃって♪」
「ツンデレじゃねぇよ!」
本人に言えた事はなかったけれど、その言葉を聞くと、何故だか笑う事が出来た。
少しだけ、気持ちを落ち着かせられた
...今思えば、それは彼奴が言うからなのだと嫌という程実感する
「なぁ、だからさ、また言ってくれよ□□、ちちんぷいぷいとかって」
「それが無いと...俺が笑えねぇじゃねぇか...」
眠る彼奴を前に、俺は小さく呟いた