No.55:記憶
忘れる事が出来ない
どれだけ、忘れたくても
一緒に過ごしてきた彼女達
置いていかれる経験も、失う経験もした
...そんな嫌な記憶ばかりが、霞まず頭を木霊する
いっそ頭の中を開いて、記憶をバッサリ切り捨てられたならと、一時期思っていたくらいだ。
...でも、彼女達と過ごした時間は、忘れたくなかった
今思えばバカみたいにはしゃいでいた
大人達によく怒られもした
時たま大喧嘩して
収集もつかず3人して暴れ散らした事も、何日も口を聞かなかった時もあった。
けど、それが僕の幸せだったのだと、今になって痛感している
__嗚呼、いっそ記憶があるのなら
「その時に戻らせて、やり直させて」
もう届かない日々を想いながら、記憶に浮かぶ二人の輪郭をなぞった
No.54:もう二度と
大切な人を作らないと決めた。
広く浅くをモットーに、これまで生きてきた
...失ってしまうのは、辛いから、苦しいから
でも、君は違った
そんな僕の気持ちを知ってか...いや、多分知らずに
僕のテリトリーに踏み込んで、爪痕を残していく
こっちの事なんて気にせず、構いに来ていた
それを断るのは渋られて、でも何となく、理由を聞いてみた。
「は?んなの...お前がそうして欲しそうな顔してたからに決まってんだろ」
驚いてしまった
僕は、そんな顔をしていたのだろうか
失いたくないと決めた日から、そんな事思うことはやめたはずなのに。
「...それとも、俺に構われるのは嫌か?」
そう言われてしまって、僕は何も言えなかった。
いや...言えなかったのだ
「...ふはっ、なんつー顔してんだよ」
そう言って、君は僕の事を抱き締めた
それが暖かくて、心地好くて
震えていた何かが、じんわりと落ち着いていくような、そんな感じで。
嗚呼、彼はなんて狡いんだろう
これじゃあ、もう
「離れられないじゃないか...」
No.53:bye bye...
惜しくなってしまったのだ、と。
過去の自分が聞いたら、一体どんな反応をするだろう。
明日の分からぬ人生
居なくなる同業者
別れを惜しむ間もなく、巡りゆく日々。
...だから、期待するのは辞めた
「じゃ、バイバイ」
極力笑って、別れを告げるようになった
互いに、明日会うことが叶わなくても良いように
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「ん?お前また来たのかよ」
「え〜、そんな邪険にしないでよ〜」
なのに、彼と出会って変わってしまった
...いや、”変えられてしまった“
「今日は顔見に来ただけだよ〜、この後も仕事あるし」
「ふーん、物好きなやつ」
つっけんどうに言うものの、何処か可笑しそうに笑う彼
そこから、面倒臭そうに少しだけ僕と戯れてくれる彼
...その顔を見る度に、らしくない不安が顔を出す
「......んじゃ、僕もう行くから」
流石に時間があるので、その場を離れようとドアに手を掛ける。
「あ!おい待て!」
その声に弾かれる様に振り返ると、
「またな!」
「!」
純粋に、次がある前提の言葉。
僕が恐るようになってしまった、たった三文字。
...彼はそれを、平然と口にする。
最初こそ歓迎していなくても、必ず満面の笑みで言ってくれる言葉。
「...うん、」
...だから、なのだろうか。
期待など、惜しむ心など、とうの昔に捨てたはずなのに
「またね」
君にだけは、そう返すようになってしまった
次もまた、彼の笑顔を見れますように。
そんな小さな願いを、抱きながら
No.52:君と見た景色
#人外Rさんと、人外Dさん
手の届かない、雲の上の存在
彼奴に対する第一印象を、今でもハッキリ覚えていた
焔を宿した赤い眼に
燃える様な、キラキラとした朱色の翼
綺麗だと思った
自分には縁遠い、キラキラとしたものだったから尚更
そしてどうしようもなく、手を伸ばしたくなった
...でも、届かなかった。
物理的に近くなれても、精神的には、何処までも離れている様な気がした。
「ほら何してんのさ!早く行くよ〇〇殿!」
「!あ、あぁ...」
こうして、手を引かれてる今だって
(...嗚呼、遠いい...)
どうしようもないくらい、埋まらない溝に阻まれている様な気がした。
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「ねーぇ〜!!許してよ〜!!」
「煩いですね、その口塞ますよ?」
「なんかトキメクセリフなはずなのに今すっごい寒気したよ!?」
でも、今はどうだろう
「良い勘ですね、本当にその通りにしてやろうか?」
「ひぃっ!〇〇ちゃん怖いよ〜!!許してよ〜!!」
今はこいつから、私に擦り寄って来ている。
「...仕方ないですね、貴方が私の事どう思ってるか言ってくれたら、特別に許してやります」
「え...なにその遠回しなデレ可愛すぎでしょ!?」
「いやなら口を...」
「嫌なわけないじゃん!!!」
食い気味に私から少し離れると、昔と変わらない赤い瞳が、私を射抜いた
「好き、大好きだよ、〇〇ちゃん」
「ッ...」
こうして、真剣に言葉を伝えてくれる様にまでなった。
それが喜ばしくて、恥ずかしくて、ごちゃまぜで。
でも確かに、心の溝はない。
何時も隣で、同じ景色を見ていられる様な気がした
「...ふん、良いですよ、許してあげます」
「これで本当に良いの?もっと言えるよ?」
「結構です!!」
たったそれだけの事が、たまらなく嬉しかった
「照れてるの可愛い〜♡」
「本当にその口縫いますよ?」
「ごめんて!!!」
No.51:手を繋いで
#人外Tさんと
「ふふ、これで暖かいね?」
手を繋いだ彼が、優しい笑顔で聞いてくる。
春だと言うのに寒い道すがら。
彼が繋いでくれた手は、陽だまりのように暖かい
「...うん、暖かい」
物理的な話だけじゃなくて、君から手を繋いでくれた事が嬉しくて、心までポカポカと暖かくなる様だった。
「!」
彼の暖かさを逃がしたくなくて、繋いでくれた手を優しく、されど強く握り返した
「ありがとうね、お兄さん」
繋いだ手の熱が移った様に、頬が赤くて
頬から熱が移った様に、手が熱くなっている。
なんでもない時間
なんでもない行動、仕草
なのに、繋がった手から、どちらとも言えない体温が、例えがたい幸せが、伝わってくる様な気がして
そんな彼が愛おしくて、僕は笑いかけた