びーえるかな。
無理矢理開けないで欲しい。
せっかく閉じたのだから。
お前に対する気持ち悪いこの想い。
「なぁ最近お前変じゃね?」
「別に普通だよ」
ふいに覗き込まれて咄嗟に目を逸らす。
想いを押さえ付けている蓋が剥がれ落ちそうだ。
「明らかに俺を避けてるよな?」
間を詰めてくる距離が近い。
離れろよ。
距離を空けようと後ずさるが詰め寄ってくる。
お願いだから離れてくれ。
「気のせいだよ」
咄嗟に右手で彼の胸をやんわり押しやる。
その手を掴まれて逆に逃げれなくなった。
そのままの姿勢で前のめりにまた近付いてくる。
逃さない目線。
「俺なんかした?」
壁際に当たりもう逃げられない。
「俺鈍いからさ。なんかしてたら教えて」
「お前に避けられたら悲しいよ」
真っ直ぐな彼は純粋な気持ちをそのまま直球で俺に投げつけて来て心が抉られて痛い。
「本当にお前が悪いとかじゃないから気にしなくていいよ」
押さえ付けてる想いのページをめくらないように必死で押さえつける。
「それにさ、別に俺たちヤロー同士だし嫌いだの何だのって別にどうでもよくね…っ!?」
言った瞬間に掴まれてる手を強く握られた。
何か言いたげに悲しそうに睨まれて必死で目を逸らした。
何なんだよ一体。
この気持ち悪い状況は何なんだよ。
無理矢理こっちに入り込もうとするな。
閉じた気持ちをはぎ取らないでくれ。
(閉ざされた日記)
休みの日が合ったので、同僚と2人ショッピングに出掛けたその先で。
一際騒がしい人の群れが進行方向に現れる。
その中央で激しく泣いている女の子の姿が見えた。
みんな彼女を取り囲み何とか宥めようとしてる感じ。
「迷子なのかなー?泣いちゃってるねー」
横に立つ彼女をちらりと見て言う。
見上げた同僚は何の返事もせずまっすぐ真剣な目でその女の子を見つめていた。
相いも変わらず収拾がつかない目の前の輪に。
突然ツカツカと近寄り出した同僚にびっくりして追い掛ける。
「ちょ…どこ行くの?」
彼女はその輪の中心に辿り着くと、
「泣けばいいと思ってるの!!」
凛とした声で言い放った。
その場の空気が凍りついたと思う。
冷たい空気が通り抜けた。
その場にいた人全員が驚いて動きが止まる。
静まり返った中に彼女に集まる視線。
彼女はいつも容赦ない。
それは子供であろうとも同じ事。
木枯らしみたいな人だと思う。
「あんたちょっとその物言いはひどくない?」
その場に居合わせた年配らしき女性が彼女に非難の声をあげる。
その人にサッと視線を寄越して
「こう言うの、優しくするだけじゃ埒があかないと思うんです。サッサッと用件聞いちゃえばいいんですよ」
そう言い放つとまた女の子に視線をやって
「あんたも泣いてばかりじゃいつまで経ってもママに会えないよ。名前は?ちゃんとあるんでしょ」
しゃがんで女の子と目線を合わせる。
間近で見つめられた女の子の涙はいつの間にか止まっていて怯えたようにもごもごと名前を言ったみたいだった。
「聞こえない。もっと大きく言わないと分からないよ」
ピシャリと言い放つ。
女の子は怯えながらもみんなにも聞こえるぐらいの大きさで名前を言った。
「やれば出来るじゃん」
そう言って彼女は笑って女の子の髪をクシャリと撫でた。
褒められた女の子もそれで緊張感が解けたのかその後に続く質問にも雄弁に答えていく。
「じゃあ、わたしについて来れる?迷子センター行くよ」
彼女はわたしに視線を向けると迷子センターの方を指さして先に歩き始めた。
その後ろを数歩遅れて付いていく女の子。
手を引くわけでもないし話し掛けて行くわけでもない。
だけど歩調は女の子が追い付けるぐらいの速度だ。
その後にわたしも置いていかれないように連なって歩いて行く。
やっぱり彼女は、木枯らしみたいな人だと思う。
でも彼女の木枯らしは優しい木枯らしなのだ。
(木枯らし)
ふらりと訪れたその茶屋で。
妖艶に演じるかの男のその仕草が。
とても美しく見えたのだ。
それから目に焼きついて離れない。
この世にもはや存在しない至高の女。
その姿に魅入られてしまったのだ。
華麗に宙を舞うその指先。
囚われて離さない。
妖しく微笑むそのくちびる。
舞いなど微塵も興味がなかったのに、
本当に美しいと思ったのだ。
(美しい)
更新が21時以降であったならもっとちゃんと文章に出来るのに…という負け惜しみ(笑)
更新ギリギリ30分前で考えるの辞めたい←
もう何も聞こえぬ。
舞台の上では。
わたしの役者人生は終わってしまったのだ。
わたしには演じることでしか生きていけぬと言うのに。
それすらも出来ないようになってしまった。
事の発端は1つのあらぬ記事。
それを信じた観客からの投げられたものが頭に当たり倒れた。
傷はそこまで大事に至らなかったが、なぜか舞台に上がると今までかぼちゃやジャガイモに見えていた観客にはっきりと目があり口がある。
そう認識すると何かみんなが野次を入れているように聞こえそれからそれから舞台の音が遠くなり歌えなくなった。
舞台上で舞えない歌えない役者など存在の意味がない。
生きる意味がないのだ。
それからは茫然自失に過ごす日々。
周りからは狂ったと思われたろう。
みんなに見放されても仕方がない。
なのにどんなにひどい振る舞いをしようとも振り払えないひとが居る。
わたしの歌に惚れたと会ったその日から毎日のように一緒に過ごすようになった友。
舞台上で演じるわたしの舞い歌う仮初の女がよいと言う。
毎日のように劇場に通って来ては夜遅くまで他愛もない事で共に過ごす。
そんな彼はおかしくなってしまったわたしの世話を普通なら絶対やらないだろう事まで甲斐甲斐しく世話を焼く。
自分の妻を差し置いて泊まり込みでわたしを見張っている。
「わたしは大丈夫だ。早く奥さんのところに帰ってやったらどうだ」
「あいつは1人でも大丈夫だ。お前はそんな心配もせず早く治ることに専念するんだ」
「わたしはもう演じることが出来ないよ。聞こえないんだ」
「今は会話出来てるだろう」
わたしの足を丁寧にタオルで拭き取ってくれながら優しく話しかけてくる。
「普通に日常なら大丈夫なんだ。でも舞台はダメだ。音が聞こえなくなるんだ」
「薬は飲んでいるのか?」
「そんなもの効きやしない」
「…他の商売でもしてみるか?俺が金は出してやる」
「ダメだよ」
「やってみたら思わぬ才能があるかもしれないぞ」
「わたしは芸をする事しか出来ないんだ」
何も出来ないんだよ旦那。
向けられる優しい目を見続けることがつらくて俯くしかない。
「それなら、気長にやっていくしかないか」
そっと頬に手を当てられたかと思うとそのまま目の前の彼と目線が合わされる。
「俺もおまえの演技好きだしなぁ」
いつもと変わらぬ安心できる笑顔で優しく言われて泣きたくなる。
「いつか俺の前で歌ってくれ。お前1人ぐらい余裕で養える」
頭をくしゃりと撫でられたその手が離れていく。
この世界はこんなに歪んで見えただろうか。
視界が定まらないよ。
🍁(この世界は)
びーえる風味!
ぴんぽーん。
真夜中に部屋のチャイムが鳴る。
眠くて重い身体を何とか起こしてドアを開ける。
「よぉ」
そこには憎らしいぐらい笑顔の見知った顔があった。
思わずドアを閉める。
が、寸前のところで手を差し込まれ失敗した。
「おいおい。何してくれてんの!!」
それはこっちの台詞だ。
「こんなに夜中に人ん家のチャイム鳴らすとかどんな神経してんだ」
「そこらで飲んでたら終電逃しちゃった」
「…で?」
「泊めて」
「お前だったら泊めてくれる女の子いっぱい居るだろ。そっち行けよ」
再度ドアを閉めようとするけどビクとも動かない。
なにか考えるような素振りを見せた後、少し笑って部屋の中に無理矢理入ってくる。
「お前なに勝手に入って来てんだよ」
「いいじゃんいいじゃん」
カチャリと鍵の閉まる音が聞こえたと思うと、突然抱きしめられた。
「お前…何してんだよ!!!」
引き剥がそうにも力が強くて離れない。
「お前いい加減にしろよ酔っ払い」
何とか剥がれないかもがいてみる。
「ねぇ」
耳元で声がした。
「泊めてよ。お願い」
「ねぇ」
反応しないでいたら何度も囁かれた。
「わかったから。いい加減離れてくれ」
どんなに拒んでも結局拒みきれない自分が嫌いだ。
一瞬力強く抱きしめられたかと思ったら名残惜しそうに離れて行った。
「やっぱりお前んちが1番落ち着くんだよなー」
なんて言いながら我がもの顔で部屋の中に入っていく。
離れる前に見えたその顔。
何でお前が困ったような寂しそうな顔をするんだ。
俺とお前は友だちのはずなのに、
どうして。
一線を越えてこようとするんだ…。
勘弁してくれよ。
(どうして)