Kagari

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7/12/2024, 2:24:03 PM

これまでずっと

「……おいしい」
「お、ようやくこのうまさに気づけたか」
「かもしれない」
「おい。天邪鬼かっ! うまいならうまいって言え!」

 苦手ないし嫌いな食べ物って、少なからずひとつはあるんじゃないかと思う。
 でも、意外とさ、食わず嫌いとか、初めて口にしたものがたまたまおいしくなかったせいだったりするのかな、って知見が広がってきた。

 現に、私、あれほど毛嫌いしていたホルモンを初めて「おいしい」と感じている。こんなにおいしかったのか……?! いままで食べていたのはなんだったんだ。

「下処理とか焼きが甘かった奴に当たったんだろ。こだわってるとこはちゃーんとこだわってるからな」

 たしかに、苦くて無理だと思っていたコーヒーも、かなりこだわりを持っている店長の喫茶店のは、不思議とお砂糖なしでも飲めちゃったりするもんね。
 最初の一口がおいしくなかったから、なんていう先入観に囚われ続けるのは損しているのかもしれない。
 これを信じるか信じないかは、一歩踏み出すか留まるかはあなた次第って奴。

 私がいま「かもしれない」って付け足したのは、連れてきてくれた目の前の相手がずーっといじってくるからだ。めんどくさい。初めての「おいしい」を堪能させろって話だ。



(大人になってから克服できるものもあるよねって話)

7/11/2024, 11:52:16 AM

「1件のLINE」

「LINE返しといたぞ」
「勝手になにしてくれてんのやめて。っていうか誰からのLINE?」
「知らね」
「おいこら」

 私の弟、悪い奴ではないんだけど、めんどくさい。自由人の称号を欲しいがままにする彼について、自由すぎて扱いづらいと影で愚痴をこぼされたこともある。最近はかまちょのほうがしっくり来るんじゃないかと思い始めてきた。
 そういえば、私のスマホの待ち受けも、話題に上ったLINEのアイコンも、私のものなのに写真は全部弟にされたんだよね。アイコンは特に、「紛らわしいからやめて」って共通の友人に言われたんだが、私に言われても困るんだよ。操作方法が全然わからないんだから。パスワードをかけろ? どうやって??

 LINEを開いてみる。トークルーム一覧のトップにいたのは……誰だこれ?

「LINEって文字化けするの?」
「コピペとかすりゃ誰だって真似できるだろ」

 コピペがなんなのかわからなかったが、不可能ではないらしい。文字化けしちゃった名前に、見覚えのないアイコン。誰だこの人。全然検討もつかない。
 トーク画面を開いてみても、向こうから送られてきたメッセージまで文字化けされている始末だ。
 なんだこれ? 気味が悪い。
 相手の正体は心当たりがないけれど、思い当たる節はある。十中八九、怪奇現象って奴。私の体質的にありえる、というかよくあることなのだ。いままでは不気味なメールを送ってくるだけだったのに、とうとうLINEに順応したのか。要らない努力を積み重ねてきやがって。いままでのと同じ怪異かは知らんけど。

『ポマード』

 弟が私の代わりに返したのは、たったそのひとこと。

 口裂け女かよ。しかも、これ送ったの10分前じゃん。既読スルーされてるんだが、効いたってこと?

 もういいや。新しいメッセージが着たら丸投げしよう。

 そう思っていたのに、とうとうトーク画面が更新されることはなかった。
 なんだよ、本当にポマード効いてんのかよ。
 で、誰か、このトーク画面を消す方法知らない?


(いつもの3人シリーズ)

7/10/2024, 2:59:00 PM

「目が覚めると」

 いままで現実だと思っていたものが全部嘘でした

 いわゆる夢オチを期待してしまうほどには、現実にほとほと疲れ果てていた。失望してしまっていた。
 
 どんな現実だったらよかった?
 たとえばこんな感じ。朝、目が覚めたら故郷に戻っていて、家族が「おはよう」って挨拶してくれる。当たり前のようにご飯を食べて、学校へ行って勉強して、友達と笑いながら帰ってきて、家族と一緒にまたご飯を食べて、お風呂に入って、おやすみなさい。この平凡な繰り返しでいいんだ。なんてつまらなくて素敵なんだろう。……そうあってほしかったんだ。
 幼い頃に、たった一晩で家族を亡くした。そこから縁があって海を渡って、いろいろあって下宿を選んだ。そこのオーナーと先の下宿者は一癖も二癖もあったけれど、なんだかんだで彼らと一緒に過ごす非日常的日常は楽しかった。これが、これからもずーっと続いていくんだと信じていた。

 でも、やっと気づいたよ。当たり前ってない。当たり前と思っていたものほど長くは続かないし、呆気なく崩れてしまうって。
 楽しい非日常の日々すら瞬く間に消えてしまった。家族のように思っていた彼らは、ある日、私になにも告げずに突然いなくなったんだ。せめて、ひと言ぐらいあってもよかったのに。言わないほうが「らしい」けれど、でも、心の準備ぐらいさせてほしかった。
 十数年しか生きていないのに、二度目の喪失感、孤独。絶望。辛くて辛くてしょうがない。だから、「夢であってほしい」って現実逃避ぐらいさせてくれよ。誰か、いっそ私に「いままでのは悪い夢だったんだよ」って言ってよ。
 でもね、いままでのことを全部否定してしまったら、それこそ彼らに対する裏切りになるでしょう?
 彼らとの出会いや思い出までをも否定したくない。嘘だと思いたくない。いまの私を作ってくれた彼らの思いを、記憶を、本当の意味で失うわけにはいかないから。


 いくら涙が込み上げようとも、辛くて苦しい日々が続こうとも、昨日と地続きの今日を生きるしかない。

 それが、彼らの軌跡になると信じて。

 目が覚めたら、自分にこれを言い聞かせて、歯を食いしばって起きるんだ。

 おはよう、現実。今日も生き抜いてやる。

7/8/2024, 2:14:55 PM

「街の明かり」

 街灯やライトアップが増えたせいで星が見えづらくなった、なんていつぞやのお題に愚痴混じりにぼやいたけれど、実際ちょっと寂しさも覚えたのだけれど、いざ街灯を減らされたら結構不便だ。現に痛感してる最中である。

 これを綴っている人はあちこちを回る転勤族なので、短期間でいろんな場所を回っている。一緒に回ってる人と話してからやっと気づいたのだけれど、いま住んでいるところはそもそもの区画の問題なのか、街灯が少なすぎる。前も似たような感じだったかとふも思ったが、いままで渡り歩いてきたなかでも断トツに少ないぞ。
 道路を隔てた向かい側に、自販機の明かりがぼうっと光ってるのは唯一の救いだ。道路もあるんだけど、ちょっと行った先のコンビニぐらいしかほかに明かりがない気がする。

 この暗がりに乗じて誰かが潜んでいるかもしれない。

 その誰かとは、果たして人間じゃないナニかかもしれない。

 そう思うと、かつての人々が暗がりに怯えつつも、独自の解釈で立ち向かっていたいわゆる「怪異」というのが、ちょっと愛おしくも思えたりする。

 自論なんですが、怪奇現象とか妖怪とか怪談って、認知する人がいなければ成立しないと思ってます。もっというと、人がいなかったら存在しないものだと思っています。そう考えると、途端に愛おしく見えて……来ないかも。

 好きなくせにビビりなので、怖いものは怖い。幽霊っていう存在というか概念はいると思っているけど、実際に遭いたくないし、見たくない。聞くだけで満足するに限る。安全圏から認知したい。なんてわがままなんでしょう。

 いつも小説を書いていたけど、別に好きに綴っていいんだからたまには思ったこと呟こうと思った次第。

 なんだかんだ言ったけれど、街灯、いつもありがとう。この地域、できれば増えてくれたら嬉しいな。

7/7/2024, 12:18:55 PM

「七夕」

 「たなばた」あるいは「しちせき」。節句での読み方だと「しちせきの節句」が正しいらしい。
 いわゆる織姫と彦星の日、って認識だと語弊がある? お仕事をサボったらこんなふうに好きな人にも年1でしか会えなくなるんだよ、って戒めのためにできたお話だよね。あれ、認識ズレてるかな。
 昔は8月にやっていたけれど、太陽暦に合わせて7月に前倒しになったっていう話をよく聞いた。幸か不幸か、結果的に梅雨の時期に被ることになってしまったとも。それじゃあ年に1回の逢瀬すらままならないのでは……なんて、ちょっと織姫と彦星ふたりに同情してしまった時もあったね。こう見えて純粋な年頃があったんだよ、なんて聞かれてもいないのに言っちゃったり。
 いわゆるジューン・ブライドもそうじゃないっけ。海外だと天候が穏やかだから式を挙げやすいけれど、日本だと絶賛梅雨の時期に被る。
 なんでもかんでも欧米化していいってわけじゃなかったらしい。

「短冊書けた?」
「全く思い浮かばないから無地で出していい?」
「ダメに決まってんだろ。せっかく用意したんだから、3億円欲しいとでも書いとけ」
「いや、生々しすぎるでしょ。織姫と彦星が無事で出会えますように、とでも書いとくか」
「イマドキの織姫・彦星だったら、スマホとかで毎日連絡取り合ってんじゃねーの? 令和だぞ」
「真面目に仕事しろや。短冊それにしよ」
「僻みかよ落ち着け。もう世界平和って書けばいいじゃん」


(いつもの3人シリーズ)

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