「友だちの思い出」
友達と思っていたのは私だけで、あなたはそう思っていなかったんだろうか。
思い出せるあなたとの記憶は全部「楽しかった」って心から言えるのは、私だけ?
おそろいにしようってふたりで話し合って決めたクマのキーホルダー、大事に取っておいたのは私だけ?
いつからあなたを傷つけてしまったの?
いつから、私はあなたを苦しませてしまったの?
答えは全て闇のなか。死人に口なし、本当に皮肉。
きっと永遠の別れが来てしまうことは、なんとなく予感していた。でも、死が袂を分つ何某は、私があなたを置いていくんだろうとばかり思っていたのに。……こういう独りよがりがダメだったのか。
謝りたくても謝れない。あなたは私の手の届かないところへ行ってしまった。
私は「大人になる前にそちらへ行く」といろんなモノから予言されている。
だけど、ごめんね。
私、まだ死にたくない。謝りたいけど行きたくない。
「きみが一番あの子の性格を知ってるじゃない。それなら、なおさら最期の言葉は信じちゃだめだよ」
「あの子、きみが一番の親友だって、ちゃんと私にはっきり言ってたもの。喧嘩別れは辛いけど、きみが信じてあげなきゃあの子は永遠に独りぼっちになっちゃうよ」
ねえ、あなたが最期に吐いた「大嫌い」、嘘だと信じていいかな。
親友の最期の言葉を嘘だって決めつけていいかな。
声は届かない。私にも、あなたにも。
それなら私は、あなたはずっと親友だったと信じて、いつかまた胸を張って会いにいくよ。
あなたとの時間は、親友との大切な思い出。
「星空」
別にディスりたいわけじゃないけどさ、都会って星空が遠いよね。街のネオンやらどこそこのライトアップやら、住宅街の街灯やらなんやらで、全然星々が見えないんだもの。そんなに興味ないの?
「明るいほうがいいだろ。夜道見えにくいし」
「暗いところってなんとなく怖いじゃん。ナニが潜んでるかわからないし」
「その気持ちはわかるけどさ、星見えないじゃん」
「星見たきゃプラネタリウム行けばいいだろ」
「あんまり星とか考えたことなかった。月が出てるなーぐらいは思うけど」
……聞く相手を間違えた気がする。弟と後輩は星空に全く興味がないタイプらしい。
っていうか、弟よ。「パンがないならケーキを食べたらいいじゃない」みたいに言うんじゃないよ。人工物と天然じゃ大違いでしょうが。
あっ、いや、プラネタリウムそのものを否定したいんじゃないよ。
でも、星が見たかったらプラネタリウムに行くっていうの、全然アリだな。今度おすすめのところ探してみよう。
昔は道標としてみんな見上げていたって言うじゃないか。眠るまでの語り草に、星々を結んで星座を作って、それぞれに物語を紡いだりして。なかなかにロマンがあると思わない? そういう物語を知れば知るほど、星空を見上げるのが楽しくなる感覚は、いまでもしっかり記憶に刻み込まれている。
ところが、どんどん文明が発展して、星を道標にしなくたって目的地がわかるようになった。空に物語を見出さなくても、いろんな物語が地上で綴られるようになった。
あんなに怯えていた夜の闇がそんなに怖くないってわかっちゃったから、それを払拭するように夜を覆わんばかりに灯りを増やしていった。
だから、みんな夜に、星に、興味を無くしちゃったんだろうな。
私は違うって偉ぶるつもりはない。育った環境じゃないだろうか。生まれてからずっと星がよく見えるところに住んでいて、星をこよなく愛した誰かがずっとそばにいてくれたから。同じ環境で育ったはずの弟よりも、私は星空を見上げていた。「誰か」が教えてくれる星座の物語を聞くのが大好きだった。
その「誰か」、いまとなってはわからないんだけど。わからなくなったいまでも、私のどこかで「そのひと」は生き続けているんだと思う。だから、いまでも星空に思い焦がれるのかな。
「今日は、星がよく見えるな」
「ほんとだ。近いかも」
足元を照らすカンテラのみの夜道を、3人で歩いていたある日のこと。徐に空を見上げた弟が星の多さに驚き、つられて見上げた後輩もいつになくはっきり見える星空に感銘を受けたようだ。
そうでしょう、そうでしょう! じっくりと見上げるがいい!
勝手に得意げになっている私がいた。気持ち的には後方彼氏面……ってなんだよ、星空の彼氏って。意味わからん。でも、「お前らやっと気づいたか!」ってそんな気分だ。
「授業で習ったなー。あれ、夏の大三角だろ」
「ほんとに三角形だ」
「逆になんだと思ってたんだよ」
「人が好き勝手に繋いだだけだと思ってた」
「お前な、」
さすがの弟も呆れている。後輩らしいといえばらしいけれど。
「夏の大三角で一番光ってるのがベガね。で、ベガの上がデネブ、下がアルタイル。それぞれ星座があって、」
「ゼロノスのフォームそっから来てんの?」
「うん、まあ、そうだね。本職天文学者だし」
「なんの話?」
「「仮面◯イダー」」
「わかんない」
(いつもの3人シリーズ)
『短命宣告少女、心境は大荒れです』(神のみぞ知る)
「正直、長く生きるのは難しいよ。二十歳まで果たして保つかどうか」
「本当にむつかしいわ。わたしたちにはどうしようもない。打つ手はないわ。いまの時点で、わたしに打てる手はありません」
「別に誰が誰をかわいがるかは勝手だけどさ。あの子は長生きできないもん。そうなったら、情を注ぐおまえが辛いだけだよ」
「はたち むり」
「しょうがないよ。残された時間を悔いなく過ごすしかない」
「これだけの占いに否定されてしまうとは……。なかなか骨が折れそうだネ」
「「「だって神様に愛されてるから」」」
神様に愛される、他の人からすればきっと良いことなんだろう。良い徴なんだろう。
だが、私だけは別だ。あえて私だけと言わせてもらう。神様が、どれだけ恐ろしくて、どれだけ尊くて、どれだけ畏れ多いのか、ふたつの国で過ごしていろんな神様と呼ばれる存在に触れた私にはわかってるつもりだから。
「ふざけんなっ!」
愛されているから大人になれないだなんて、私からすれば理不尽なことこの上ない。
そもそも大人って言い方、すごく曖昧じゃない? 住む場所が変われば『大人』の定義も線引きも変わってくるじゃんか。いまこうして16歳を迎えた私も、場所によっては定義づけられた『大人』に無事になっている可能性がある。それだったらどんなにいいだろう。
でも、16歳を迎えてから真っ先に未来を占ってもらったら、結局結果は変わらなかった。「長くは生きられない」だって。なんて曖昧な定義なんだ、大人って。ボーダーラインはどこなんだ。
せめて年齢とか期限を言え!
そもそも愛してるから早めに迎えに行くよとか止めてくれや。ヤンデレは創作のなかだけで十分です!
思いつくかぎりの罵詈雑言を喚き散らせば、「やっぱりこいつは止めた」ってなってくれるだろうか。無理? 伊達に十何年も待ってない? 腹立つな……。
まだまだやりたいことだってある。完結を見届けるまでは死ねないって思ってる神作品だって抱えてる。うわっ、自分で神って言葉使っちゃったよ。祖国で軽率に崇めちゃう精神、私のなかにもすっかり根づいちゃってるんだな。
そんなこんなで、やっと迎えた人生まだまだ16年目。「神様の言うとおり」だとか、「神様に愛されている」って言葉はいつのまにか大嫌いになった。
あと、あの言葉も嫌い。「神のみぞ知る」。いつか直々にお迎えに来たら、迎え討つつもり満々だからな、私は! ただでは死んでやらないからな!?