Kagari

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「星空」

 別にディスりたいわけじゃないけどさ、都会って星空が遠いよね。街のネオンやらどこそこのライトアップやら、住宅街の街灯やらなんやらで、全然星々が見えないんだもの。そんなに興味ないの?

「明るいほうがいいだろ。夜道見えにくいし」
「暗いところってなんとなく怖いじゃん。ナニが潜んでるかわからないし」
「その気持ちはわかるけどさ、星見えないじゃん」
「星見たきゃプラネタリウム行けばいいだろ」
「あんまり星とか考えたことなかった。月が出てるなーぐらいは思うけど」

 ……聞く相手を間違えた気がする。弟と後輩は星空に全く興味がないタイプらしい。
 っていうか、弟よ。「パンがないならケーキを食べたらいいじゃない」みたいに言うんじゃないよ。人工物と天然じゃ大違いでしょうが。
 あっ、いや、プラネタリウムそのものを否定したいんじゃないよ。
 でも、星が見たかったらプラネタリウムに行くっていうの、全然アリだな。今度おすすめのところ探してみよう。

 昔は道標としてみんな見上げていたって言うじゃないか。眠るまでの語り草に、星々を結んで星座を作って、それぞれに物語を紡いだりして。なかなかにロマンがあると思わない? そういう物語を知れば知るほど、星空を見上げるのが楽しくなる感覚は、いまでもしっかり記憶に刻み込まれている。
 ところが、どんどん文明が発展して、星を道標にしなくたって目的地がわかるようになった。空に物語を見出さなくても、いろんな物語が地上で綴られるようになった。
 あんなに怯えていた夜の闇がそんなに怖くないってわかっちゃったから、それを払拭するように夜を覆わんばかりに灯りを増やしていった。
 だから、みんな夜に、星に、興味を無くしちゃったんだろうな。

 私は違うって偉ぶるつもりはない。育った環境じゃないだろうか。生まれてからずっと星がよく見えるところに住んでいて、星をこよなく愛した誰かがずっとそばにいてくれたから。同じ環境で育ったはずの弟よりも、私は星空を見上げていた。「誰か」が教えてくれる星座の物語を聞くのが大好きだった。
 その「誰か」、いまとなってはわからないんだけど。わからなくなったいまでも、私のどこかで「そのひと」は生き続けているんだと思う。だから、いまでも星空に思い焦がれるのかな。



「今日は、星がよく見えるな」
「ほんとだ。近いかも」

 足元を照らすカンテラのみの夜道を、3人で歩いていたある日のこと。徐に空を見上げた弟が星の多さに驚き、つられて見上げた後輩もいつになくはっきり見える星空に感銘を受けたようだ。
 そうでしょう、そうでしょう! じっくりと見上げるがいい!
 勝手に得意げになっている私がいた。気持ち的には後方彼氏面……ってなんだよ、星空の彼氏って。意味わからん。でも、「お前らやっと気づいたか!」ってそんな気分だ。

「授業で習ったなー。あれ、夏の大三角だろ」
「ほんとに三角形だ」
「逆になんだと思ってたんだよ」
「人が好き勝手に繋いだだけだと思ってた」
「お前な、」

 さすがの弟も呆れている。後輩らしいといえばらしいけれど。

「夏の大三角で一番光ってるのがベガね。で、ベガの上がデネブ、下がアルタイル。それぞれ星座があって、」
「ゼロノスのフォームそっから来てんの?」
「うん、まあ、そうだね。本職天文学者だし」
「なんの話?」
「「仮面◯イダー」」
「わかんない」


(いつもの3人シリーズ)

7/5/2024, 1:22:53 PM