Kagari

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「目が覚めると」

 いままで現実だと思っていたものが全部嘘でした

 いわゆる夢オチを期待してしまうほどには、現実にほとほと疲れ果てていた。失望してしまっていた。
 
 どんな現実だったらよかった?
 たとえばこんな感じ。朝、目が覚めたら故郷に戻っていて、家族が「おはよう」って挨拶してくれる。当たり前のようにご飯を食べて、学校へ行って勉強して、友達と笑いながら帰ってきて、家族と一緒にまたご飯を食べて、お風呂に入って、おやすみなさい。この平凡な繰り返しでいいんだ。なんてつまらなくて素敵なんだろう。……そうあってほしかったんだ。
 幼い頃に、たった一晩で家族を亡くした。そこから縁があって海を渡って、いろいろあって下宿を選んだ。そこのオーナーと先の下宿者は一癖も二癖もあったけれど、なんだかんだで彼らと一緒に過ごす非日常的日常は楽しかった。これが、これからもずーっと続いていくんだと信じていた。

 でも、やっと気づいたよ。当たり前ってない。当たり前と思っていたものほど長くは続かないし、呆気なく崩れてしまうって。
 楽しい非日常の日々すら瞬く間に消えてしまった。家族のように思っていた彼らは、ある日、私になにも告げずに突然いなくなったんだ。せめて、ひと言ぐらいあってもよかったのに。言わないほうが「らしい」けれど、でも、心の準備ぐらいさせてほしかった。
 十数年しか生きていないのに、二度目の喪失感、孤独。絶望。辛くて辛くてしょうがない。だから、「夢であってほしい」って現実逃避ぐらいさせてくれよ。誰か、いっそ私に「いままでのは悪い夢だったんだよ」って言ってよ。
 でもね、いままでのことを全部否定してしまったら、それこそ彼らに対する裏切りになるでしょう?
 彼らとの出会いや思い出までをも否定したくない。嘘だと思いたくない。いまの私を作ってくれた彼らの思いを、記憶を、本当の意味で失うわけにはいかないから。


 いくら涙が込み上げようとも、辛くて苦しい日々が続こうとも、昨日と地続きの今日を生きるしかない。

 それが、彼らの軌跡になると信じて。

 目が覚めたら、自分にこれを言い聞かせて、歯を食いしばって起きるんだ。

 おはよう、現実。今日も生き抜いてやる。

7/10/2024, 2:59:00 PM