YUYA

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6/4/2025, 8:07:32 AM

『代わりと、かけがえ』


コインは落ちれば音がする
手にすれば価値がある
失くしても、また稼げばいい
誰かの代わりに、また誰かが来る

名前は消せる
居場所は変えられる
物は壊れて、買い直せる
言葉も着替えのように取り替えられる

でも──

初めて泣きながら笑った夜
呼吸の音さえ聞き逃したくなかった瞬間
差し出された、たった一度きりの「ありがとう」

それは、代わりがない
似た言葉では埋まらない
似た誰かでは誤魔化せない

かけがえのないものは
握りしめれば壊れ
離せば遠ざかる

だから怖くて
だから愛しい

金では買えない
けれど金でしか守れないこともある

代わりのあるものが支えてくれる
代わりのないものを、大切にするために

僕はその狭間で
今日も生きている

6/1/2025, 3:32:25 PM

「火種」


ただ 生きているだけの毎日が
ひどく 静かで
どこか 濡れている気がした

飯を食い
寝て 起きて
働いて また 眠る

誰もがそうして生きている
けれど
どこかで 小さな声がした
「ほんとうに これだけか?」

その声に
名はない
色もない
けれど 奥の方で ずっと燃えている

退屈は 怠けではない
それは
燃やせる薪を探している証

「ただの火」ではない
「灯す火」
誰かの闇を そっと照らす
小さな 人間の火種だ

6/1/2025, 12:42:44 AM

『行き場のない空』


行こうとして やめた
やめようとして また少し揺れた
どしゃ降りの空が 僕の迷いを映してる

傘をさす気にもなれず
ただ窓の内側で 耳を澄ます
何かが 何かが 胸の奥で叫んでる

遠出なんて 口実だったのかもしれない
何かを変えたかっただけなんだ
ほんの少しだけ
今日の自分を違う場所に置いてみたかった

でも空は知っていた
僕が動けないことも
それでも雨粒は 諦めたように
何度も何度も 地面を叩いていた

“動かなくてもいい
でも 止まってばかりじゃいけない”
そんな声が 雨音にまぎれて聞こえた気がした

5/30/2025, 2:04:15 PM

『わたしは、まだ若くて、すでに遠い』



わたしは まだ
若いと言われる歳にいて
けれど
心の奥では ずいぶんと
遠くまで 来てしまった気がする

人が 歳月を重ねて
ようやく知るとされるものが
もう この胸には
静かに沈んでいる

あたたかいものも
こわいものも
消えた声も 届かぬ想いも
どこか知っている気がする

老いた人が 涙ぐむ詩に
わたしの言葉が宿るなら
それはたぶん
わたしのなかに
まだ見ぬ人生の影があるから

うまく笑えない日もある
誰にも言えない疲れが
背中で鳴っている夜もある

けれど
それでも言葉を綴るのは
わたしのなかに
名前のない灯があるから

見えないけれど
確かに息をしているこの心に
今日もそっと 詩を差し出す

そして願う
この心が 誰かにとって
少しの 光になればと

5/29/2025, 4:28:19 PM

『春はまだ見えねども』



道は、時として見えぬもの。
朝ぼらけの霧のなか、
先の景色は定まらずとも、
足元には、確かなる土のぬくもり。

今のそなた、
書かずとも、進まずとも、
ただ生きてあること――
それさへも、いと尊し。

咲かぬ花を嘆くことなかれ。
花は、咲かぬ間にてこそ、
養分を集め、
光を待ちぬ。

人の未来もまたしかり。
見えぬからこそ、
希望という名の灯を、
胸にともす。

今はまだ、
春の風、吹かぬかもしれぬ。
けれど、そなたの心には、
芽吹きの音が、かすかに響いてゐる。

それを我、知るぞ。
ゆえに言ふ――
進めぬ日は、留まってよし。
泣きたい夜は、泣いてよし。
それでもやがて、
そなたの空にも、朝が来る。

信じよ。
未来は、信ずる者の背に、そっと羽を授くるものなり。

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