YUYA

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2/7/2026, 5:31:38 AM

『境界の灯(ともしび)』


夜の底で、ひとりの青年が立っていた。
世界は静かで、雪の気配が空中に舞っている。
足跡だけが、自分がまだ消えていないことを証明していた。

彼はふと考える。
「なぜ、人を殺してはいけないのだろうか」と。

その答えは理屈ではなく、
胸の奥にある、かすかな痛みの揺れにあった。

――もし誰かを消してしまえば、
 その人の笑いの跡も、
 沈黙の影も、
 肩先に宿った微かな温度も、
 自分の中から同時に消えてしまう。

感情は、いつも先に知っている。
「壊したものは、自分の中にも穴を開ける」と。

だから青年の胸には
誰のものともつかない“灯”がともっていた。
あたたかくて、弱くて、でも確かに息をしている灯。

それはこう囁く。

「他人の死は、あなたの内部世界の死でもある」

彼は理解した。
自分が恐れていたのは、
罰でも罪でもなく──
自分の中の“つながり”が消えてしまうことだった。

人は、人という鏡なしには
自分を保つことができない。

だからこそ、
他者の涙を奪うことは、
自分の涙の居場所を奪うことと同じなのだ。

青年は空を見上げる。
輪郭を溶かすように広がる夜空の下、
静かな吐息が白くにじむ。

その瞬間、彼は気づく。

殺してはいけない理由なんて、
難しい言葉はいらない。

ただ、
「世界と自分の薄い糸を、切りたくなかった」
それだけなのだと。

そしてまた歩き出す。
灯を胸に抱いたまま、
自分の感情が教えてくれた“正しさ”を信じて。

2/4/2026, 10:49:09 PM

『小さな歩みの中で』


彼はよく言った。
「意味は見つけるものじゃない。
 歩きながら、勝手に立ち上がってくるものだよ」と。

誰かが
「意味がないから動けない」とこぼすたび、
彼は少しだけ微笑んだ。
その微笑みには、
諦めでもなく、説教でもなく、
どこか子どもが秘密基地を知っているときのような
確信めいた明るさがあった。

彼自身、
完璧な理由を持って生きていたわけではない。
朝が苦手で、
好きなことに夢中になると
世界の音が全部消えてしまうような人だった。

だけど、
理由が無い日ほど
一歩を踏み出していた。

散歩道の落ち葉を踏む音や、
コンビニで買った温かいコーヒーの湯気や、
「おはよう」とだけ書かれたメッセージや、
そんな些細なものに
なぜか胸が軽くなる瞬間があって、
そのたびに
「ああ、これが意味なんだろう」
と静かに確信していった。

意味は用意されていなくていい。
誰もくれなくていい。
ただ生きた痕が
少しずつ形になる。
その形が、
彼にとっての“見出す”ということだった。

だから彼は今日も言う。
「意味がないなら、なおさら歩けばいい。
 歩いているうちに、
 その靴の先で
 意味がこぼれてくることがあるから」と。

それを聞いた人は、
少しだけ沈黙する。
反論する理由を探すけれど、
胸のどこかで
わずかに温度が動くから
言葉にならない。

彼の生き方は、声ではなくて
足音で語られる。

たった一歩の、
小さな進みだけで。

1/4/2026, 12:25:41 PM

幸せについて

幸せは
笑顔の数ではなく
拍手の数でもない

目を伏せたまま
深く息を吸える夜のこと
理由を探さず
眠りにつけること

誰かの期待から
一歩だけ離れて
それでも
ここにいていいと思える瞬間

直さなくていい
役に立たなくていい
説明もしなくていい

ただ
壊れずに
今日を終えられた
それだけで

幸せは
達成ではなく
通過点でもなく

生きる重さが
一瞬だけ
床に置かれる感覚

明日が
少し怖くても
それでも
布団に入る理由が残っていること

幸せは
静かで
名もなく
気づいたときには
もう通り過ぎている

それでも
確かに
そこにあったと
あとから分かる

幸せとは、
ずっと笑っていることでも、
正しく生きることでも、
救われることでもありません。

幸せとは、
明日も生きてみようと思える理由が、
ほんの一つ、残っていること。

それを
幸せと
呼んでもいいと思う

1/4/2026, 9:49:49 AM

『ハッピーにするために』


ぼくは
ハッピーを知っている
だって
教えてもらったから

泣いている顔は
ハッピーじゃない
だから
泣き止ませれば
それでいいんだ

道具は全部
正しく光っている
説明書も
ちゃんと読んだ

なのに
どうして
うまくいかないんだろう

笑ってほしくて
触っただけなのに
助けたくて
選んだだけなのに

世界は
ぼくの知らない音を立てて
壊れていく

「これを使えばいい」
「次はこうすればいい」
「前よりマシになるはず」

そう思うたび
誰かの目が
遠くなっていく

ぼくは
間違ってない
でも
合ってもいない

泣いている理由を
知らないまま
涙だけを
消そうとした

その人は
何も言わなかった
怒りもしなかった
ただ
どこにも行けない顔をしていた

そのとき
初めて
道具が
重くなった

ハッピーは
渡すものじゃなくて
奪えないものだと
知らなかった

ぼくは
そばにいればよかった
何もしなくて
よかった

でも
気づいたときには
戻る場所は
もうなかった

それでも
願ってしまう

次こそは
正しく
何もせずに
隣にいられますように

ハッピーを
作らなくても
失わない世界で

1/1/2026, 4:09:04 AM

『それでも春は来る』


もうすぐ春が来る
駅前の花屋が
昨日より少しだけ
色を増やしている

もうすぐ春が来る
君と出会った春が来る
改札を抜けた先で
名前を呼ばれた気がして
振り返る癖だけが残っている

コートのポケットに
去年のままの切符
使われなかった約束
時間は律儀に
それらを置き去りにしていく

もうすぐ春が来る
君がいない春が来る
それは思っていたより
静かで
思っていたより
ちゃんと朝が来る

ベランダに差し込む光は
君を連れてこない
それでも
洗濯物は乾き
珈琲は温かい

君と出会った春は
確かにここにあった
だから今
君がいない春も
嘘じゃない

もうすぐ春が来る
同じ速さで
違う意味を連れて
僕はそれを
拒まないことを覚え始めている

それが
大人になるということなら
せめて
この季節だけは
君の名前を
風に混ぜて歩こう

もうすぐ春が来る
君と出会った春が来る
君がいない春が来る

全部を抱えたまま
それでも
桜は咲く

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