YUYA

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9/12/2025, 1:18:10 PM

:霧の庭にて



まだ夜と朝の境がほどけきらぬころ、
若い旅人・蓮(れん)は古びた寺の門をくぐった。
世界の重さに押し潰されるような心を抱え、
ただ静けさを求めて歩き続けてきたのだった。



欲の園

境内を進むと、黄金の果実が輝く庭に出た。
香りは甘く、触れれば幸福がすぐにでも
掌に落ちてくるようだった。
だが果実をつかもうとした瞬間、
実は砂のように崩れ、風に散った。
「満たそうとすれば、ますます渇く。」
声なき声が蓮の胸に響いた。



怒りの炎

次に辿り着いたのは赤い火の回廊。
憎しみの炎が天井まで踊り、
かつて自分を傷つけた人の顔が
次々に火の中から現れた。
蓮は叫び返したくなったが、
一歩立ち止まり、深く息を吸った。
すると炎はしずかに、
灯りのような小さな光へと変わった。



無知の霧

最後に広がっていたのは濃い霧の庭。
一歩先も見えず、方向もわからない。
蓮は不安に胸を締め付けられたが、
足元だけを感じながら歩みを続けた。
やがて霧は薄れ、
朝日がゆっくりと庭を染めていった。



目覚め

蓮は自らの心に気づいた。
欲に追われ、怒りに燃え、
無知に迷いながらも、
ただ見つめ、ただ歩くことで
すべてが移ろい、消えていく。

石畳の上に座り、静かに息を整える。
朝の光が蓮の肩に落ち、
その瞳は澄みきっていた。

学び続ける限り、罪はもう力を持たない。

そして蓮は新しい一歩を踏み出した。

9/7/2025, 5:15:21 AM

残照の祈り


過ぎ去った日々に
言葉を置き忘れたまま
振り返れば ただ静かな影だけが
長く伸びている

太陽の色は 沈みゆき
未練を抱えた残照となって
胸の奥に 痛みと温もりを
同時に刻み込む

もしもう一度 あの日に戻れたなら
違う自分を生きられたのだろうか
答えのない問いを抱きながら
筆をとるしかない

それでも願う
この切ない光が
未来の誰かの窓辺に届き
小さな明かりとなるように

9/6/2025, 4:26:17 AM

静かな机の上に
白い紙と黒い影
筆をとる音だけが
一日の呼吸を刻む

窓の外 太陽の色が
やわらかく差し込み
心の奥に沈んだ過去も
光に溶けていく

間違いも 悔いも
すべてはこの穏やかな日常に
ゆるやかに溶け込み
新しい物語の種となる

今日もまた
筆先に宿る太陽の色で
自分を照らし
誰かの明日をあたためる

9/3/2025, 11:12:40 AM

初めはただ、
流れを目に映し、
師の背を追うのみ。
それが見習い。

やがて、
言われしことを形にし、
拙きながらも務めを果たす。
それは半人前。

さらに進めば、
己の知恵を働かせ、
自ら考え、道を選ぶ。
それこそ一人前。

そして最後に至れば、
人を育て、仕事を残し、
己を越える者を生み出す。
それを名人と呼ぶのだ。

8/31/2025, 2:05:28 PM

工場という場所は、なぜか「変な人の見本市」みたいになっている。
最初は「ここには変人が多いな」と思っていた。自分も昔から「変わり者」と言われてきたから、まあ同族に囲まれた感じで悪くないじゃないか、と。だが数ヶ月もすれば分かってくる。彼らは変人ではない。ただのおかしな人たちなのだ、と。

「変人」という言葉は、ある意味で褒め言葉だ。突拍子もないけれど独創性がある人、世間の常識にとらわれず自分の道を行く人。ちょっと変わっているけど、憎めないし、むしろ刺激をくれる存在。だが工場にいる人たちの多くは、その範疇には収まらない。

例えば、ネジを締める手を止めては延々と上司の悪口を垂れ流す人。昼休みになると必ず謎の健康法を語り出す人。人が困っているのを見ると妙にテンションが上がる人。これらは「個性」ではない。ただの「おかしな習性」だ。変人というより「工場奇人」とでも呼んだ方がしっくりくる。

そのことに気づいてから、逆に私は安心した。自分は彼らのように「ただおかしい」のではなく、少なくとも「変人」の領域に片足を突っ込んでいる。奇妙さの中にも筋がある、と信じられるだけマシだ。

結論を言えば、工場は変人の集まりではない。もっと単純に、世間の常識からちょっと外れた「おかしな人たち」の動物園だ。そしてその中で、「変人」として霞んでしまうどころか、むしろ相対的にまともに見えてしまう自分がいる。なんとも皮肉な話である。

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