YUYA

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5/15/2026, 11:37:54 PM

『弱さを抱いて歩く者へ』

宗教は、
願いを叶えるための扉ではなく、
問いの前に立つための灯りだった。

なぜ苦しいのか。
なぜ失うのか。
なぜ愛したものほど、
胸の奥で痛みに変わるのか。

人は祈った。
答えがほしかったからではない。
本当は、
答えに耐える力がほしかったのだ。

けれどいつしか祈りは、
傷を越えるためではなく、
傷を負わずに済むための言葉になった。

救われたい。
報われたい。
失いたくない。
痛みを知らずに、
望みだけを叶えたい。

けれど、
傷を負わずに得られるものなど、
きっと人の心には残らない。

愛するなら、怖くなる。
選ぶなら、失う。
進むなら、迷う。
生きるなら、
何度でも自分の弱さに出会う。

時代が変わっても、
人の苦しみはあまり変わらない。

石の神殿の前でも、
教会の椅子の上でも、
夜の部屋の片隅でも、
人は同じことで泣いている。

愛されたい。
忘れられたくない。
間違えたくない。
意味がほしい。
それでも明日を迎える理由がほしい。

人は忘れようとする。
忙しさで。
祈りで。
正しさで。
何も感じないふりで。

けれど、
忘れた痛みは消えない。
ただ心の奥で、
名前を呼ばれる日を待っている。

だから本当の救いとは、
苦しみが消えることではない。

傷ついたまま、
それでも朝を迎えられること。
迷ったまま、
それでも一歩を選べること。
弱いまま、
それでも誰かに優しくできること。

強さとは、
泣かないことではない。
壊れないことでもない。
何も怖がらないことでもない。

弱さを抱いたまま、
それを捨てず、
隠さず、
自分の影として連れていくこと。

そして、
その影ごと歩いていけること。

人は無敵にはなれない。
でも、弱さを敵にしないことはできる。

祈りはそのためにあり、
物語はそのためにあり、
言葉はそのために生まれた。

救いとは、
傷のない場所へ行くことではなく、
傷を抱えたままでも、
まだ生きる方へ歩けると知ること。

だから人は、
弱いままでいい。

弱いまま、
問いを持ち、
痛みを抱き、
それでも一歩ずつ進む。

その姿こそが、
人に許された、
いちばん静かな強さなのだ。

4/19/2026, 12:59:16 PM

夜は、理由をくれる

まだ準備が足りないとか
今じゃないとか
もう少し考えてからとか

優しい声で、
すべてを先延ばしにする

---

時計の針は進んでいるのに
心だけが、同じ場所に残っている

---

選ばなかった道が
足元に影のように重なっていく

踏み出せば消えると知っていても
踏み出す理由を探している

---

あの日も、そうだった

言えば変わると分かっていた言葉を
喉の奥で、何度も転がした

正しいタイミングを待って
正しい言葉を探して

結局、何も言えなかった

---

世界は何も変わらなかった

ただひとつ
自分の中の何かが
静かに、終わっただけだ

---

「決断に必要なのは時間や状況ではない」

どこかで聞いた言葉が
今さら胸に刺さる

---

雨が降る

理由が増える

今日は無理だ
明日にしよう
まだその時じゃない

---

でも、気づいている

いつだって
足りなかったのは時間じゃない

---

手のひらに残る
言えなかった言葉の温度

踏み出さなかった一歩の重さ

それらが、ずっと消えないまま
ここにある

---

だから

もう一度だけ
同じ夜に立つ

---

言い訳も
準備も
正しさも
全部、置いていく

---

震える声でもいい

間違ってもいい

遅すぎてもいい

---

それでも

---

一歩だけ、踏み出す

---

夜は、何も止めない

時間も、状況も
何も背中を押さない

---

ただひとつ

---

自分の意思だけが
静かに、前に出る

---

その瞬間

世界は、初めて動き出す

4/12/2026, 12:00:52 PM

「止まらないために」


歩けない日がある
靴ひもすら結べない朝もある

昨日までの自分が
遠くの他人みたいに感じる日もある

それでも
地面は消えない

一歩を拒む心の奥で
まだ、微かに残っているものがある

それは意志じゃない
決意でもない

ただの「接点」だ

ペンを持つでもいい
ノートを開くだけでもいい

何も書けなくても
そこにいることだけでいい

止まるな、じゃない

戻ってこい
何度でも

遠くへ行こうとしなくていい

ただ
離れすぎないように

自分と
ほんの少しだけ
繋がっていろ

3/29/2026, 10:55:45 PM

『水平線の光る朝に』


彼は、人に優しくあろうとしていた。

それは性格というより、ほとんど意志に近いものだった。
出来るだけ嘘はつかないように。
誰かが痛みを感じたとき、それを自分のことのように想像できるように。

そうやって生きていれば、どこかで間違えずに済むと思っていた。

けれど、ある日、彼は知る。

正しさは、ひとつではない。



誰かを守ろうとして選んだ言葉が、
別の誰かを深く傷つけていた。

気づいたときには、もう遅かった。

言葉は取り消せないし、
選ばなかった方の未来は、もう戻ってこない。

彼はその日から、何かを選ぶたびに、
同時に何かを失っている感覚に襲われるようになった。

それでも、人は選び続けなければならない。



朝、海に出た。

水平線が、静かに光っている。

あまりに整ったその景色は、
何もかもが正しい形に収まっているように見えた。

そのとき、不意に思い出した。

壊れた約束のこと。
守れなかった言葉のこと。

胸の奥で、何かが崩れ落ちる。

音はしなかった。
ただ、確かに崩れたとわかる感覚だけが残った。



風が吹く。

崩れたものの欠片が、どこかへ運ばれていく気がした。

彼には、それがどこへ行くのか分からない。

ただ、その先で、
それを「綺麗だ」と言う誰かがいるのかもしれないと、
ふと、思った。

それは、救いなのか、残酷なのか、判断がつかなかった。



その日の夜、彼は人に尋ねた。

「どうすれば、間違えずにいられると思う?」

相手は少し考えて、首を振った。

「見えないものを、大事にするしかないんじゃない?」

それだけだった。



心は、見えない。

だから、測ることも、比べることもできない。

それでも、人はそこに何かがあると信じて、
言葉を交わし、手を差し出す。

彼は、ようやく理解する。

自分は、ずっと“見えるもの”で正しさを測ろうとしていたのだと。

結果や評価、形になったものばかりを見て、
そこに至るまでの“見えないもの”を、
置き去りにしていたのだと。



日々は、静かに重なっていく。

気づけば、会えなくなった人がいる。

理由をはっきり思い出せるわけではない。
ただ、時間の中で少しずつ距離ができて、
そのまま戻らなくなっただけだ。

それもまた、選択の結果なのだろう。



ある夜、彼は夢を見た。

何かを成し遂げて、
たくさんの拍手を受けている夢だった。

歓声は大きく、
誰もが祝福しているように見えた。

けれど、その中に、
確かにひとつだけ、違う音が混じっていた。

悲鳴だった。

誰にも気づかれないほど小さな、
けれど、確かに存在する声。

彼はそこで目を覚ました。



答えは、ひとつではない。

それどころか、いくつもあって、
そのどれもが完全ではない。

人は、その中から選び続け、
そのたびに悩む。

その繰り返しの中でしか、
自分というものは見えてこないのだと、彼は思う。



誰の記憶にも残らない日がある。

何も成し遂げず、
何も変わらないまま終わる日。

それでも、確かにそこに自分はいた。

雑音と足音の中で、
確かに呼吸をしていた。

それを、否定する理由はどこにもない。



朝が来る。

また、水平線が光っている。

昨日と同じようでいて、
どこか違う光。

彼は、しばらくそれを見つめる。

崩れたものは、元には戻らない。
けれど、消えたわけでもない。

どこかへ流れていき、
形を変えて、
また誰かの目に触れるのだろう。



彼は思う。

それでいいのかもしれない、と。



正しさは、揺れる。
優しさも、時に人を傷つける。

それでも、人は願う。

出来るだけ嘘をつかず、
誰かの痛みを、自分のことのように思えるようにと。



水平線が光る朝に、
彼は静かに立っている。

何も解決していない。
何も終わっていない。

それでも、もう一度、歩き出す。



やがて彼も、見ることになるだろう。

自分が手放したものが、
どこかで光っているのを。

それが何だったのか、
そのとき、ようやく分かるのかもしれない。

3/25/2026, 10:47:14 PM

『雨の境目』


 駅を出ると、雨が降っていた。
 予報にはなかったはずだが、空は言い訳をする気もないように、均一な灰色で覆われている。

 屋根のある通路で足を止めていると、向こうから彼女が歩いてくるのが見えた。傘は差していない。少し濡れた髪が頬に張り付いている。以前と変わらない歩き方だった。

「久しぶり」

 そう言って、彼女は笑った。

 僕は何か言おうとして、うまく言葉が出てこなかった。代わりに、ポケットの中で指先が冷えたまま動かない。

「元気そうだね」

 彼女は続ける。
 まるで、昨日も会っていたかのような調子で。

 あの日のことを、思い出しているのかどうか、わからなかった。
 駅のホームで、電車が来る直前。言葉が交わされるより早く、扉が開いてしまったあの時間を。

 結局、僕は何も言えなかった。
 言わなかったのかもしれない。

「ねえ、傘、貸してくれない?」

 彼女は軽く首をかしげて、そう言った。
 僕の手元にある折りたたみ傘に視線を落とす。

 ああ、と思った。

 雨は、少し強くなっていた。
 通路の端から水滴が一定の間隔で落ちている。誰もそれを気にしていない。

 僕は黙って傘を差し出した。

「ありがとう」

 彼女は受け取ると、何のためらいもなく広げた。
 そして、そのまま振り返らずに歩き出す。

 背中はすぐに人混みに紛れていった。

 僕はしばらくその場に立っていた。
 濡れた地面に映る街の光が、ぼやけている。

 傘を渡した手が、少しだけ軽くなっていることに気づく。
 その軽さが、どこか現実味を欠いていた。

 やがて電車が来て、人の流れに押されるようにして僕も歩き出した。

 改札を抜ける頃には、雨の音は遠くなっていた。
 それでも、あの時言えなかった言葉だけが、ずっと近くに残っている。

 たぶん、これからも。

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