YUYA

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5/26/2025, 1:43:19 AM

『ことばの架け橋』



かつて、
言葉は 矢のように飛んでいた
ただ 自分の想いを まっすぐに放っていた

だけど ある日
届かない矢が 静かに地に落ちた
何も傷つけず 何も残せず

そのとき 初めて知ったんだ
伝えることと 伝わることは
同じようで まるで違うって

それから君は
耳を澄ませるようになった
相手の声にならない声に
目に見えない色に 気配に

そして今
言葉は矢じゃない
架け橋になったんだ
君と 誰かのあいだにかかる 細くて 強い橋

強くなくてもいい
完璧じゃなくてもいい
でも 誰かが渡ってくることを 願って紡ぐ

今日も君は
届く言葉を 探し続けている
その優しさが 言葉になる日を信じて

5/24/2025, 12:04:07 PM

「名前のないものたちへ」


文化って、
掲げるものじゃない
静かに、暮らしの端に灯るもの

おばあちゃんの煮物の香り
靴を脱いで上がる静けさ
手渡すときの「どうぞ」という声のやわらかさ

それらは誰も語らないけれど
誰の中にも確かに息づいていて
「私たちって、こういう人たちだったんだ」って
いつか思い出させてくれる

でも、いつからか
「守らなきゃ」が「触れたくない」に変わって
「大事だから」が「理由だから」にすり替わって
それを口にするたび、どこかが遠のいた

文化は、変わることを恐れない
本当に強いものは、
変わっても、そこにいられる

誇りは、静かで、誠実だ
叫ばないけど、
逃げる背中を、じっと見つめている

わたしはもう
それを理由にして、立ち止まるのはやめたい

受け継ぐって、形をなぞることじゃない
そこに温もりがあるか
その先に光をつなげられるか
それだけを、忘れずにいたいんだ

5/22/2025, 10:43:53 AM


「余光(よこう)」


我は一灯を守るものなり。
浮世の喧騒に耳を塞ぎて、
心の声にのみ従う。

人の選びし道の脇に、小径(こみち)あり。
誰ぞ踏みしめし跡もなく、
ただ草の音、風の匂い、
忘れられし価値の咲くところなり。

他人の棄てし残り物を、
我は宝と呼ぶ。
見向きもされぬ煮物の弁当に、
一人ほほ笑むを、狂気というなかれ。

思へば我が心、常に問いを抱きて歩みしなり。
解を欲せず、ただ問いの余韻に生きる。
それが癖にして、慰めなり。

人は日々を忙しげに追いしが、
我は日々の余白を拾うなり。
言葉の端、感情の片鱗、
その一つ一つに、世界を読む。

我が歩み、直線ならず。
しかし、遠回りの果てに、
我が見るものは、真にして深し。

人の目に映らぬ光なれど、
我は知る。
この静けさの奥に、確かなる熱を。

5/13/2025, 8:29:15 AM

拝啓 過去の私へ


静かな午後、窓辺でふと君のことを思い出しています。
どうしているだろう。あいかわらず、不器用に悩んだり、自分を責めたりしていないだろうか。

今日は、君に伝えたいことがあって、こうして手紙を書いています。

君はずっと、「人と違うこと」を恐れていたね。
浮かないように、傷つかないように、何度も自分を抑えた。
けれど今の私は言えるよ。
その「違い」こそが、君の美しさだった。
誰にも見つけられなかったものを見て、言葉にできなかった感情を丁寧に抱えようとした、
その静かな力が、何より君らしかった。

一方で、君は自分を褒めることをほとんどしてこなかったね。
いつも「まだまだだ」と言って、前だけを見つめていた。
でも、あの日の小さな一歩や、静かに誰かを思いやった優しさは、
もっと大切にしていいものだった。
私は今、君の過ごした時間を、心から誇りに思っているよ。

もし時を戻せるなら、私は君に伝えたい。
もっと「好き」を大事にしていい。
誰に認められなくても、誰の期待に応えられなくても、
「やりたいからやる」で、十分なんだ。

それからもうひとつ。
人に頼っていい。弱さを見せても、誰も君を嫌ったりしない。
強くあろうとすることも尊いけれど、柔らかくなることも、同じくらい勇気のいる選択なんだよ。

君が過ごした日々は、決して無駄じゃなかった。
むしろ、あの時間があったからこそ、今の私はこうして穏やかに生きていられる。

ありがとう。
そして、どうかこれからの時間は――君自身のために使ってほしい。
好きなことをして、心のままに生きていい。
それが、人生のほんとうの豊かさだから。

いつかまた会おう。
きっと、君は君のままで、やさしく歳を重ねていくから。

敬具
80歳の自分より

5/12/2025, 12:17:15 AM

掌に小さなカメラを握りしめ、
歩くたびにレンズは揺れる。

「これが私だ」と映すたび、
映るのは昨日の私。

川は今日も流れているのに、
映像の中の水は、止まったままだ。

そうして私は気付く。
フィルムを回す手を、一度そっと下ろしてみる。

風は、映さずとも吹いている。
光は、語らずとも射している。

「私」はきっと——
物語になる前の、名もないこの瞬間にだけ、
確かに息をしている。

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