拝啓 過去の私へ
静かな午後、窓辺でふと君のことを思い出しています。
どうしているだろう。あいかわらず、不器用に悩んだり、自分を責めたりしていないだろうか。
今日は、君に伝えたいことがあって、こうして手紙を書いています。
君はずっと、「人と違うこと」を恐れていたね。
浮かないように、傷つかないように、何度も自分を抑えた。
けれど今の私は言えるよ。
その「違い」こそが、君の美しさだった。
誰にも見つけられなかったものを見て、言葉にできなかった感情を丁寧に抱えようとした、
その静かな力が、何より君らしかった。
一方で、君は自分を褒めることをほとんどしてこなかったね。
いつも「まだまだだ」と言って、前だけを見つめていた。
でも、あの日の小さな一歩や、静かに誰かを思いやった優しさは、
もっと大切にしていいものだった。
私は今、君の過ごした時間を、心から誇りに思っているよ。
もし時を戻せるなら、私は君に伝えたい。
もっと「好き」を大事にしていい。
誰に認められなくても、誰の期待に応えられなくても、
「やりたいからやる」で、十分なんだ。
それからもうひとつ。
人に頼っていい。弱さを見せても、誰も君を嫌ったりしない。
強くあろうとすることも尊いけれど、柔らかくなることも、同じくらい勇気のいる選択なんだよ。
君が過ごした日々は、決して無駄じゃなかった。
むしろ、あの時間があったからこそ、今の私はこうして穏やかに生きていられる。
ありがとう。
そして、どうかこれからの時間は――君自身のために使ってほしい。
好きなことをして、心のままに生きていい。
それが、人生のほんとうの豊かさだから。
いつかまた会おう。
きっと、君は君のままで、やさしく歳を重ねていくから。
敬具
80歳の自分より
5/13/2025, 8:29:15 AM