掌に小さなカメラを握りしめ、歩くたびにレンズは揺れる。「これが私だ」と映すたび、映るのは昨日の私。川は今日も流れているのに、映像の中の水は、止まったままだ。そうして私は気付く。フィルムを回す手を、一度そっと下ろしてみる。風は、映さずとも吹いている。光は、語らずとも射している。「私」はきっと——物語になる前の、名もないこの瞬間にだけ、確かに息をしている。
5/12/2025, 12:17:15 AM