狐コンコン(フィクション小説)

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10/15/2024, 3:20:34 PM

8:鋭い眼差し 11


「本当にごめんね、睨んでるわけじゃないの。私、よく勘違いされちゃうんだ。」

そうやって歪に笑うあなたが大好き。

「ううん、大丈夫。」

本当はわざと横目で見たりして、睨んでるように見せてるの知ってるよ。
睨んでる?って聞かれて、嬉しくなってこっそり歪に笑ってるのも知ってるよ。

「私と仲良くしてくれるのなんて、あなたくらいだよ。こんな目つき悪いのに、いつもありがとう。」

本当は少し瞼が重いだけなのも知ってる
三白眼でもないことも知ってる
クラスの明るい子達に怯えてる事も知ってる
怯えるとその目がすぐ丸くなる事も知ってる
全部知ってる、あなたの事なら全部知ってる。

でも絶対教えてあげない

可愛いあなたを知ってるのは、私だけがいいから。

あなた自身でさえ気づいちゃだめ。

ずっと、ずうっと、出来るだけ長く、可愛いままでいてほしいから。

私の大嫌いな切れ長な目を見て綺麗って言ってくれたあなたを、他の人に教えたくないから。

優しくて可愛い、ちょっと歪なあなた。


「いいんだよ。ねぇ、私達、大人になっても変わらずに友達でいようね。私、貴方の鋭い目が大好きだから。」

10/13/2024, 4:07:59 AM

7:放課後 20



「あした、わたし卒業するんです。あそこの大きな木の根元で、私待ってます。あなたが来るまでずっと。」

でも縛り付けたいわけじゃないんです、と口から細く揺らめく声が蛇のように耳に入る。
来るまでずっと待ってるだなんて、縛りつける気しかないくせに。
その艶めかしい唇も、目も、髪も、相手を縛るには最適なもののくせに。



私はその日木の根元へ行かなかった。
離されないような気がして怖かったから。
きっとあいつの深い味を知ったら、今後他の人間を愛せなくなる気がしたから。



時が経ち、あの思い出の場所は閉校され大きな木も伐採された。私の不安の種は遂に無くなったのだ。


だから、私の家に飾ってある大木の絵画に、あいつが写っているのも気のせいに違いない。






あいつが魅力的なのが悪いんだ。

あの日俺を殺し損ねたからって、ここまで執着しなくていいだろ。

あいつが思わせぶりな事をしたせいなんだから、味見くらい構わないと思ったのに。しくったなぁ。

9/30/2024, 1:51:30 AM

6:静寂に包まれた部屋 14


小さい頃、静かな部屋が嫌いだった。
一人っ子は親を独り占めできるとか、甘やかされるとか、期待が重いとかよく聞くけど我が家は私が甘えたがりの末っ子気質という以外はよくありふれた一般の家庭だった。

ありふれてた。そのはず。

でも父は私より祖母を優先した。
何があろうと祖母からの電話に出て、私に話しかけるよりも優しい声で楽しそうに話した。
私が風邪をひいても、祖母が心配だと言い祖母の家へと去った。
私が泣きながら助けを求めた時、「近所に何て言われるか」と周りからの評価を第一に考えた。祖母へは「私は元気だよ」と伝えなさいと言われた。

母は私より祖父を優先した。
毎晩の電話に会話を切られる事が辛くて泣いて嫌だと言った時、心底めんどくさそうな顔で「そんな事で泣いているの?」と言い捨てた。
母が祖父と話す時、母の目に私はいつも写っていなかった。
風邪をひいた時、母は祖父から呼ばれてると言い祖父の家へと去った。

静かな部屋は嫌いだった。
起きたら誰もいなくて、涙が出るのに誰も拭ってくれないから。まま、ぱぱ、と大声でどれだけ呼ぼうと誰も来ないから。お腹が空いても何もないから。どれだけ熱が高くても誰も看病してくれないから。

耳がきぃんとするから。
世界にひとりぼっちのような気がするから。



どれだけ親を求めても、親は自分の親を求めるから。
私は誰の子供?あなたたちの子供じゃなかったの?

9/13/2024, 4:12:28 AM

5:本気の恋 13


私のこの気持ちは本物なのよ
恋愛なんてくだらないと言われようが、本物の定義を問われようが、この気持ちはどうしようもなく本物だと思えるの

あなたが目に入るたび色が増える
あなたの声が耳に入るたび音色が増える
あなたの香りが鼻に入るたび感覚が鋭くなっていく

あなたは炎を散らす花火
あなたは私を貫く閃光
あなたはどこまでも飛ぶ紙飛行機
あなたは人を酔わせるアルコール
あなたは人を動かす風
あなたは誰にも動かされない山

この気持ちに実をつけたいわけじゃないの
あなたの唯一になりたいわけでもないの

私の見えないところで、私の知らないところで、光の影になるところで

あなたは馬鹿みたいに笑って、幸せそうに生きていればいいの

9/11/2024, 7:24:42 PM

4:カレンダー 15


母親の7人に1人が
父親の10人に1人が
産後うつを経験しています

昔テレビで見たのを、なんとなく覚えてた。
なら、今の母さんと父さんもそうなのかな。

弟が出来る前は普通の家庭だった。
口うるさいけど優しくて私の事を真剣に考えてくれてた母さんに、怒ると怖いけど優しくてよく頭を撫でてくれてた父さんに、どこにでもいるちょっとワガママな私。

下の兄弟が出来るって分かった時、私も父さんも母さんもみんな喜んだ。今でさえ幸せなのにもっともっと幸せが増えるなんて、って凄く嬉しかった。

でも、弟は生まれる前から幸せじゃなく嵐を呼んできた。
つわりとイライラがとても酷かった母さんは、ずっと目の下にクマを作ってたまに壁を思いきり叩いては手の甲に血を滲ませてた。
荒んだ状態の母さんを見ていた父さんは、最初こそ母さんを支えていたけど遂に限界を迎えてあんまり家に帰らなくなった。
私が話しかけると、2人とも凄く嫌そうな顔をして「疲れてる」なんてお決まりの言葉を吐いて私から目線を逸らしてた。

生まれた後は更に酷くて、弟は泣き止む事が珍しいくらい泣きっぱなしの癇癪持ちで家はどんどん散らかって悪臭を放つようになっていった。
大声で怒鳴り母さんを責める父さん、泣きながらヒステリックに叫び返す母さんが日常の光景で、怒鳴り合いが始まるたびに私は甲高く泣き叫ぶ弟を抱いて別の部屋に避難し続けた。




毎日に疲れて、疲れて、疲れ続けて物凄く辛いのに、昔家族で仲良くめくっていた埃を被り黒ずんだカレンダーからいつも目を離せない。

(※フィクションです)

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