3:きらめき 16
「1人1人違う色のきらめきを持っている事を、忘れてはいけません。自分のきらめきを大事にして、お友達のきらめきも大事にする事。それが、皆から好かれる人になるためのポイントです。」
まだ小学校低学年のころ、よく先生が言っていたこの言葉は今でも私の中にある。
体育館でお尻が痛くなりながらも、先生達は立ってていいなぁなんて思いながらも、この先生が言っていた言葉だけは毎回しっかりと聞いていた。
きらめき。光。星。
違う色って、どんなのだろう。
赤、青、黄色、紫、緑。
あげればキリがないほど沢山の色があるなかで、私はどんな色なんだろう。
私は子供らしい笑顔を浮かべながら、いつも自分に合う色を想像していた。
そんな私は一度先生にこんな質問をしてみたことがある。
「せんせい、わたしってどんないろだとおもう?」
先生は少し驚いたように目を見開いた後、考え込んでしまった。
なにか変なことでも言ったのかな。なんですぐ返事してくれないんだろう。
パッと返事が返ってくると思っていた私は不安になり、後ろに組んでいた手をモジモジ動かしながら立ち尽くしてしまった。
やっぱり、いいです。そう言おうと私が口を開けたのと同時に、先生から返事が返ってきた。
「…うん、あなたは青色だと思うな。青色ってね、海や夜みたいな全てを包み込んでくれる…ぎゅってしてくれる色だと先生は思うの。安心できる色にもなるけど、道を教えてくれる色でもある。横断歩道の色とかも青だよね?」
「うん。でも、わたしともだちにぎゅってしたことないよ。」
「でも、あなたはよくお友達の喧嘩を止めたり1人になっちゃってる子と仲良くしてくれているって聞いてるよ。それに、先生がきらめきの話をする時楽しそうに聞いてくれてるでしょう?ありがとう。」
まさか先生からありがとうなんて言われると思ってなかった私は、顔を少し赤くしながら控えめに頷いたのを覚えてる。
今思えば、この先生は私の担任では無かったし特に関わりがあったわけでもなかったから、名前を覚えてないが故に「あなた」と呼ばれていたのかもしれない。
でもこの呼び方が私を大人扱いしてくれている気がして、ほんの少しだけ心が温まったのも覚えてる。
先生が教えてくれたきらめき。
私は成長するにつれて色々な事があり、人を怖がるようになってしまった。様々な音に怯えるようになってしまった。
でも、誰にでも違う色のきらめきがある。
たまたま私の色と相手の色が合わなかっただけで、みんなきらめきを持っている。
誰かを救う光を持っている。
そう思うと、ほんの少しだけ今までの色々を許せる気がするのだ。
2:不完全な僕 12
「あんたって、本当に何も出来ないのよね。」
おかあさんがぼくを見て言うことばは、これだけ。
べつに、ぶたれたり大きい声でおこられたりしない。
ただ、がっかりしたようなちょっとこわい目で見られるだけ。
おかあさんがためいきをするたび、知らない人に体をじろじろ見られるたび、ぼくはぼくじゃなくなっていくような気がする。
「おかあさん、ごめんね、ごめんね。うまれてきて、ごめんなさい。」
ぼくがあやまっても、おかあさんはぼくを見てくれない。
ちょっと前は、ぎゅってして、にこにこして、だいすきよって言ってくれたおかあさん。
また本をよみきかせて、あたまをなでてくれないかなぁ。
「あら、もういらないの?この人形。あなたこの子好きだったじゃない。小学生の時からこの子のお母さんだったんじゃないの?」
「もう、やめてよママ。私もう高校生なのよ。人形遊びなんてやってらんないし、捨てていいよ。」
ぼくのガラスの目にふわふわの体は、おかあさんの子どもとしてはたりなかったみたい
1:香水 16
私の隣に座るあの子は、いつも良い香りがする。
目の前を通るたび、制服が揺れるたび、微笑むたびにローズ系の少し強い花の匂いがする。
最初にあの子を見たとき、一生関わりのない世界にいる人だと思った。
長いまつげに大きい瞳、綺麗な二重に整えられた眉毛。小ぶりの鼻に形の良い唇が魅力的で、鴉の濡れ羽色のような髪に綺麗な体のライン。すべて女なら欲しがるようなパーツで構成されていて、まるで子供の頃憧れたお姫様が生きて歩いているようだった。
一瞬で人々の目線を奪うような人と私は、きっとそれぞれの世界を生きたままこの校舎から羽ばたくんだと思っていた。
高校に通って数ヶ月、変わらずあの子と私は特に関わりがないままそれぞれの世界を生きていた。
話しかけたい気持ちはもちろんあったけど、もしそれで気分を害したらと思うと怖くて実行できなかった。
小さい香水スプレーを押す姿がまるで絵画のようで、それをこっそりと見るだけで幸せだった。
でも、ある日あの子が話しかけてきた。
私のスマホに映るゲーム画面を見て、「ねぇ、そのゲーム好きなの?」なんて綺麗に笑顔を浮かべながら。
あぁ、あの子の瞳の中に私がいる!!!!!
全身の髪の毛が浮かび上がるような、顔を鷲掴みされているような不思議な感覚になった。
どうしよう、黙ったらきっとあの子は離れていってしまう、でも気安く話しかけるなんて出来ない。でも、あの子と話せる機会なんてもう無いかもしれない。
私はしばらく黙った末、少し震えた声で返事をした。
「うん、好き。○○ってキャラが特に好きで、あそんでるの。○○さんもこのゲームやっているの?」
「やってるよ。わたしの周りでこのゲームやっている子、全然見ないから○○ちゃんがやってるなんて嬉しいな。ね、○○ちゃんさえ良かったらフレンドになろうよ」
あの子はスマホを操作してゲーム画面を表示したあと、私の隣の席に座ってスマホの横で所在なさげに置かれていた私の手を
優しく包み込み、また綺麗な笑顔を浮かべてきた。
あの子が私の手を触っている
私の顔を見て、微笑んでいる
顔に熱が集まっていくのを感じる
手だって震えている
断らなきゃ、私みたいなのはお姫様の周りにいてはいけない
もっと綺麗な人達がお姫様の周りにいないといけない
なのに、綺麗なこの人からもう目を離せない
瞬きだってろくに出来ない
あの子のローズ系の香りが蛇のように絡みついてくる
「わたしのこと、ずっと見ていたでしょう?」
視界に入ったあの子のスマホは、インストール直後のゲーム画面が眩しく映っていた。