狐コンコン(フィクション小説)

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1:香水 16


私の隣に座るあの子は、いつも良い香りがする。

目の前を通るたび、制服が揺れるたび、微笑むたびにローズ系の少し強い花の匂いがする。


最初にあの子を見たとき、一生関わりのない世界にいる人だと思った。

長いまつげに大きい瞳、綺麗な二重に整えられた眉毛。小ぶりの鼻に形の良い唇が魅力的で、鴉の濡れ羽色のような髪に綺麗な体のライン。すべて女なら欲しがるようなパーツで構成されていて、まるで子供の頃憧れたお姫様が生きて歩いているようだった。
一瞬で人々の目線を奪うような人と私は、きっとそれぞれの世界を生きたままこの校舎から羽ばたくんだと思っていた。




高校に通って数ヶ月、変わらずあの子と私は特に関わりがないままそれぞれの世界を生きていた。
話しかけたい気持ちはもちろんあったけど、もしそれで気分を害したらと思うと怖くて実行できなかった。
小さい香水スプレーを押す姿がまるで絵画のようで、それをこっそりと見るだけで幸せだった。


でも、ある日あの子が話しかけてきた。
私のスマホに映るゲーム画面を見て、「ねぇ、そのゲーム好きなの?」なんて綺麗に笑顔を浮かべながら。


あぁ、あの子の瞳の中に私がいる!!!!!


全身の髪の毛が浮かび上がるような、顔を鷲掴みされているような不思議な感覚になった。
どうしよう、黙ったらきっとあの子は離れていってしまう、でも気安く話しかけるなんて出来ない。でも、あの子と話せる機会なんてもう無いかもしれない。

私はしばらく黙った末、少し震えた声で返事をした。

「うん、好き。○○ってキャラが特に好きで、あそんでるの。○○さんもこのゲームやっているの?」

「やってるよ。わたしの周りでこのゲームやっている子、全然見ないから○○ちゃんがやってるなんて嬉しいな。ね、○○ちゃんさえ良かったらフレンドになろうよ」

あの子はスマホを操作してゲーム画面を表示したあと、私の隣の席に座ってスマホの横で所在なさげに置かれていた私の手を
優しく包み込み、また綺麗な笑顔を浮かべてきた。


あの子が私の手を触っている


私の顔を見て、微笑んでいる


顔に熱が集まっていくのを感じる


手だって震えている


断らなきゃ、私みたいなのはお姫様の周りにいてはいけない


もっと綺麗な人達がお姫様の周りにいないといけない


なのに、綺麗なこの人からもう目を離せない


瞬きだってろくに出来ない


あの子のローズ系の香りが蛇のように絡みついてくる





「わたしのこと、ずっと見ていたでしょう?」








視界に入ったあの子のスマホは、インストール直後のゲーム画面が眩しく映っていた。

8/30/2024, 5:49:20 PM