8
「うるさいわ、静かにしてて。」
「静かにしたらわたし死んじゃうよ」
やわこい髪が、わたしの心臓を押さえつけている。
「なんで鼓動が早くならないのよ、私と一緒にいるのに。」
「早くなったらダメなんだよ」
むすくれた顔でわたしを睨むきみが好き
「私のこと好きじゃないのね。」
「大好きだよ、ずっと伝えてきたじゃない」
諦めたように目を伏せるきみが好き
「でも私諦めないわ。あなたは私の事が大好きだもの、どうせ私の元へ帰ってくるのよ。」
「全部お見通しか」
下がった眉でも気丈に笑おうとするきみが好き
「私あなたのことずっと待ってるのよ。あなたのこと、ずっと、ずっと……」
「泣かないで、きみに泣かれると困っちゃうよ」
でも、わたしを想って泣くきみは見たくない
もう少し寝ていようと思ったのに、きみが泣いたら寝れないよ
「泣かないで。」
暫く動いてなかったから、がさついた唇で声が掠れちゃったけれど、きみは驚きながらも幸せそうに笑って私に涙に濡れた悪戯っ子のような笑顔を見せてくれた。
「ああ、ほら、だから言ったでしょ、あなたは結局私の元へ帰ってくるのよ。あなたのお父様やお母様が諦めたって、周りがいくら私を諦めようとさせたって、私はあなたを諦めなかったんだから。あなたの音をちゃんと毎日聴いていたんだから!」
14
いつからか、音楽プレイヤーが手放せなくなりました。
小さい頃から音楽が純粋に好きで、様々な曲を聴いては親に感想を伝えるのが常でした。
わからないんです。いつから、手放せなくなったんでしょうか。
ずっと、音楽への愛は変わっていないんです。愛しています。音楽がいない世界はとてもくだらないとさえ思えます。
なのに、あの頃のように適切な音量で、適切な時間で、適切な楽しみ方が出来ないんです。
イヤホンをつけたあと、音が外へ逃げ出すような、鼓膜を震えさせるような音量に設定します。外へ出ている時、イヤホンを外す事は滅多にありません。流れる音楽なんて、テンポが早ければどれも同じように感じます。
おかしいんです。音楽が無ければ生きていけないのに、音楽を純粋に愛することができないんです。
愛しているのに、愛せないんです。
おかしいです、おかしいんです。どうしてこうなったんでしょうか。いつから音楽が手放せなくなったんでしょうか。
イヤホンの隙間から聞こえてくる車の音や雑踏が怖くなったのはいつからだったんでしょうか。
誰か教えてください、教えてください。
昔は、純粋に音楽を愛していたんです。
21?
木で出来ていて、ツギハギだらけで、所々腐っているから据えた匂いのする船。
泥船のほうがマシだと思うほどにボロボロなのに、何故か沈む事なくその船は進んでいきます。
進んで、進んで、進んだ先には何もありません。誰か愛しい人がいるわけでもありません。何か欲しかったものがあるわけでもありません。幸せなものが待っている確証は何もありません。
船が今浮かんでいるところだって、浅瀬の安全なところではありません。どんどん進んでしまっているから、もう海の底は見えません。深くて暗くて、今にも何かが船をパクリと食べてしまいそうです。
ですが、船は止まる事なく進んでいきます。
船長は船を止めようとも、進めようともしていません。今はただ時の流れと運命に身を委ねています。
ギシギシと軋んだ音をたて、船はますます進んでいきます。
昔は、もっと立派な船でした。
煌びやかな船体で、海はもっと緩やかで、船長を愛する人達も船に同乗していました。
ですが愛してくれる人達は時が経つにつれ下船していき、次第に海が荒々しく叫ぶようになり、気づけば船はボロボロになっていました。
海や海鳥達は、船長や船長の船をどんどんと傷つけ、壊していきます。船長がどんなに抵抗をしても攻撃を緩めません。ですが、次第に飽きて去っていきます。そしてまた、新しい波と海鳥達が攻撃をしてくるのです。
ただ、この船長が気づいていないだけで、この世界にはいくつか確かなことがあります。
船長が諦めない限り、この船が沈むことは決してありません。
そして船長が志を持ち続ければ船は強度を増していきます。
船長が航路を決め進めていけば波は追い風となり船の速度を上げてくれます。
船長が船を愛せば、船は輝きを増し昔の煌びやかだった頃の船に負けない美しさを映し出します。
船長、貴方は自分と共に歩んできた船を愛してあげてください。辛いことがあっても諦めてはいけません。迷った時は休んだって大丈夫です。過去に決めてきた航路が、波となり貴方が休んでる間の船を動かしてくれます。
読み手である貴方の航路に幸がある事を、船員である私は常に願っています。
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大好きな絵師さんからこのアプリを教えて頂き、少しずつ更新を続けた2024。とても良い年でした。
仄暗い系統が多い私の短編たちが今後見てくださる方々の感性に影響を与えることが出来ますように。
2025頑張るゾイ‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️
10:さよならは言わないで 11
「おかあさん!おかあさん!おいてかないで、おかあさん!いや、いや!」
世界が全部ぼやけてしまって何も見えないのに、手を伸ばすのが辞められなかった。
頭のどこかでこれが夢だという事が理解できて、夢の中だからか自分の意思とは関係なく体が動くのが酷く怖くて、焦燥感ばかりが増していく。
私の体がどれだけ手を伸ばしても輪郭がぼやけた女の人は歩くのを辞めてはくれなくて、それなのに数歩進む度に悩むように立ち止まりかける。
私を抱きしめて抑える人も、きっと暴れている拍子に腕や足が当たって痛いだろうに決して離さない。
頭はずっとキンキンと痛んで、鼻は啜る度に奥が痛んで、喉は叫ぶ度に擦り切れそうなほどに痛んで苦しいのに、離れていく女の人に戻ってきて欲しくて仕方がなかった。
あぁ、でも、いやだ、この後の事に聞こえる音がどうしても聞きたくない。どうしても耳にしたくないのに、夢は止まる事なく進んでいく。
やだ、あの言葉を聞きたくない、言わないで、おかあさん
「って夢を見たんだよねぇ。」
母さんに今日見た夢をそのまんま伝えると、鼻で笑いながら母さんはただの夢でしょ、の一言で済ませた。
結構壮大な夢だったのに。
まぁ、夢と違って母さんはここにしっかりいるし仕方ないのだけど。
「そんな夢早く忘れなさい。貴方はちゃんと私の子よ。」
「あの女が取り戻しに来ない限りはね」