狐コンコン(フィクション小説)

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5/11/2025, 6:06:59 PM

21?


木で出来ていて、ツギハギだらけで、所々腐っているから据えた匂いのする船。
泥船のほうがマシだと思うほどにボロボロなのに、何故か沈む事なくその船は進んでいきます。
進んで、進んで、進んだ先には何もありません。誰か愛しい人がいるわけでもありません。何か欲しかったものがあるわけでもありません。幸せなものが待っている確証は何もありません。

船が今浮かんでいるところだって、浅瀬の安全なところではありません。どんどん進んでしまっているから、もう海の底は見えません。深くて暗くて、今にも何かが船をパクリと食べてしまいそうです。
ですが、船は止まる事なく進んでいきます。
船長は船を止めようとも、進めようともしていません。今はただ時の流れと運命に身を委ねています。
ギシギシと軋んだ音をたて、船はますます進んでいきます。

昔は、もっと立派な船でした。
煌びやかな船体で、海はもっと緩やかで、船長を愛する人達も船に同乗していました。

ですが愛してくれる人達は時が経つにつれ下船していき、次第に海が荒々しく叫ぶようになり、気づけば船はボロボロになっていました。

海や海鳥達は、船長や船長の船をどんどんと傷つけ、壊していきます。船長がどんなに抵抗をしても攻撃を緩めません。ですが、次第に飽きて去っていきます。そしてまた、新しい波と海鳥達が攻撃をしてくるのです。




ただ、この船長が気づいていないだけで、この世界にはいくつか確かなことがあります。
船長が諦めない限り、この船が沈むことは決してありません。
そして船長が志を持ち続ければ船は強度を増していきます。
船長が航路を決め進めていけば波は追い風となり船の速度を上げてくれます。
船長が船を愛せば、船は輝きを増し昔の煌びやかだった頃の船に負けない美しさを映し出します。




船長、貴方は自分と共に歩んできた船を愛してあげてください。辛いことがあっても諦めてはいけません。迷った時は休んだって大丈夫です。過去に決めてきた航路が、波となり貴方が休んでる間の船を動かしてくれます。
読み手である貴方の航路に幸がある事を、船員である私は常に願っています。

12/31/2024, 1:55:25 PM

8
大好きな絵師さんからこのアプリを教えて頂き、少しずつ更新を続けた2024。とても良い年でした。

仄暗い系統が多い私の短編たちが今後見てくださる方々の感性に影響を与えることが出来ますように。


2025頑張るゾイ‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️

12/3/2024, 3:03:39 PM

10:さよならは言わないで 11


「おかあさん!おかあさん!おいてかないで、おかあさん!いや、いや!」

世界が全部ぼやけてしまって何も見えないのに、手を伸ばすのが辞められなかった。
頭のどこかでこれが夢だという事が理解できて、夢の中だからか自分の意思とは関係なく体が動くのが酷く怖くて、焦燥感ばかりが増していく。

私の体がどれだけ手を伸ばしても輪郭がぼやけた女の人は歩くのを辞めてはくれなくて、それなのに数歩進む度に悩むように立ち止まりかける。
私を抱きしめて抑える人も、きっと暴れている拍子に腕や足が当たって痛いだろうに決して離さない。

頭はずっとキンキンと痛んで、鼻は啜る度に奥が痛んで、喉は叫ぶ度に擦り切れそうなほどに痛んで苦しいのに、離れていく女の人に戻ってきて欲しくて仕方がなかった。

あぁ、でも、いやだ、この後の事に聞こえる音がどうしても聞きたくない。どうしても耳にしたくないのに、夢は止まる事なく進んでいく。
やだ、あの言葉を聞きたくない、言わないで、おかあさん







「って夢を見たんだよねぇ。」

母さんに今日見た夢をそのまんま伝えると、鼻で笑いながら母さんはただの夢でしょ、の一言で済ませた。
結構壮大な夢だったのに。
まぁ、夢と違って母さんはここにしっかりいるし仕方ないのだけど。

「そんな夢早く忘れなさい。貴方はちゃんと私の子よ。」







「あの女が取り戻しに来ない限りはね」

11/10/2024, 10:37:31 AM

9:ススキ 11
(仄暗い表現があります)


「うわぁ!ねぇ、何あのもこもこ草!すごいすごい!!」

濡羽色に艶めく髪が傷つく事も汚れる事も気にせずにススキ畑に足を踏み入れていくものだから、私はつい貴方の手を掴んだ。

「だ、だめだよ、あ、あぶ、あぶないよ。よ、汚れちゃうよ。き、き、きれいな髪なのに……せい、制服だって、ススキが…」

大きな大きな背のススキ畑が貴方をすっぽりと隠してしまいそうで怖かった。

柔らかいように見えるススキだって、貴方の綺麗な髪を傷つけることも綺麗な制服を汚す事も簡単なのに何も気にしていない。ただ興味があるから、その一心。

「危なくないよ。ねぇ、ほらキミもおいでよ!柔らかくて気持ちいいよ。このまま進んで行ったら面白そうじゃない?」

私が貴方の手を掴んでいるはずなのに、まるで貴方が私の手を引っ張ってるみたいに足がススキ畑へ向かって進んでいく。
夕焼けがススキを強く照らして、目がチカチカして涙が出てくる。


「大丈夫、きっと楽しいよ」


そんな事を言われたら、引き止められたことが正解だと思ってしまう

貴方みたいに自由にもなれないし、流暢に喋る事もできないし、顔が綺麗なわけでもないのに、生きようと思えてしまう

私達はただのクラスメイトで、貴方は私の手首を見ても気にしないでいる事も言いふらす事もできたのに。
それをしないで私に綺麗な景色をただ見せようとする



私達2人がすっぽりとススキ畑に埋もれてしまった時、ただ涙を流す私を見て貴方は柔らかい笑顔でぼそりと呟いた。



「悔いのない青春、一緒にしてみよう」

10/15/2024, 3:20:34 PM

8:鋭い眼差し 11


「本当にごめんね、睨んでるわけじゃないの。私、よく勘違いされちゃうんだ。」

そうやって歪に笑うあなたが大好き。

「ううん、大丈夫。」

本当はわざと横目で見たりして、睨んでるように見せてるの知ってるよ。
睨んでる?って聞かれて、嬉しくなってこっそり歪に笑ってるのも知ってるよ。

「私と仲良くしてくれるのなんて、あなたくらいだよ。こんな目つき悪いのに、いつもありがとう。」

本当は少し瞼が重いだけなのも知ってる
三白眼でもないことも知ってる
クラスの明るい子達に怯えてる事も知ってる
怯えるとその目がすぐ丸くなる事も知ってる
全部知ってる、あなたの事なら全部知ってる。

でも絶対教えてあげない

可愛いあなたを知ってるのは、私だけがいいから。

あなた自身でさえ気づいちゃだめ。

ずっと、ずうっと、出来るだけ長く、可愛いままでいてほしいから。

私の大嫌いな切れ長な目を見て綺麗って言ってくれたあなたを、他の人に教えたくないから。

優しくて可愛い、ちょっと歪なあなた。


「いいんだよ。ねぇ、私達、大人になっても変わらずに友達でいようね。私、貴方の鋭い目が大好きだから。」

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