大好きな絵師さんからこのアプリを教えて頂き、少しずつ更新を続けた2024。とても良い年でした。
仄暗い系統が多い私の短編たちが今後見てくださる方々の感性に影響を与えることが出来ますように。
2025頑張るゾイ‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️
10:さよならは言わないで 11
「おかあさん!おかあさん!おいてかないで、おかあさん!いや、いや!」
世界が全部ぼやけてしまって何も見えないのに、手を伸ばすのが辞められなかった。
頭のどこかでこれが夢だという事が理解できて、夢の中だからか自分の意思とは関係なく体が動くのが酷く怖くて、焦燥感ばかりが増していく。
私の体がどれだけ手を伸ばしても輪郭がぼやけた女の人は歩くのを辞めてはくれなくて、それなのに数歩進む度に悩むように立ち止まりかける。
私を抱きしめて抑える人も、きっと暴れている拍子に腕や足が当たって痛いだろうに決して離さない。
頭はずっとキンキンと痛んで、鼻は啜る度に奥が痛んで、喉は叫ぶ度に擦り切れそうなほどに痛んで苦しいのに、離れていく女の人に戻ってきて欲しくて仕方がなかった。
あぁ、でも、いやだ、この後の事に聞こえる音がどうしても聞きたくない。どうしても耳にしたくないのに、夢は止まる事なく進んでいく。
やだ、あの言葉を聞きたくない、言わないで、おかあさん
「って夢を見たんだよねぇ。」
母さんに今日見た夢をそのまんま伝えると、鼻で笑いながら母さんはただの夢でしょ、の一言で済ませた。
結構壮大な夢だったのに。
まぁ、夢と違って母さんはここにしっかりいるし仕方ないのだけど。
「そんな夢早く忘れなさい。貴方はちゃんと私の子よ。」
「あの女が取り戻しに来ない限りはね」
9:ススキ 11
(仄暗い表現があります)
「うわぁ!ねぇ、何あのもこもこ草!すごいすごい!!」
濡羽色に艶めく髪が傷つく事も汚れる事も気にせずにススキ畑に足を踏み入れていくものだから、私はつい貴方の手を掴んだ。
「だ、だめだよ、あ、あぶ、あぶないよ。よ、汚れちゃうよ。き、き、きれいな髪なのに……せい、制服だって、ススキが…」
大きな大きな背のススキ畑が貴方をすっぽりと隠してしまいそうで怖かった。
柔らかいように見えるススキだって、貴方の綺麗な髪を傷つけることも綺麗な制服を汚す事も簡単なのに何も気にしていない。ただ興味があるから、その一心。
「危なくないよ。ねぇ、ほらキミもおいでよ!柔らかくて気持ちいいよ。このまま進んで行ったら面白そうじゃない?」
私が貴方の手を掴んでいるはずなのに、まるで貴方が私の手を引っ張ってるみたいに足がススキ畑へ向かって進んでいく。
夕焼けがススキを強く照らして、目がチカチカして涙が出てくる。
「大丈夫、きっと楽しいよ」
そんな事を言われたら、引き止められたことが正解だと思ってしまう
貴方みたいに自由にもなれないし、流暢に喋る事もできないし、顔が綺麗なわけでもないのに、生きようと思えてしまう
私達はただのクラスメイトで、貴方は私の手首を見ても気にしないでいる事も言いふらす事もできたのに。
それをしないで私に綺麗な景色をただ見せようとする
私達2人がすっぽりとススキ畑に埋もれてしまった時、ただ涙を流す私を見て貴方は柔らかい笑顔でぼそりと呟いた。
「悔いのない青春、一緒にしてみよう」
8:鋭い眼差し 11
「本当にごめんね、睨んでるわけじゃないの。私、よく勘違いされちゃうんだ。」
そうやって歪に笑うあなたが大好き。
「ううん、大丈夫。」
本当はわざと横目で見たりして、睨んでるように見せてるの知ってるよ。
睨んでる?って聞かれて、嬉しくなってこっそり歪に笑ってるのも知ってるよ。
「私と仲良くしてくれるのなんて、あなたくらいだよ。こんな目つき悪いのに、いつもありがとう。」
本当は少し瞼が重いだけなのも知ってる
三白眼でもないことも知ってる
クラスの明るい子達に怯えてる事も知ってる
怯えるとその目がすぐ丸くなる事も知ってる
全部知ってる、あなたの事なら全部知ってる。
でも絶対教えてあげない
可愛いあなたを知ってるのは、私だけがいいから。
あなた自身でさえ気づいちゃだめ。
ずっと、ずうっと、出来るだけ長く、可愛いままでいてほしいから。
私の大嫌いな切れ長な目を見て綺麗って言ってくれたあなたを、他の人に教えたくないから。
優しくて可愛い、ちょっと歪なあなた。
「いいんだよ。ねぇ、私達、大人になっても変わらずに友達でいようね。私、貴方の鋭い目が大好きだから。」
7:放課後 20
「あした、わたし卒業するんです。あそこの大きな木の根元で、私待ってます。あなたが来るまでずっと。」
でも縛り付けたいわけじゃないんです、と口から細く揺らめく声が蛇のように耳に入る。
来るまでずっと待ってるだなんて、縛りつける気しかないくせに。
その艶めかしい唇も、目も、髪も、相手を縛るには最適なもののくせに。
私はその日木の根元へ行かなかった。
離されないような気がして怖かったから。
きっとあいつの深い味を知ったら、今後他の人間を愛せなくなる気がしたから。
時が経ち、あの思い出の場所は閉校され大きな木も伐採された。私の不安の種は遂に無くなったのだ。
だから、私の家に飾ってある大木の絵画に、あいつが写っているのも気のせいに違いない。
あいつが魅力的なのが悪いんだ。
あの日俺を殺し損ねたからって、ここまで執着しなくていいだろ。
あいつが思わせぶりな事をしたせいなんだから、味見くらい構わないと思ったのに。しくったなぁ。