12
私は私の笑顔が大嫌い
いじめられていた時に、散々言われたから。
ずっとずっと暗い道を歩いて、下を向いて、私の足だけが視界の全て。
それで人生終わると思ってた。
でも、貴方に会ってから変わったの
貴方は笑顔を誉めてくれた
私の生き様を認めてくれた
いじめてきたあいつを否定するのでもなく、いじめられた私を甘やかすのでもなく
ただ私が私であることを、私が私として生きてきた事だけを
それだけを見て私のそばにいたいと言ってくれた
だから私救われたの
心から笑えるようになったの!
視界が貴方でいっぱいになったのよ!
私、貴方のこと大好きよ
私を大衆の一人にしてくれたから。
悲劇のヒロインではなくて、ただの雑多の中の一人に戻してくれたから。
ありがとう、笑顔が素敵な貴方。
10
私の背中を押す人を見た事はない
ただ、押された記憶だけは確かにある
ブランコに腰を下ろして、頭を俯かせると
どこからともなく、風が吹いたのか
背中に力を感じるのだ
もっと強くとねだると、力は更に強くなる
だけど、どうしてだろう。
私はいつからブランコに乗っていたのか、思い出せない。
私はどれくらい、ブランコを漕いでいるの?
「母さん、そろそろ帰ろうか。今夜は父さんが作ったシチューがあるよ。」
「なぁに、やめて、私はあなたのお母さんじゃない。ちゃんと名前があるの。紀美よ。みんなからは、きぃちゃんと呼ばれてるの。」
「あぁ、ごめんね、きぃちゃん。僕のお父さんがね、ご飯を用意しておうちで待ってるんだ。ほら、いつもブランコ、押してくれている人だよ。」
「そうなの?」
「今日は僕が押していたけれどね、いつもはお父さんが押しているんだ。優しい人だよ、きぃちゃんにも会ってほしいなぁ。ねぇ、父さんのご飯食べに行かないかい?」
私は少し考えたあと、背の高いお兄さんと手を繋いでお家にお邪魔する事にした。
だって、お腹が空いたんだもの。
それに早く帰らないと、あの人がお腹を空かせているだろうから。
私の愛しい人。
ふふ、早く美味しいご飯を作ってあげないと。
あら、あの人って、誰だったかしら。
7
「あんたが羨ましくて、憎らしい。」
伏せた目で告げられたそれは、いつもの軽いものではなかった。
重苦しく、暗く、粘着質だった。
「普通の生活送ってるクセにさ、悩み事なんか吹かないでほしいんだよね。親に愛されてないアタシの苦しさに比べたら、マシなんだから。」
じろり、と目玉がこちらへ向いて、私の心の臓まで見透かしているかのように口を動かす。
先程まで友達であったはずなのに、もう友達ではないように感じて、喉が狭まったように思える。
「どうしたの、何でそんないきなり。」
「いきなりじゃない、本当はずっと言いたかったの。だって普通のアンタに私のことなんて分かるわけない。友達なんて最初っから無理だったの。」
そう言って髪をぐしゃぐしゃと掻き回す姿を見て、あぁ彼女はきっといつもの状態ではなくて、俗にいう"病んだ"状態なのだと察した。
こういう事は前からあった。
ふとした瞬間にこうやって攻撃的になり、私に対して敵意を剥き出しにする。
私はそれを受け止め、冷静に戻った彼女からの謝罪を受け入れるのが常だった。
常だった、けれど。
何度こうやって、彼女のお世話をしたのだろうか。
私だって言いたい事を彼女に伝えても、バチは当たらないのではないか。
そう思ってしまって、つい、思っていた事が口からこぼれてしまった。
「貴方みたいな人がいるせいで、私のようにグレーの人間が苦しみを伝えづらいのよ。もちろん愛されてない貴方は、可哀想よ。本当に可哀想な人。でも、いつも愛してくれる親から産まなければよかったと一度でも言われた気持ち、貴方には分からないでしょう?」
すると彼女は"可哀想な人"の部分だけを受け取ってしまったようで、半狂乱で髪を振り乱し、大声でみっともなく泣き喚き始めた。
彼女に届けたかった思いは、結局彼女には都合の良いところしか受け取ってもらえないのだと心の奥深くで落胆する。
「精神が病んでいるからって、何でも許されると思っていたのね。もう、貴方のベビーシッターはやめさせてね。」
私はそう言って部屋の隅に置いていたバックを手に取り、玄関へ歩みを進めた。
一度でも振り返ったら、また彼女のベビーシッターに戻ってしまうと思って、彼女の声を背に浴びたまま玄関のドアを開ける。
「いかないで、ねぇ、ねぇ!こんなに私を傷つけたんだから、責任とってよ!私の辛さわからなくてもいいから、私に寄り添って、話を聞いて、優しくしてよ!!」
涙を撒き散らしながら怒りをぶつけてくる彼女に、私は寂しい気持ちになりながら答えた。
「これからは、窓口とか、インターネットにでも頼ってね。私は貴方の怒りを受け止めるお気に入りのぬいぐるみでもなんでもない、一人の人間なの。」
最後に一息吸い込んで、今まで長く友達を続けてくれた彼女に別れの言葉を送った。
「友達でいてくれてありがとう、楽しかった。貴方がいつか幸せになれるように、願ってるからね。」
そして無機質なドアが閉まる音と共に、彼女の声はぴたりと聞こえなくなった。
15
街へ下りてはいけません
貴方はそれを口酸っぱく言うから、僕は反抗心で街へ下りた。
怖いことなんて何もない。
街の人間は優しくて、温かいご飯をくれることを僕は知っている。
危ないだなんて嘘っぱちだ。
みんな臆病なだけ。
そのはずだったのに、随分体が軽くなった。
人間の温もりが心地いい。
いやだ、いやだ、いやだ、こんな温もり欲しくない、いらない。
心地いい。
人間の温もり?
温もり、わからない、いやだ、心地いい、違う、心地よくなんてない!
これは僕の温もりじゃない!!
「なんかよぉ、街に下りてくるやつら随分減ったよなぁ。寒くて仕方ねえよ。数が減ったのかねぇ?」
「ばかだな、こいつは子供だぞ。あいつら、獣のくせに街は危ねえと学習しちまってんだ。だから、ガキしか下りてこないんだ。」
「えぇ?獣のくせに学習なんてすんのか?嫌だなぁ、また山ン中入るのかよぉ。」
「しょうがねえだろ、俺たち人間様が冬を越すためだ。毛皮で暖を、毛皮を売った金で暖を。暖をとるためだ。」
その年、群れを見つけた狩人達は大量の獣を狩り、毛皮をこしらえ、無事に冬を越す事が出来たそうです。
めでたし、めでたし
9
私がゆっくり目をあけると、飛び込んできたのは近づけすぎてぼやけたきみの目。
「あら、やっと見れたわ。私の日の出。」
少しむすくれた顔が可愛くて、顔にかかってくすぐったいきみの髪を指に絡めながら問いかける。
「私のこと?」
「そうよ、当たり前じゃない。出会った時からずっと私を見てくれてる真っ黒な太陽。ずぅっと私と皆既月食してるから真っ黒なのよ。」
「ふぅん、そうしたらきみはお月様なの?」
「そうよ。私とあなたは一緒の存在じゃないし、一緒にはなれないけれど、同じ早さで同じように進んで動いていくの。だから、あなたは私の太陽。」
カラーコンタクトと髪染めで目も髪も金色のきみは、至極当然のようにこれからも自分たちはずっと一緒にいるのだと暗に伝えてくる。
「寝起きの私の目を日の出に例えるなんて、きみも中々くさい人だね。」
「ま、失礼なひと。」
頬を膨らませながら私の心臓の位置に頭を預けるきみの体は暖房で温められていて、なんだか猫のように思えて頭を撫でた。
「私たち、何があっても一緒にいましょうね。」