狐コンコン(フィクション小説)

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7/28/2025, 1:49:45 PM

虹のはじまりを探して、歩いて、その先には何もなかった。

始まりもなかった。終わりもなかった。

遠くから眺めて、綺麗と思うその瞬間だけが虹の存在する理由だった。

空のように果てしなく広がるわけでもなく、雲のように揺らぎ動くものでもなく、太陽のように照らすわけでも、月のようにそこにあるわけでもない。

ただ気まぐれのように姿を見せて、美しさを散々見せびらかして満足して消えていくだけだった。

はじまりもおわりも無く、かといって始まりが見つからないからといって存在しないわけでもない。

虹は己の美しい姿を見せびらかしてサッサと消えていく、蝶のようなものなのかもしれない。

7/20/2025, 10:20:53 AM

12


「う、うう、ううう、うう、あ、あぁ………」

「きみって、相変わらず泣くのが下手っぴだねぇ」

くしゃくしゃになった顔に、ぼたぼた溢れ落ちていく涙に、ちょっとの鼻水とよだれ。
きみはよく大衆的な感動映画を見ては「私もこんなふうに泣くのよ」と大口を叩くくせに、蓋を開ければこれだもの。

「いや、いやよ。絶対にいやなの。ねぇ、一緒に行きましょうよ。私をひとりにしないで。」

泣きすぎて汗ばんだ体が、私の体にゆっくりとくっついていく。なめくじみたいで愛おしいけど、私達が一緒にいるわけにはいかないから、そっと体を離す。

「でも、ほら。しょうがないよ。きみ、親孝行するんだって言ってたじゃない。他の人と結婚して、笑顔を沢山見せてあげないと。」

綺麗に染められた金髪の髪に手を通すと、相変わらずの癖っ毛が少しだけくすぐったい。

「なら、一緒に説得しましょうよ。私、あなた以外を知らないの。あなた以外を知りたくもないわ。だから、あなたが似合うと言ってくれた色に髪も染めた。ほら、爪だってキラキラしてるでしょう。あなたが褒めていたデザインよ。」

きみが伸ばした手が私の腕を絡めて離さないのを、拒めない。

出会った時、きみは明らかな良いところのお嬢様で、ほんの少しからかってやろうと思っただけだったのに。
濡羽色の髪は痛みやすい金髪を勧めて、丁寧にケアされていた爪もゴテゴテした重いネイルになるようにワザときみの前で褒めちぎったのに。

気づいたら私はきみに夢中で、どうしようもなく愛おしくて、目が離せなくなった。


病院に行く時も優しく付き添ってくれて、症状が出てもきみは臆することなく私が落ち着くのを待ってくれた。

でも少しずつきみの体に怪我が増えていくのを私は許せなかったから。

こんな私といてはだめだから、わざときみの御実家に連絡して、迎えが来るように仕向けた。

「さぁ、ほら帰ろう。こんな奴といてはダメだ。」

「いや、いやよ父さん。離して、離して!!」

きみはバカだから、きみの手を引くお父さんが心苦しそうな顔をしているのも気づかない。

きみはバカだから、きみのお父さんが一度も私をこの女と言わないことに気づかない。私たちを性別だけで判断しない人なことに、気づかない。

きみはバカだから、アンビバレントは治る事は無いから、きみと一緒にはいられないと伝えても聞き分けない。





「傷つけてごめんね、紀美ちゃんだけは幸せに生きるんだよ。今を生きるんだよ。」





私もバカだから、涙を流しながら下手な言葉を伝えるしかできなかった。

6/14/2025, 9:36:15 AM

8

 「うるさいわ、静かにしてて。」

「静かにしたらわたし死んじゃうよ」

やわこい髪が、わたしの心臓を押さえつけている。

「なんで鼓動が早くならないのよ、私と一緒にいるのに。」

「早くなったらダメなんだよ」

むすくれた顔でわたしを睨むきみが好き

「私のこと好きじゃないのね。」

「大好きだよ、ずっと伝えてきたじゃない」

諦めたように目を伏せるきみが好き

「でも私諦めないわ。あなたは私の事が大好きだもの、どうせ私の元へ帰ってくるのよ。」

「全部お見通しか」

下がった眉でも気丈に笑おうとするきみが好き

「私あなたのことずっと待ってるのよ。あなたのこと、ずっと、ずっと……」

「泣かないで、きみに泣かれると困っちゃうよ」

でも、わたしを想って泣くきみは見たくない

もう少し寝ていようと思ったのに、きみが泣いたら寝れないよ




「泣かないで。」

暫く動いてなかったから、がさついた唇で声が掠れちゃったけれど、きみは驚きながらも幸せそうに笑って私に涙に濡れた悪戯っ子のような笑顔を見せてくれた。



「ああ、ほら、だから言ったでしょ、あなたは結局私の元へ帰ってくるのよ。あなたのお父様やお母様が諦めたって、周りがいくら私を諦めようとさせたって、私はあなたを諦めなかったんだから。あなたの音をちゃんと毎日聴いていたんだから!」

6/12/2025, 6:56:04 PM

14

いつからか、音楽プレイヤーが手放せなくなりました。

小さい頃から音楽が純粋に好きで、様々な曲を聴いては親に感想を伝えるのが常でした。

わからないんです。いつから、手放せなくなったんでしょうか。

ずっと、音楽への愛は変わっていないんです。愛しています。音楽がいない世界はとてもくだらないとさえ思えます。

なのに、あの頃のように適切な音量で、適切な時間で、適切な楽しみ方が出来ないんです。

イヤホンをつけたあと、音が外へ逃げ出すような、鼓膜を震えさせるような音量に設定します。外へ出ている時、イヤホンを外す事は滅多にありません。流れる音楽なんて、テンポが早ければどれも同じように感じます。

おかしいんです。音楽が無ければ生きていけないのに、音楽を純粋に愛することができないんです。

愛しているのに、愛せないんです。

おかしいです、おかしいんです。どうしてこうなったんでしょうか。いつから音楽が手放せなくなったんでしょうか。

イヤホンの隙間から聞こえてくる車の音や雑踏が怖くなったのはいつからだったんでしょうか。
誰か教えてください、教えてください。




昔は、純粋に音楽を愛していたんです。

5/11/2025, 6:06:59 PM

21?


木で出来ていて、ツギハギだらけで、所々腐っているから据えた匂いのする船。
泥船のほうがマシだと思うほどにボロボロなのに、何故か沈む事なくその船は進んでいきます。
進んで、進んで、進んだ先には何もありません。誰か愛しい人がいるわけでもありません。何か欲しかったものがあるわけでもありません。幸せなものが待っている確証は何もありません。

船が今浮かんでいるところだって、浅瀬の安全なところではありません。どんどん進んでしまっているから、もう海の底は見えません。深くて暗くて、今にも何かが船をパクリと食べてしまいそうです。
ですが、船は止まる事なく進んでいきます。
船長は船を止めようとも、進めようともしていません。今はただ時の流れと運命に身を委ねています。
ギシギシと軋んだ音をたて、船はますます進んでいきます。

昔は、もっと立派な船でした。
煌びやかな船体で、海はもっと緩やかで、船長を愛する人達も船に同乗していました。

ですが愛してくれる人達は時が経つにつれ下船していき、次第に海が荒々しく叫ぶようになり、気づけば船はボロボロになっていました。

海や海鳥達は、船長や船長の船をどんどんと傷つけ、壊していきます。船長がどんなに抵抗をしても攻撃を緩めません。ですが、次第に飽きて去っていきます。そしてまた、新しい波と海鳥達が攻撃をしてくるのです。




ただ、この船長が気づいていないだけで、この世界にはいくつか確かなことがあります。
船長が諦めない限り、この船が沈むことは決してありません。
そして船長が志を持ち続ければ船は強度を増していきます。
船長が航路を決め進めていけば波は追い風となり船の速度を上げてくれます。
船長が船を愛せば、船は輝きを増し昔の煌びやかだった頃の船に負けない美しさを映し出します。




船長、貴方は自分と共に歩んできた船を愛してあげてください。辛いことがあっても諦めてはいけません。迷った時は休んだって大丈夫です。過去に決めてきた航路が、波となり貴方が休んでる間の船を動かしてくれます。
読み手である貴方の航路に幸がある事を、船員である私は常に願っています。

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