狐コンコン(フィクション小説)

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21?


木で出来ていて、ツギハギだらけで、所々腐っているから据えた匂いのする船。
泥船のほうがマシだと思うほどにボロボロなのに、何故か沈む事なくその船は進んでいきます。
進んで、進んで、進んだ先には何もありません。誰か愛しい人がいるわけでもありません。何か欲しかったものがあるわけでもありません。幸せなものが待っている確証は何もありません。

船が今浮かんでいるところだって、浅瀬の安全なところではありません。どんどん進んでしまっているから、もう海の底は見えません。深くて暗くて、今にも何かが船をパクリと食べてしまいそうです。
ですが、船は止まる事なく進んでいきます。
船長は船を止めようとも、進めようともしていません。今はただ時の流れと運命に身を委ねています。
ギシギシと軋んだ音をたて、船はますます進んでいきます。

昔は、もっと立派な船でした。
煌びやかな船体で、海はもっと緩やかで、船長を愛する人達も船に同乗していました。

ですが愛してくれる人達は時が経つにつれ下船していき、次第に海が荒々しく叫ぶようになり、気づけば船はボロボロになっていました。

海や海鳥達は、船長や船長の船をどんどんと傷つけ、壊していきます。船長がどんなに抵抗をしても攻撃を緩めません。ですが、次第に飽きて去っていきます。そしてまた、新しい波と海鳥達が攻撃をしてくるのです。




ただ、この船長が気づいていないだけで、この世界にはいくつか確かなことがあります。
船長が諦めない限り、この船が沈むことは決してありません。
そして船長が志を持ち続ければ船は強度を増していきます。
船長が航路を決め進めていけば波は追い風となり船の速度を上げてくれます。
船長が船を愛せば、船は輝きを増し昔の煌びやかだった頃の船に負けない美しさを映し出します。




船長、貴方は自分と共に歩んできた船を愛してあげてください。辛いことがあっても諦めてはいけません。迷った時は休んだって大丈夫です。過去に決めてきた航路が、波となり貴方が休んでる間の船を動かしてくれます。
読み手である貴方の航路に幸がある事を、船員である私は常に願っています。

5/11/2025, 6:06:59 PM