12
「う、うう、ううう、うう、あ、あぁ………」
「きみって、相変わらず泣くのが下手っぴだねぇ」
くしゃくしゃになった顔に、ぼたぼた溢れ落ちていく涙に、ちょっとの鼻水とよだれ。
きみはよく大衆的な感動映画を見ては「私もこんなふうに泣くのよ」と大口を叩くくせに、蓋を開ければこれだもの。
「いや、いやよ。絶対にいやなの。ねぇ、一緒に行きましょうよ。私をひとりにしないで。」
泣きすぎて汗ばんだ体が、私の体にゆっくりとくっついていく。なめくじみたいで愛おしいけど、私達が一緒にいるわけにはいかないから、そっと体を離す。
「でも、ほら。しょうがないよ。きみ、親孝行するんだって言ってたじゃない。他の人と結婚して、笑顔を沢山見せてあげないと。」
綺麗に染められた金髪の髪に手を通すと、相変わらずの癖っ毛が少しだけくすぐったい。
「なら、一緒に説得しましょうよ。私、あなた以外を知らないの。あなた以外を知りたくもないわ。だから、あなたが似合うと言ってくれた色に髪も染めた。ほら、爪だってキラキラしてるでしょう。あなたが褒めていたデザインよ。」
きみが伸ばした手が私の腕を絡めて離さないのを、拒めない。
出会った時、きみは明らかな良いところのお嬢様で、ほんの少しからかってやろうと思っただけだったのに。
濡羽色の髪は痛みやすい金髪を勧めて、丁寧にケアされていた爪もゴテゴテした重いネイルになるようにワザときみの前で褒めちぎったのに。
気づいたら私はきみに夢中で、どうしようもなく愛おしくて、目が離せなくなった。
病院に行く時も優しく付き添ってくれて、症状が出てもきみは臆することなく私が落ち着くのを待ってくれた。
でも少しずつきみの体に怪我が増えていくのを私は許せなかったから。
こんな私といてはだめだから、わざときみの御実家に連絡して、迎えが来るように仕向けた。
「さぁ、ほら帰ろう。こんな奴といてはダメだ。」
「いや、いやよ父さん。離して、離して!!」
きみはバカだから、きみの手を引くお父さんが心苦しそうな顔をしているのも気づかない。
きみはバカだから、きみのお父さんが一度も私をこの女と言わないことに気づかない。私たちを性別だけで判断しない人なことに、気づかない。
きみはバカだから、アンビバレントは治る事は無いから、きみと一緒にはいられないと伝えても聞き分けない。
「傷つけてごめんね、紀美ちゃんだけは幸せに生きるんだよ。今を生きるんだよ。」
私もバカだから、涙を流しながら下手な言葉を伝えるしかできなかった。
7/20/2025, 10:20:53 AM