お題 怖がり
僕は忘れ物を取りに夜の教室に忍び込んだ。あたりは暗く、窓から見える街の明かりは僕に帰ってこいと呼びかけているようだった。僕は課題のプリントを手に取ると急いで廊下に出た。
しばらく歩き続けると先程までは聞こえなかった水の流れる音が聞こえた。行きには無かったこの音は僕の心をかき乱した。水の音の原因はすぐにわかった。水道だ。
僕は水道の近くを通りかかると、音について思考から追い出そうと考えながら蛇口のハンドルを捻った。その瞬間僕の不安の種の半分だけが消えた。もう半分はどうして水が流れたのかだ。僕は無事に帰れる可能性を信じ込むために、元から流れていたとして必死に記憶を塗り替えた。
僕は水道の近くに窓に近寄った。そして窓を開けると、手をそっと出してみた。触れた風は冷たく、ここは三階の外だということをに伝えた。このまま一階まで戻りたくなかった。しかし道窓から出て道を短縮で来たとして、怪我をするリスクを負うのも恐ろしかった。僕は一瞬の恐怖より、長く怯えながら安全に帰る道を選んだ。
窓から顔を覗く月を見ながら、ゆっくりゆっくりと昇降口までたどり着いた。時計の針は来たときに刺していたところからずいぶんと遠ざかっていた。僕は長い帰り道を思いながら、校門の向こう側に足を出して、そのまま家に向かった。一回後ろを振り返って、誰かいるんじゃないかという感覚を納得させてから。
本当にあの学校はあの時誰もいなかったのだろうか。そんなことをずっと考え、学校を出るのにあれほどの時間を費やした僕はきっと怖がりなのだろう。
お題 10年後の私から届いた手紙
10年前の私へ
私は10年後のあなたです。突然ですが、私は今死んでしまっています。なぜそうなったかは残念ながら規則上、お話できません。私達死者は今はあの世で暮らしています。ですが、現在人口が増えたことにより、神々は何か対策を打たなくてはならなくなりました。そこで神が出した方法は、死者たちが10年前の自分自身に手紙を出して、死の運命を変えるという対策でした。しかし、神側はも一定数の死者を毎年出さなくてはならないので、ある条件をつけました。それは、検閲を行い、ある基準よりも詳しく書いてはならないということでした。もし、詳しく書いた場合にはその文字は消されます。それでは、できる限り詳しく書かせてもらいます。私の最期と忠告を。
私は×年前に、学校で補修をしていました。私はその時、社会科のかいしや先生と一緒の教室にいました。補修の生徒は私とうよりふ君という生徒以外おりませんでした。うよりふ君は、素行が悪く、授業中はいつも寝ているような子でした。私とうよふり君は渡されたプリントを、ただ淡々と解いていました。そしてうよふり君は机に突っ伏してこう言いました。
「つまんね。」
かいしや先生はその言葉にとても怒り、かいしや先生とうよりふ君の怒鳴り合いが始まってしまいました。かいしや先生はものすごく気が短い方で、3回に一回の割合で怒って職員室にこもる先生でした。騒ぎを聞きつけた他の先生、英語のいんぐり先生と体育のくいた先生が、私達のいる教室に駆けつけました。そして言い合いを始めました。4人は相当ヒートアップしていたのか、殴り合いにまで発展して、かいしや先生は地球儀を持ち上げてうよりふ君にふりかざし、うよりふ君は机を次々投げ飛ばし、いんぐり先生は教卓を盾にして3人に突進を仕掛け、くいた先生は竹刀でかいしや先生に斬りかかっていました。私は一刻も早くこの教室から出ようと、ドアを横にスライドさせました。しかし、ドアは4人が攻撃を加えたせいか、開かなくなってしまいました。どうすることもできず、ドアの前に立ち尽くしていると、 の が頭にあたり、私は息を引き取りました。
おそらく、規制がかかり、誰の何が当たったかは分からないでしょう。ただ一つ言えるのは、あの4人には絶対に関わらないこと、やばいと思ったらすぐ逃げることです。もしくは、補修に行かなくても良いように、普段から成績を上げておくことです。まぁ、後者は私には厳しいでしょう。
10年後の私より
お題 バレンタイン
今日はバレンタイン。街中でチョコレートの広告で溢れかえっている。しかし、俺はきっと今年もチョコをもらえない。俺は今まで母親以外からチョコをもらった事がないのだ。いい加減、今年も結果は同じなのは分かりきっていた。それでも俺は学校に着くなり下駄箱を漁り、ロッカーを漁り、引き出しを漁り、帰りにも下駄箱を確認した。予想通り、チョコレートなんてなかった。俺は肩を落として下校路を辿った。俺は慰め用のチョコでも買おうかとスーパーに足を運び、安い袋詰めの物を一袋買って店を出た。その道の途中で父さんのいる会社が見えた。ここから家に帰るまでは会社の道を通るのが最短ということを知っていた俺は、会社を眺めながら通り過ぎようとした。すると、俺の視界には、若い女性と父さんが一緒にいる光景が飛びこんで来た。俺は最近不倫だなんだとよく聞くので、妙な勘繰りをしてしまい。そのまま後をついて行くことにした。
2人は裏路地に入った。俺は気づかれないようにそっと後をつけた。2人は周りを気にしながら、濃厚な接吻をして。抱きしめてを、甘い言葉を囁きながら繰り返した。あまりの光景に俺は、見ているのが辛くなった。何より、毎年チョコレートを俺と父さんに作って待っている母さんが気の毒でならなかった。そして最後に女は
「ハッピーバレンタイン。」
と言って、父さんにピンク色の紙袋を渡して、こっちに向かって来た。俺は足早にその場を立ち去り、家に戻った。リビングに行くと、母さんがチョコレートをくれた。何か飲もうと冷蔵庫を開けると、そこには毎年あるチョコレートの箱が見当たらなかった。母さんに話を聞くと一言
「義理チョコはあげない主義なの。」
と調査結果報告書と書かれた紙を見つめながら呟いた。俺はそれ以上何も聞けなかった。
そんなショッキングな出来事から一年たち再びバレンタインがやって来た。相変わらず俺は母さん以外からのチョコは貰えていない。しかし、今噛み締めた、その一つのチョコが苦い記憶を甘く塗り替えてくれている。そんな気がした。
お題 待ってて
私には前世、前前世、いや、それよりずっと前の記憶がある。私は古代の時代から死んでは、生まれ変わってを繰り返していた。ある時はギリシャの哲学者に、ある時はアラブの王族に、ある時はイギリスの労働階級に、またある時はアメリカの軍人。といった具合に私は色々な土地に生まれては色々な立場に立ってきた。様々な経験をして一度として同じ人生なんてなかった。しかし、私はどんな立場に生まれようと、どんな場所に生まれようと、必ずしていた事があった。それは一番目の人生での出来事だった。そこで私はある男性と恋仲になり、そのまま結婚をして幸せに暮らしていた。しかし、今よりも更に寿命の短いその頃、その暮らしは早くに終わりを迎えることとなった。私の最後に私より年上でもう死んでしまっていてもおかしくない彼が言った。
「僕は本当は不老不死なんだ。君と一緒にずっといれなくて辛いや。」
と、その言葉を聞いた私は最後に一言
「じゃあ、私が来世に会いに来るからそこまでここで待っていて。」
と言い残して、二周目を迎えた。そして私は現代まで約束を守り続けて来た。そして毎回彼と幸せな人生を過ごした。
私は今回、中東のスラムに生まれた。そこは劣悪な環境で、更に内線を起こっていたようで、私は毎日生きるのも精一杯だった。いつか彼に巡り会えるチャンスが来ると信じて、それをじっと待ち続けた。彼とは入れ違いにならないようにずっと最後に過ごした家で待っててもらう約束だった。だからこそ、自力であの場所に行かなければならない。しかし、遂にそれは叶わなかった。私は兵士の前の前に飛び出し、戦闘に巻き込まれてしまい、死んでしまった。叶うことならもう一回とここまで強く願ったことは二周目以来だろう。目の前に広がる私の血を最後に、唯一彼に会うことのなかった人生は幕を閉じた。
そして私は、日本の東京に生まれた。前回とは打って変わって、食料も、着る服も、お金にも、住む場所も困らなかった。どうやら私は、だいぶ恵まれた環境に生まれたらしい。この地に生まれて20年後私は窓の外にとまる飛行機を見ながらつぶやいた。
「待ってて、今度こそ会いに行くから。」
お題 この場所で
「僕はこの場所で生まれ育った。なのでこの場所が大好きだ。大きな木が集まる山に、青くガラスの様に透き通った海。田んぼや畑と、ところどころに集まる家。この近くには大きなショッピングモールもなければ、学校だって遠い。そんなこの場所を都会の方から来た人たちは不便だという。確かにそうかもしれないが、それでも僕はこの場所が大好きだった。僕の同級生のみんなは口を揃えて大きくなったらここを出ていくと言った。それも悪くない選択だろう。だが、僕はこの場所で生きれるだけで幸せだった。」
僕の周前に座り話を聞いている彼は、話がつまらないとでも言いたげな表情を浮かべながら、雑にメモを取っていた。僕は話を続けた。
「そんなある日だった。僕はいつも通り学校から帰り、家で晩御飯を食べていた。あの海で獲れた魚が本当に美味しかったのを覚えている。普段となんら変わりない時間に夕飯を食べ終えて、宿題をしていると、突然、大きな音が響きわたり、僕のいた部屋が大きく揺れた。僕は急いで外に出た。そこはいつもの絵画のように綺麗なあの場所ではなかった。北では山火事、南では津波、東では助けを呼んで叫ぶ声、西からは強風が吹き荒れる、まさにこの世の地獄の様に変わっていた。僕はあまりのことに動揺して動けずにいた。そんな時近くにいたお婆さんが言いったんだ。
『おお、これはきっと神様の仕業。この地の神に我々は何か粗相をしてしまった。許してくだされ、許してくだされ。』
と。」
ここまで語ると彼は顔色を変えて、じいっと話に聞き入っていた。僕は彼の続きを求める顔の迫力におされながらさらに続けた。
「その言葉を聞いた僕は、村の外れにある、こじんまりとした神社に向かった。この場所の神様といえば、そこ以外になかったからだ。そして僕は神様に祈った。
『お願いです。僕達を助けてください。僕達を普段の日常に帰してください。』
すると、目の前には、色鉛筆より、スマホのスクリーンよりずっと暗い、それだけこの世でないところから引っ張ってきたような黒いモヤが現れた。そのモヤは僕の周りを囲い込み、言った。
『その願い叶えてやろう。』
僕はその言葉を聞くなり、舞い上がった。これで僕たちは救われると思ったのだ。
『ただし、お前の一番大切なものを貰う。いいな。』
僕はきっとこの時誕生日に買ってもらったゲーム機か何かを取られるのかと勘違いしていた。そして軽々しく受け入れてしまった。そして僕はモヤが晴れて、いつもの夕暮れを一瞬見たのを最後にもう二度とあの自然に富んだ光景を見ることはなかった。
僕の1番大切なものは『この場所での暮らし』だったらしい。」
目の前の彼は息をのんだ。
「目を覚ました僕はにぎやかでカラフルな髪やをした人達が行き交う賑やかな道路で目を覚ました。そこは夜にもかかわらず明るかった。僕はそこで色々なことに巻き込まれて、色々な人達の助けがあってこの職についた。そして僕は今でもそこで見た物、景色、人々の記憶を辿って、絵に描き出した。結局、大人になってどんな手段を使っても、村には帰れなかったんだ。話はこれで終わりだよ。」
画家として有名になった僕の元に訪れた、記者である彼はメモ帳をたたむと
「ありがとうございました。」
と一言言って僕の元を立ち去った。