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お題 この場所で
「僕はこの場所で生まれ育った。なのでこの場所が大好きだ。大きな木が集まる山に、青くガラスの様に透き通った海。田んぼや畑と、ところどころに集まる家。この近くには大きなショッピングモールもなければ、学校だって遠い。そんなこの場所を都会の方から来た人たちは不便だという。確かにそうかもしれないが、それでも僕はこの場所が大好きだった。僕の同級生のみんなは口を揃えて大きくなったらここを出ていくと言った。それも悪くない選択だろう。だが、僕はこの場所で生きれるだけで幸せだった。」
僕の周前に座り話を聞いている彼は、話がつまらないとでも言いたげな表情を浮かべながら、雑にメモを取っていた。僕は話を続けた。
「そんなある日だった。僕はいつも通り学校から帰り、家で晩御飯を食べていた。あの海で獲れた魚が本当に美味しかったのを覚えている。普段となんら変わりない時間に夕飯を食べ終えて、宿題をしていると、突然、大きな音が響きわたり、僕のいた部屋が大きく揺れた。僕は急いで外に出た。そこはいつもの絵画のように綺麗なあの場所ではなかった。北では山火事、南では津波、東では助けを呼んで叫ぶ声、西からは強風が吹き荒れる、まさにこの世の地獄の様に変わっていた。僕はあまりのことに動揺して動けずにいた。そんな時近くにいたお婆さんが言いったんだ。
『おお、これはきっと神様の仕業。この地の神に我々は何か粗相をしてしまった。許してくだされ、許してくだされ。』
と。」
ここまで語ると彼は顔色を変えて、じいっと話に聞き入っていた。僕は彼の続きを求める顔の迫力におされながらさらに続けた。
「その言葉を聞いた僕は、村の外れにある、こじんまりとした神社に向かった。この場所の神様といえば、そこ以外になかったからだ。そして僕は神様に祈った。
『お願いです。僕達を助けてください。僕達を普段の日常に帰してください。』
すると、目の前には、色鉛筆より、スマホのスクリーンよりずっと暗い、それだけこの世でないところから引っ張ってきたような黒いモヤが現れた。そのモヤは僕の周りを囲い込み、言った。
『その願い叶えてやろう。』
僕はその言葉を聞くなり、舞い上がった。これで僕たちは救われると思ったのだ。
『ただし、お前の一番大切なものを貰う。いいな。』
僕はきっとこの時誕生日に買ってもらったゲーム機か何かを取られるのかと勘違いしていた。そして軽々しく受け入れてしまった。そして僕はモヤが晴れて、いつもの夕暮れを一瞬見たのを最後にもう二度とあの自然に富んだ光景を見ることはなかった。
僕の1番大切なものは『この場所での暮らし』だったらしい。」
目の前の彼は息をのんだ。
「目を覚ました僕はにぎやかでカラフルな髪やをした人達が行き交う賑やかな道路で目を覚ました。そこは夜にもかかわらず明るかった。僕はそこで色々なことに巻き込まれて、色々な人達の助けがあってこの職についた。そして僕は今でもそこで見た物、景色、人々の記憶を辿って、絵に描き出した。結局、大人になってどんな手段を使っても、村には帰れなかったんだ。話はこれで終わりだよ。」
画家として有名になった僕の元に訪れた、記者である彼はメモ帳をたたむと
「ありがとうございました。」
と一言言って僕の元を立ち去った。

2/12/2023, 11:03:12 AM