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お題 バレンタイン

 今日はバレンタイン。街中でチョコレートの広告で溢れかえっている。しかし、俺はきっと今年もチョコをもらえない。俺は今まで母親以外からチョコをもらった事がないのだ。いい加減、今年も結果は同じなのは分かりきっていた。それでも俺は学校に着くなり下駄箱を漁り、ロッカーを漁り、引き出しを漁り、帰りにも下駄箱を確認した。予想通り、チョコレートなんてなかった。俺は肩を落として下校路を辿った。俺は慰め用のチョコでも買おうかとスーパーに足を運び、安い袋詰めの物を一袋買って店を出た。その道の途中で父さんのいる会社が見えた。ここから家に帰るまでは会社の道を通るのが最短ということを知っていた俺は、会社を眺めながら通り過ぎようとした。すると、俺の視界には、若い女性と父さんが一緒にいる光景が飛びこんで来た。俺は最近不倫だなんだとよく聞くので、妙な勘繰りをしてしまい。そのまま後をついて行くことにした。
 2人は裏路地に入った。俺は気づかれないようにそっと後をつけた。2人は周りを気にしながら、濃厚な接吻をして。抱きしめてを、甘い言葉を囁きながら繰り返した。あまりの光景に俺は、見ているのが辛くなった。何より、毎年チョコレートを俺と父さんに作って待っている母さんが気の毒でならなかった。そして最後に女は
「ハッピーバレンタイン。」
と言って、父さんにピンク色の紙袋を渡して、こっちに向かって来た。俺は足早にその場を立ち去り、家に戻った。リビングに行くと、母さんがチョコレートをくれた。何か飲もうと冷蔵庫を開けると、そこには毎年あるチョコレートの箱が見当たらなかった。母さんに話を聞くと一言
「義理チョコはあげない主義なの。」
と調査結果報告書と書かれた紙を見つめながら呟いた。俺はそれ以上何も聞けなかった。
 そんなショッキングな出来事から一年たち再びバレンタインがやって来た。相変わらず俺は母さん以外からのチョコは貰えていない。しかし、今噛み締めた、その一つのチョコが苦い記憶を甘く塗り替えてくれている。そんな気がした。

2/14/2023, 2:31:57 PM