お題 怖がり
僕は忘れ物を取りに夜の教室に忍び込んだ。あたりは暗く、窓から見える街の明かりは僕に帰ってこいと呼びかけているようだった。僕は課題のプリントを手に取ると急いで廊下に出た。
しばらく歩き続けると先程までは聞こえなかった水の流れる音が聞こえた。行きには無かったこの音は僕の心をかき乱した。水の音の原因はすぐにわかった。水道だ。
僕は水道の近くを通りかかると、音について思考から追い出そうと考えながら蛇口のハンドルを捻った。その瞬間僕の不安の種の半分だけが消えた。もう半分はどうして水が流れたのかだ。僕は無事に帰れる可能性を信じ込むために、元から流れていたとして必死に記憶を塗り替えた。
僕は水道の近くに窓に近寄った。そして窓を開けると、手をそっと出してみた。触れた風は冷たく、ここは三階の外だということをに伝えた。このまま一階まで戻りたくなかった。しかし道窓から出て道を短縮で来たとして、怪我をするリスクを負うのも恐ろしかった。僕は一瞬の恐怖より、長く怯えながら安全に帰る道を選んだ。
窓から顔を覗く月を見ながら、ゆっくりゆっくりと昇降口までたどり着いた。時計の針は来たときに刺していたところからずいぶんと遠ざかっていた。僕は長い帰り道を思いながら、校門の向こう側に足を出して、そのまま家に向かった。一回後ろを振り返って、誰かいるんじゃないかという感覚を納得させてから。
本当にあの学校はあの時誰もいなかったのだろうか。そんなことをずっと考え、学校を出るのにあれほどの時間を費やした僕はきっと怖がりなのだろう。
3/16/2023, 11:22:27 AM