オレが望んだのは、みんなと同じになることだった。
瓜二つの見た目と、同じ声と。
何もかも一緒なのに、唯一違うもの。
それは、オレの左目。
オレの目は、”おっど・あい”と言われるものらしい。
唯一違う目が、オレには”こんぷれっくす”だった。
なんで、オレだけ違うんだろう?
なんで、みんなと同じじゃなかったんだろう?
ずっとずっと解らなくて、怖くて、嫌われたくなくて。
必死で隠して、誤魔化して、笑ってた。
今だったら、”ないものねだり”してたんだなぁって思う。
でもその時のオレは、そんなこと考えてる余裕なんてなくて。
「俺は綺麗だと思うよ? 唯一無二って感じでさ」
そんなオレに、あの人はそう言ってくれた。
「こわく、ないですか? へんじゃ、ない?」
「怖くないよ。それも含めて、君だと思ってるから」
「ふくめて?」
「俺からしたら、個性があって羨ましいけどなぁ」
ニコニコと優しい笑顔で、オレの頭を撫でてくれた。
「ずっと、頑張ってたんだね。偉い、偉い」
みんなと違うオレを、認めてくれた。
ーーーだからもう、”ないものねだり”は止めた。
みんなと違うオレを認めてくれたあの人が、褒めてくれた”オレ”でいたいって、思ったから。
ないものねだり
いつか、何かが変わるんじゃないか。
そんなことを思ってた。
ただそこに立っていただけなのに、示された先は無数に枝分かれしていて。
どれを選べばいいのか解らなかった。
だからこそ、無難な道を選んだ。誰もが行く、その他大勢の道を選んだ。
才能も、努力も、お金も、時間も、何もかもを持ち合わせていないからこその道で。
それが正解だったのかと問われたら、恐らく”否”と答えるだろう。
同時に、どうあっても”特別”になれないことくらい解っていた。
いつか、何かが変わるんじゃないか。
それは、変化を恐れなかった者の言葉で。
変化を嫌い、無知を好み、現状に縋り付く姿は、無様で、滑稽で、惨めでしかない。
”好きじゃない”世界に留まることを選んだ”のに”、いつだって逃げ出したいと願う様を、ただわらうしかなかった。
好きじゃないのに
思えば、晴れている時の方が少なかった。
燦々と輝く太陽が顔を出していたのは、ほんの少しの間で。
それ以外は、いつだって曇っていた。
それなら、それだけなら良かったんだけどね。
どうしたって、嵐が来ることだってある。
どしゃ降りの雨があったこともある。
猛吹雪に見舞われて、途方に暮れたことだって。
けれど、どうにも現実味がないままで。
晴れ、雨、曇り、雪、霙、雷雨……。
表す言葉はいくらでもあるのに、全部、全部、”ところにより雨”でしかなかったんだろう。
ところにより雨
大切なモノ、って、幾つかあるんだけどね。
今のボクが一番大切なのはーーだし、それ以外はマジでどうだっていい。
動いてようが、壊れようが、そうなったらはい、終わり。
壊れちゃうならそれまでだった、ってことでしょう?
ーーーだからねぇ、最初は壊したかったよ、君のこと。
ーーの隣に居ることはいいよ。ボクが居るわけにはいかないからね。
だけど納得してなかったんだよねぇ~。
ーーが「ダメです!」って言うから、見逃してたんだけどさ。
正直、ーーの居ない隙にトばせばいっかぁ、なんて思ってた。
ーーーそれなのにさ、変わっちゃったんだよね。
だって、ーーが、あんまり嬉しそうに笑うから。
その時の笑顔が、”あの頃”と全く同じだったから。
君が居てくれるなら、ーーももっと笑ってくれるのかなぁって、思ちゃったんだ。
……その時から、かなぁ。君が”壊したいモノ”から、”特別な存在”になったのは。
……これ、ちょっと誇っていいよ?
ボクのなかで優先順位が変わる、なんてことは、滅多に起きないんだから。
……ま、それ以上に、君が気になっていたから、なんだろうけど、ねぇ。
特別な存在
憧れた世界があった。
挑戦したい夢があった。
けれど、現実はそうはいかなかった。
憧れた世界は厳しくて、挑戦したい夢は絵空事で。
いつだって言い訳ばかりで、努力もしないで、諦めてきた。
ーーーそれを、後悔したとしても、繰り返すことも解っていた。
「しないで言うのは狡い。してみたらいい」
そんな、励ましにもならない言葉ばかりを受けてきた。
……それがどれだけ図星で、情けないことかも、解らないなりに理解していた。
どの世界も、脚光を浴びるのはほんの一握り。
それ以外は、どれだけ才能があろうが、努力をしようが、挑戦しようが、ふるい落とされる。
例えば時の流れ、時代背景、運を味方に付けたところで、その時に自分がいなければ意味がない。
才能? あればあるほど良いに決まってる。
努力? したところで埋まらない差はどうしたってあるでしょ。
挑戦? し続けた人がどうなったかなんて、知っているでしょうに。
”嫉妬するのは努力しないくせに、嫉妬した相手に勝ちたいんだよ”
そんな言葉も納得できる反面、どうあっても勝てない相手がいることも事実だと嘆いたり。
ーーー本当、”バカみたい”だ。
そんなつまらないことの為に、好きな相手さえ妬ましくて、羨ましくて、悔しくて、どうしようもないんだから。
バカみたい