何時からだろう。隣に君がいることが当たり前になったのは。
独りが嫌いだった。
だから構ってもらいたくてわざとバカなこともしたし、人がいるところに押しかけもした。
それでも、どうしたって1人になる時はある。
それが、まさに今だったりするんだけどね。
大して広くもない部屋だけど、ポツンと独り取り残された感覚を覚えるには十分で。
それがどうしても嫌で、嫌で仕方なかった。
でも、それが我儘だってことも解ってた。
だって、ずっとずっと、人が怖かったから。
1人になるのは平気だった。でも、独りにされるのは怖かった。
1人でいることを望んだのは自分だから、独りになることはどうしても避けられないことなのに。
それでも、怖くて、寂しくて。部屋の隅っこで丸くなって、時間が過ぎるのを待ってることしかできなかった。
だけどーーー。
「ちょっ……灯りも着けないで何してんだ!!」
聞き慣れた君の声に、どれだけ救われたか。きっと君は知らないし、言うつもりもない。
理由を知ったら、きっと君は呆れた顔でため息を吐くだろうから。
ただ言えることは、その日以降独りぼっちになることはなくなった。
何時だって君が隣にいてくれる。
呆れたように、困ったように、戸惑ったように笑って、仕方ないなぁって言いたげに、隣にいてくれるんだ。
隣が温かいだけで、こんなにも安心できるなんて思わなかった。
きっと、君だからそう思えたのかも。君以外の人だったら、きっと安心なんてできなかった。
本当、1人を望んだ先に”二人ぼっち”の幸せが待っていたなんて、面白い皮肉があるもんだよね?
二人ぼっち
「これは夢だよ? だから、何も気にしないで」
そう言って笑うアイツが、どうしても哀しくて。
いつからだったか。俺の世界に”昼”がなくなったのは。
不治の病と言えば、寿命が縮まるものを想像しがちだが、俺の場合はちょっと違った。
俺が患ったのは、”昼に起きていられない病”だった。
……いや、笑うのも解る。けどこれがかなーり厄介なんだよなぁ。
昼ってのは朝も含まれてるからな、日が昇ると同時に強制睡眠状態になるわけで。
日没と共に起きる虚しさは、何とも言えねぇしな。
そんな俺の心内を見透かしたかのように、アイツは起きる度に俺の側にいるようになった。
ニコニコと、何でもないように笑って、いつものごとくはしゃぎまくって。
俺に怒鳴られて、見た目にも解るくらいしょげて、仕方ねぇなって許すまでがセットで。
ーーーでもさ、解ってんだよ。
アイツが、俺に合わせてることも。
その為にろくに寝てないことも。
なのに、会う度に言うんだよな。
「”夢が醒める前に”話したかったから」ってさ。
本当、お人好しにも程があんだろーが。
ーーーま、そんなアイツを突き放せない俺が、一番情けねぇんだけどな。
夢が醒める前に
例えて言うなら海の底。
光さえ届かない、深海のような淀みのなかに”オレ”は居た。
ふわふわと浮かぶ意識。
自由があるのかさえ解らない身体。
届くことのない声。
そんな、気が狂いそうになる世界が、”オレ”の全てだった。
だが、それは当然訪れた。
明瞭な意識。
思うがままに動く身体。
如何様にも変化する声。
……その時の高揚感は、今でも忘れられない。
「やっと、果たせる」
手始めに何をしよう? 思考があちこちに飛んで纏まらない。
それが逆に心地よくて仕方なかった。
ーーーだが、最初にすることは決まっている。
「まずは……肩慣らしだな」
これから起こる出来事に、思わず笑ったのも仕方ない。
こんなにも”胸が高鳴る”ことは、もう二度ないだろう。
胸が高鳴る
きっと、どちらもそうだったのかもしれないな。
運命だとか、宿命だとか、本当はない方がいいのかもしれない。
そうは言っても、どうにも変えられないことが起きることはある。
それは俺でも回避することはできないし、あいつらは特にそうだろう。
誤解のないように言うが、あいつらが無能だとか、努力してないとかの話じゃない。
努力しようが何をしようが、どうにもならないことはどうしても起きる。
受け入れられるか、諦めるか、跑くのか。
どれを選んだところで、結果が必ずしも良いことで終わるとは限らない。
それが、”不条理”って奴なんだろう。
たまたま出先で怪我をして療養していたのも。
たまたま庇って奮起して、光を失ったのも。
たまたま豊潤で優れていたが為に目を付けられたのも。
本当にどうしようもないことだったんだろうとは、解ってる。
あいつらだって、解っちゃいるんだろう。
それでもを願う時点で、”不条理”に踊らされてるんだけどな。
不条理
ずっと、守られてばかりだったから。
だから、守りたいって、思ったんだ。
ズキズキと痛む眼を、君に気づかれないようにそっと庇う。
もうずっと痛くて、煩わしくて仕方ないけど、こうなったことに後悔はしていないんだ。
だって、君がこうなってたら、もっと痛くて、辛かっただろうから。
でも、その辛さを君に味わわせることになるなんて思わなかった。
それだけが、唯一の後悔、かな。
そうでなくても、優しい君はきっと泣いているのかもしれない。
僕が、怪我をしてしまったことに。
僕から光を奪ってしまったことに。
弱虫な僕が、君を庇って奮起したことに。
ずっとずっと、後悔して、自分を責めているのかもしれないね。
ーーーだから、僕は”泣かないよ”。
痛くて、見えなくて、迷惑ばかりかけてるけど。
これは僕が選んだ結果だら、君のせいじゃないって伝えたくて。
痛む眼を君から隠して、今日も僕は笑うんだ。
泣かないよ