そう言えば、いつも無茶をするのは君だった。
ニコニコと近づいて、一瞬で仲良くなって、理解の追い付かない世界に連れ出すのはいつも君で。
俺はいつも、その後ろをついていくのがやっとだった。
無邪気で、明るくて、自由奔放な君と見ていた世界は、本当に綺麗で楽しかった。
でも、君の目はもう、光を宿してなくて。
それがどうしても悔しくて、哀しくて。
”怖がり”な俺を庇って、”怖がり”な君が奮起して。
そうして起きてしまったことが、取り返しのつかないことだって、気づいた時には手遅れで。
本当なら、俺がそうなるはずだったのに。
それでも、君が楽しそうに笑うから。
”怖がり”な俺はまた、君を殺しながら笑った。
怖がり
本来なら、出会うはずがなかった。
俺にとって星は見上げるもので、時折おちてくる星は、誰かの希望になるものだとばかり思っていたから。
ーーーけれど、今この腕の中にある温もりは、紛れもない現実で。
星があんなに輝いていた空からおちてきた、小さな生命。
溢れんばかりの夜空から、しかも広い世界の端っこにあるような島国の、辺鄙な山におちてくるなんてね。
これには、さすがに俺も驚いたなぁ。
……でも、そのお陰で救われたよ。
俺が願っていたことは間違いじゃないって思えたし、俺もまだまだやっていけるんだなって、素直に嬉しかった。
なにより、彼らが長年の柵や苦しみから解放されたことが嬉しかった。
”アレ”は俺じゃどうしようもなかったし、俺にできることと言ったら少しでも彼らの辛さや苦しみが和らぐように努めることくらいしかなくて。
本当に申し訳なかったけれど、楽しそうに笑い合う彼らを見れたことは本当に嬉しくて、どれだけ感謝したか解らない。
だから、あの出会いは本当に分岐点だったのかもしれない。
俺や彼らの命運を分けるくらいに、重要なものだったのかもしれない。
そう言ったら、大袈裟だなんて笑うんだろう。でも、俺からすればそんなことはない。
ーーーそうでなければ、”星が溢れる”世界に足を運ぶなんて奇跡は、なかったろうしね。
星が溢れる
正直、変わった奴だとは思ってた。
いつだって飄々としていて、ニコニコと笑っていて、それでいてよくオレ達を観察している、そんな奴。
つり目で黒目がちの瞳は、何となく小動物のようで。
普段はある理由から見られないその眼が、妙に印象的だった。
ーーーそう言えば、同僚がよくボヤいてたっけ。
”アイツと居ると、調子が狂う”
”迂闊なこと言うと、訳が解らないまま丸め込まれる”
”支離滅裂なくせに、妙に説得力があって困る”
だけど、何故かオレにはそんなことはなくて。
寧ろ、怖いくらいによく言うことを聞いてくれたし、色々なことを話してくれた。
その時は、いつだって楽しそうに眼を細めていたっけ。
ーーーでも。
「ごめんなさい。オレのせいで、あんなことになって、ごめんなさい」
思い出したように泣きながら懺悔を繰り返すアイツを見ているのは、正直辛かった。
虚ろで、光さえ飲み込んでしまったかのような漆黒の瞳は、何故かオレに向けられていたから。
ーーーだから、初めてだったんだ。あんなにも穏やかで、”安らかな瞳”を見たのは。
それが最初で最後になるなんて、思いたくなかったけどね。
安らかな瞳
例えるなら、浮雲。
掴み所のなさはまるで野良猫のようで、こちらが手を伸ばすとスルリとすり抜けていく。
それなのに、一度信用した相手にはとことん甘いし、逆も然り。
誰よりも一生懸命で。でも、人間らしい落差を持っていて。
そんなところにみんなが魅了されるんだろうなって、思ったんだ。
……だから、”ずっと隣で”アンタを見守らせてくれよ?
それだけで、十分に幸せなんだから。
ずっと隣で
”好奇心は猫をも殺す”
……なんて言われちゃいるが、俺からすれば”アイツ”がそれに当たるんだろう。
きっかけは何だったか。仕事上よく顔を合わせていた、半ば腐れ縁の奴らから聞かされた話に食いついた結果だろう。
そいつらの仕事もまぁ面倒だが、お陰で面白い話に事欠かない。
まぁ、そいつらも俺も、面白いことには目がねぇしな。
だから、そいつらがやたらと話す”アイツ”に、少しばかり興味が湧いた。
それが良かったのか、悪かったのか、今となったらどちらとも言えんが、言えることはただ1つ。
”アイツはマジでヤバい”
そりゃそうだ。仮にも、世間を震わせた事件を引き起こしたんだから。
とは言え、”アイツのヤバさ”はそれだけじゃない。
それを伝えるには、正直難しくてなぁ。
実際に会って話をした方が早いんだが、残念なことに”アイツ”はもういないんだよな。
俺はあんまり”もしも”を思ったりしないんだが、今回ばかりは願ったわ。
それに、”もっと知りたい”なんて思った奴は”アイツ”ぐらいだろう、なんて思うくらいには気になってた。
……ま、”アイツ”には個人的に言いたいこともあるし?
また会ったとしたら、酒でも飲みながら話したいもんだな。
ーーーなんてうっかり口を滑らせて、2人からしこたま怒られるとは思わなかったけど。
もっと知りたい