例えて言うなら海の底。
光さえ届かない、深海のような淀みのなかに”オレ”は居た。
ふわふわと浮かぶ意識。
自由があるのかさえ解らない身体。
届くことのない声。
そんな、気が狂いそうになる世界が、”オレ”の全てだった。
だが、それは当然訪れた。
明瞭な意識。
思うがままに動く身体。
如何様にも変化する声。
……その時の高揚感は、今でも忘れられない。
「やっと、果たせる」
手始めに何をしよう? 思考があちこちに飛んで纏まらない。
それが逆に心地よくて仕方なかった。
ーーーだが、最初にすることは決まっている。
「まずは……肩慣らしだな」
これから起こる出来事に、思わず笑ったのも仕方ない。
こんなにも”胸が高鳴る”ことは、もう二度ないだろう。
胸が高鳴る
3/19/2023, 1:58:48 PM