夢と現実
夢と現実の境目とは、いったいなんなのか。
答えは簡単。寝ているときに見るのが夢で、目覚めているときに見るのが現実だ。よって、自分が寝ているかどうかが境目だ。
あるいは。理想の自分が夢で、理想ではない今の自分が現実だ、と対比的に使用する場合がある。いずれ自分が理想に近づいていくならば、夢と現実は連続的だ。境目をはっきり決めるのは難しいと思う。
今回は前者について考えてみることにする。
寝ているときに見る夢。目覚めているときに見る現実。
胡蝶の夢、という話がある。
夢の中で私は蝶になっていた。私であるほうが現実である。
蝶は夢の中で私になっていた。蝶であるほうが現実である。
どちらかが絶対的に正しいと、どうして言えるのか。
今この瞬間、ここに存在する私こそがが現実だと、あるいは夢だと、知る術を私は持っているのだろうか?
私は今、文章を書いている私である。
しかし今朝の夢の中では、小学生時代の私であった。
あなたは今、文章を読んでいるあなたである。
しかし今朝の夢の中では。
考えてみても仕方のないことだが、そういう不要な考え事をするのが好きな人間というのは一定数いるものだ。私もその一員である。
少なくとも今文章を書いている私にとっては、今文章を書いているこの世界が現実である。ひどく現実的な夢を見ている可能性は否定できないが、しかし私は私だ。
夢の中の私と、今ここにいる私。
どっちがどっちか分からずとも、その間に境界線は確かにあって、互いに干渉することはない。
夢の向こう、もしくは現実の向こうにいる私に思いを馳せる私は、確かにここにいる。それが私にとって唯一の真実である。
距離
1、「君と僕がいる。」
何も間違っちゃいない。確かに君はいるし、僕もいる。ただ、この文は圧倒的に「足りない」。ここに、距離感を付け足してみる。
2、「君は僕から5cmのところにいる。」
まぁ間違っちゃいない。確かに君と僕の距離はそのくらい近い。さっきよりも想像はしやすい。しかしまだ足りない。心の距離感を付け足す。
3、「君は僕のそばにいる。息遣いすら感じられる距離で、心臓がうるさく揺れる。」
先ほどよりも風情が感じられる。ドキドキしたムードを感じられるのではないだろうか。ここに場所の描写を付け足せば完璧だ。
4、「イルミネーションに染まった街の中。きらびやかなツリーのもとで、君は僕のそばにいる。息遣いすら感じられる距離で、心臓がうるさく揺れる。君の瞳が僕を見つめる。」
クリスマス、恋人、夜、なんて言葉は使っちゃいないが、そんな情景が想像できたのではないだろうか?君と僕がいて、距離が5cmなのに変わりはないが、なんとも想像しやすい文章ができた。
5、「街中で、殺人鬼の君は僕に襲いかかった。体を押さえつけられ、顔が近づく。荒い息が感じられる距離だ。睨みつけられ、突きつけられたナイフが光る。僕の心臓は、恐怖でうるさく揺れる。」
何も間違っちゃいない。言っていることは5つとも全部同じである。同じできごと1つとっても、描写のしかたで変わってくる。これは挿絵のない文章ならではの面白さだと思っている。
泣かないで
雨は神様の涙である、という話を聞いた。
神様じゃなくて龍だったか、雲だったか?まぁそこは重要じゃない。とにかく空の上のなにかが泣いたとき、雨が降るという話だ。非常によくある話だと思う。
とある帰り道、例の神様が突然大泣きし始めた。傘は持っていない。さっきまで晴れていたのに不思議なものだ。
虹は出るだろうかと呑気に考え、荷物が濡れたら大変だと深刻に考え、雨宿りしようと現実的に考える。近くのファミレスに入り、窓際の席で適当な軽食を注文した。
雨が涙なのだとしたら。その神様だか龍だかは、ちょっとばかし情緒不安定すぎやしないだろうか。こっちの気も知らずに晴れたり降ったり忙しいやつめ。しかし泣いているには変わりないので、可哀想なやつなのかもしれない。
雨といえば梅雨の時期。あれはなんなのだろう。神様がしょっちゅう泣いてしまう季節。病んでいるのだろうか。きっと就活中か何かに違いない。私だって思い出したくない。
それか赤ちゃんの大泣き。ちょうど梅雨のあたり、1年につき1人の神様が生まれて代替わりする。よく泣く子供時代が丁度梅雨のあたりなのでは?次の梅雨までにどのくらい大きくなるのだろう。
注文した軽食を頬張る。美味い。思わず表情が緩む。自分が神様なら今晴れたな、などと考える。窓の外は小雨になってきていた。食べ終わって幸せになった頃には、ほぼ止んでいた。
こんなにすぐ雨が止むなんて!私は神様だったのか?否。ゲリラ豪雨とは急に降ってすぐに止むものである。
残念なことに虹は見えなかったが、濡れずに帰路につけたので良しとしよう。まったく、もう泣かないでよ、なんて空に呟いてみる。
もちろんあれはただの御伽噺なので、話しかけたって何も起こらないのは至極当然。頭上にはいつも通りの無反応な空が、いつも通り広がっているだけだった。
突然の君の訪問。
いや、本当に突然すぎてびびった。何急に。今何時だと思ってんの?夜中だよ?外とか超暗いよ?何はともあれ、久しぶり。
…へぇ、家出ねぇ。君の家は厳しいっていつも言ってたもんね。夜中ぐらいしかチャンスはないか。そしてウチ以外に行くあてが無かったと。
普通さ、こんな時間にどこ行ったって追い返されるよ。まったく…まぁ、とりあえず上がりなよ。うちも親寝てるから静かにね。しーっ。
…あっ、そうだちょっと部屋片付け…まぁいいか。とりあえずここだけ寄せて…よし、ここ座っていいよ。ごめんね汚くて。なにしろ普段誰も遊びに来ないからさ…
まぁゆっくりしていけばいいよ。…親に秘密のこの感じ、ちょっと楽しいかも。
…なんでこの時間に起きてたのかって?うーん。君って口が堅いほう?そっか。家出の理由教えてくれたら教える。
ふんふん…思ったより重いね…なるほど。自分は…実は死のうと思って準備中だったんだよ。ほら、あそこにロープを結んであるし、遺書は書き途中。そこに運良く?運悪く?君が訪ねてきたわけだ。
自分はここから逃げたい。君はあそこから逃げたい。目的が一致している。そして自分は、君と遊ぶのが楽しい。
ねぇ、一緒にどっかに逃げて心中しない?
…賛成ありがとう。準備するからちょっと待ってて!
海へ
海に来てみた。
季節外れすぎるからか、全然人がいない。
水平線が無限に広がっている。
厳密には無限じゃないんだろうけど。というか真っ直ぐすぎない?地球は丸いんだし水平線はカーブするべきでは?
水面が波立ち、白波が向かってくる。
穏やかだが、時折岩場の辺りが穏やかじゃない。あの岩に座ってなくてよかった…波ってどこから来るんだろう。
小さいカニが歩いている。
こっちに向かってくる。警戒心なさすぎる。食べちゃうぞ?食べないけどさ。かわいいなカニ…
海に来てみた。
明日も頑張ろう。