Rara

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12/7/2024, 12:49:40 PM

部屋の片隅で



部屋の片隅に同居人がいる。
おそらく「人」ではないと思うが、特に何だという確証があるわけでもない。とりあえず一緒に暮らすなにかだ。

同居人はこんな存在だ。
目に優しい色をしている。
抱っこするのに適したサイズ感と形状である。
癒される温かみと手触りを持っている。
夕食の余りを分け与える必要がある。
決して、この世のものではない。

私は、それについてこれ以上の説明をすることができない。

得体の知れない同居人は、気がついたら部屋の片隅にいた。最初は戸惑って追い出そうとした。が、ほとんど動かないそれは、なぜか捕まえることができなかった。
次第に無害であると分かってきて、体温と手触りについても知るうち、晴れて同居人となったわけだ。

それは、部屋の片隅から離れない。
それは、この世のものではない。

今日も夕食の余りを部屋の片隅に置く。皿の中身が少しずつ減っていく。同居人に触れると、いつも通り温かい。見覚えのない、見慣れた同居人。優しい色をしている。
捕獲を試みると、やっぱり捕まらない。

それとの生活は温かい。

12/5/2024, 10:17:20 AM

眠れないほど



眠れないほど怖い話、というのを見た。
確かに怖かった。夜トイレに行けないほど怖かった。しかし夜はぐっすり寝た。悪夢は見たが。

眠れないほど面白い雑学、というのを見た。
確かに面白かった。非常に感心した。しかし途中で寝落ちてしまい、結局朝までぐっすりだった。内容は半分くらいしか覚えていない。

課題が終わらず、眠ってはならなくなった。
今日は徹夜だ。頑張って終わらせるんだ。書く。ページをめくる。書く。書く。眠い。ページをめくる。すやすや。気がついたら朝だった。先生になんて言おう。

ある日、君に告白された。
明日はデートだ。うれしい。こんなに幸せなのは初めてかもしれない。早く寝よう。あれ、寝られない。楽しみすぎて寝られない。わくわく。

次の日、寝坊した。
10分遅刻してしまい、君に謝って、お詫びにジュースを奢った。10分で済んだのは不幸中の幸いだったかもしれない。美味しそうにジュースを飲む彼女に心打たれる。

眠れないほど君が好きだ。と君に言う。
ちゃんと寝なよ、と笑われた。

12/5/2024, 7:38:52 AM

夢と現実



夢と現実の境目とは、いったいなんなのか。

答えは簡単。寝ているときに見るのが夢で、目覚めているときに見るのが現実だ。よって、自分が寝ているかどうかが境目だ。
あるいは。理想の自分が夢で、理想ではない今の自分が現実だ、と対比的に使用する場合がある。いずれ自分が理想に近づいていくならば、夢と現実は連続的だ。境目をはっきり決めるのは難しいと思う。
今回は前者について考えてみることにする。

寝ているときに見る夢。目覚めているときに見る現実。

胡蝶の夢、という話がある。
夢の中で私は蝶になっていた。私であるほうが現実である。
蝶は夢の中で私になっていた。蝶であるほうが現実である。
どちらかが絶対的に正しいと、どうして言えるのか。

今この瞬間、ここに存在する私こそがが現実だと、あるいは夢だと、知る術を私は持っているのだろうか?

私は今、文章を書いている私である。
しかし今朝の夢の中では、小学生時代の私であった。
あなたは今、文章を読んでいるあなたである。
しかし今朝の夢の中では。

考えてみても仕方のないことだが、そういう不要な考え事をするのが好きな人間というのは一定数いるものだ。私もその一員である。
少なくとも今文章を書いている私にとっては、今文章を書いているこの世界が現実である。ひどく現実的な夢を見ている可能性は否定できないが、しかし私は私だ。

夢の中の私と、今ここにいる私。
どっちがどっちか分からずとも、その間に境界線は確かにあって、互いに干渉することはない。

夢の向こう、もしくは現実の向こうにいる私に思いを馳せる私は、確かにここにいる。それが私にとって唯一の真実である。

12/1/2024, 11:47:35 AM

距離



1、「君と僕がいる。」

何も間違っちゃいない。確かに君はいるし、僕もいる。ただ、この文は圧倒的に「足りない」。ここに、距離感を付け足してみる。

2、「君は僕から5cmのところにいる。」

まぁ間違っちゃいない。確かに君と僕の距離はそのくらい近い。さっきよりも想像はしやすい。しかしまだ足りない。心の距離感を付け足す。

3、「君は僕のそばにいる。息遣いすら感じられる距離で、心臓がうるさく揺れる。」

先ほどよりも風情が感じられる。ドキドキしたムードを感じられるのではないだろうか。ここに場所の描写を付け足せば完璧だ。

4、「イルミネーションに染まった街の中。きらびやかなツリーのもとで、君は僕のそばにいる。息遣いすら感じられる距離で、心臓がうるさく揺れる。君の瞳が僕を見つめる。」

クリスマス、恋人、夜、なんて言葉は使っちゃいないが、そんな情景が想像できたのではないだろうか?君と僕がいて、距離が5cmなのに変わりはないが、なんとも想像しやすい文章ができた。

5、「街中で、殺人鬼の君は僕に襲いかかった。体を押さえつけられ、顔が近づく。荒い息が感じられる距離だ。睨みつけられ、突きつけられたナイフが光る。僕の心臓は、恐怖でうるさく揺れる。」

何も間違っちゃいない。言っていることは5つとも全部同じである。同じできごと1つとっても、描写のしかたで変わってくる。これは挿絵のない文章ならではの面白さだと思っている。

12/1/2024, 3:51:43 AM

泣かないで



雨は神様の涙である、という話を聞いた。

神様じゃなくて龍だったか、雲だったか?まぁそこは重要じゃない。とにかく空の上のなにかが泣いたとき、雨が降るという話だ。非常によくある話だと思う。

とある帰り道、例の神様が突然大泣きし始めた。傘は持っていない。さっきまで晴れていたのに不思議なものだ。
虹は出るだろうかと呑気に考え、荷物が濡れたら大変だと深刻に考え、雨宿りしようと現実的に考える。近くのファミレスに入り、窓際の席で適当な軽食を注文した。

雨が涙なのだとしたら。その神様だか龍だかは、ちょっとばかし情緒不安定すぎやしないだろうか。こっちの気も知らずに晴れたり降ったり忙しいやつめ。しかし泣いているには変わりないので、可哀想なやつなのかもしれない。

雨といえば梅雨の時期。あれはなんなのだろう。神様がしょっちゅう泣いてしまう季節。病んでいるのだろうか。きっと就活中か何かに違いない。私だって思い出したくない。

それか赤ちゃんの大泣き。ちょうど梅雨のあたり、1年につき1人の神様が生まれて代替わりする。よく泣く子供時代が丁度梅雨のあたりなのでは?次の梅雨までにどのくらい大きくなるのだろう。

注文した軽食を頬張る。美味い。思わず表情が緩む。自分が神様なら今晴れたな、などと考える。窓の外は小雨になってきていた。食べ終わって幸せになった頃には、ほぼ止んでいた。
こんなにすぐ雨が止むなんて!私は神様だったのか?否。ゲリラ豪雨とは急に降ってすぐに止むものである。

残念なことに虹は見えなかったが、濡れずに帰路につけたので良しとしよう。まったく、もう泣かないでよ、なんて空に呟いてみる。

もちろんあれはただの御伽噺なので、話しかけたって何も起こらないのは至極当然。頭上にはいつも通りの無反応な空が、いつも通り広がっているだけだった。

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