あなたは誰
あなたは誰。鏡に向かって話しかける。
あなたは誰。私は鏡に話しかけていて、鏡の前には私がいる。誰、といったって、鏡に映った私に決まっている。
話しかける。あなたは誰。
鏡に向かって言い続けると精神崩壊を招くと聞いた。あなたは誰、というのは相手が誰なのか知らないときに言う言葉だ。最も見知った人物に対して言い続けたら、まぁ何かしら変になるんじゃないだろうか。
あなたは誰。きっと精神崩壊はしない。なぜなら目の前にいるのは見知らぬ人だから。しかも、返事をしているから。
鏡なのに。さっきまで鏡だったのに、見知らぬあなたはそこで生きているように見える。鏡に映った私なんかじゃない。明らかに服も姿形も違う。というか明らかに人間じゃない。
あなたは誰。聞くたび、あなたは興味深い話をする。そちらに感心していたら、結局誰なのか教えてもらっていないことに気付く。誰なの。
もう聞くのをやめた。きっと教えてもらえないから。あなたは誰、というか何、知りたいけれど知り得ない。だけど、あなたは面白い話をしてくれる。絵のモデルにもなってくれる。充分なんじゃなかろうか。
あの鏡はあなたにあげる。もうひとつ鏡を買ったから、こっちは私が使う。
鏡が二枚、こちらに私一人、向こうに私ともうひとり。
私は絵を描いて、向こうの私は左右逆の絵を描いて、あなたは楽しげに笑う。
あなたが誰なのか分からないけど、いてくれてよかったな。
2/20/2025, 9:44:23 AM