滝谷(shui)

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8/1/2024, 1:04:53 PM

【明日、もし晴れたら】

 不安の夜が明けて、朝日の灯りを迎えたら。

 大好きな君に、また会いたいんだ。

7/26/2024, 1:30:39 PM

【誰かのためになるならば】

 俺ね、ヘアドネーションしたんっすよ。
 超すごくない?
 髪を病気の子供の為に寄付したの。髪を伸ばせない子とかのためにウィッグ(かつら)を作ってあげて下さいってさ。

 髪を伸ばすだけで、3年以上かかったっす。
 だって俺、昔は禿げてたし。

 ポニーテールの高校球児とかねーわーって言われながら、伸ばし続けていたんすよ。
 お兄ちゃんに似合わなーいって妹に笑われながら、伸ばしてる間もよく髪を遊ばれたっす。毎日変な髪型にされて。

 それでも諦めずに3年以上。
 めっちゃ頑張りましたね! 凄く質の良い髪ですよ!
 とか言われちゃって舞い上がってさ。

 でも一番嬉しかったのはやっぱり、妹の元にウィッグが届いた時っすかね。
 これからオシャレできるな、って言ったら泣いて喜ぶんすよ。妹。今まで白血病の治療で髪のオシャレなんて出来なかったし。
 
 俺も妹もちょー頑張ってるんで、そろそろ病気も治りそうっす。
 そして退院したら、今度は二人で髪を伸ばそうぜって約束してるんっす。

 次の人へ、良いことありますよーに、って髪で繋ぐ命のバトン。

 やっぱスゲーっすよね。
 成し遂げる事って。

 先輩はどんなバトンを、次に渡したいっすか?

7/20/2024, 1:49:27 PM

【私の名前】

 太郎なんて変わった名前を僕につけたのは、大好きな爺さんだった。

「なんじゃ、太郎は足が早いなぁ」
 一緒に散歩をしにいけば、そんな事を言って歯を見せて笑う爺さんだ。
 肩を揺らして笑うたび、しわくちゃになる顔が面白くて僕は好き。
『爺さん、そりゃあ僕のが早いよ。何歳だと思ってるんだい』
 だって半世紀以上、爺さんのが長生きだ。
 あんまり長生きしてるので、これからは僕が支えてやらなきゃなって得意げに鼻を鳴らした。
「ふふふ、おまえさんは自慢の家族じゃよ」
 頼もしい、と爺さんは僕に言った。
 ソコがまた嬉しくて、『爺さん』って僕は言った。優しい声が、自然と出た。

 僕は爺さんに合わせて、歩くペースを落とす。
 夏の夕日に照らされても、まだまだ暑い夏。
 老人には堪えるんだろう。
 いつもよりゆっくり歩く爺さんの隣を、僕ものんびり歩くことにする。

「太郎、お前さんの名前はな、太が大人を指し、郎が良いと言う意味だ。良い大人になるんじゃよ」
 それを見るまでワシも長生きせんとな、と爺さん。
『おぅ、たっぷり長生きしていいぞ。僕も嬉しいしね』
 と僕。

 家に着く前にはだいぶ影も伸びてきた。
 帰り道では近所の奥さんと少女とすれ違う。
「いつも仲良しでいいですね」
「あぁ、太郎のおかげで長生きできとるよ」
 そんな他愛無い世間話をお菓子を齧りながら聞く。
 おう、もっと褒めていいぞ。
 仲良しの少女も、僕の頭をワシワシ撫でた。
「ではワシらはこの辺で」
「ええ、明日も良い日を」
 さぁ帰ろう。ご近所さんに遅れて歩き出すと、最後に少女が振り向いた。

「お爺ちゃん! わんちゃん! またね!」
 手を振る少女に、爺さんが手を振る。
「また明日も一緒に散歩に来ような」
 爺さんも僕に語るように言ったので、もちろん、と僕は大声で尻尾を振りながら答えた。

「わん!」

6/9/2024, 1:16:22 PM

【朝日の温もり】

「わたし、これからどうしたらいいんだろう」

 深夜遅く、コントローラーを握りしめながら急にそんな事を思った。
 毎日やるのが当たり前だったオンラインゲーム。そのゲームが急に熱が抜け落ちたみたいに、つまらなくなってしまったのだ。

 情熱や、時間を大好きなものに注ぐのが素敵なことだと思っていたのに。
 スッと夢から醒めた熱は。わたしの身体から抜けてコントローラーと共に床へとポトン、と落ちたのだ。

 なんとも不思議な気分だった。
 そして淋しい気分だった。

 寂しいのではなく、淋しい。
 心に穴が開くって、こんな感じなんだ。

 これから、あまりに多くの時間が余る。なのに情熱が空っぽでわたしの体が震えてきた。
 何か代わりに温まる、情熱が沸るものが欲しくなる。

「あ」

 ボーッとしていたら、カーテンの向こうから微かな光が溢れ始めていた。
 窓を開けると風が頬を撫でる。見上げた先にある美しい薄紫の朝日があった。

「……あー……」

 なんかいいな。と思った。
 ただの朝日。でも、見たのはかなり久しぶり。スマホで写真を撮ると、明日も見てみたい気がした。
 これを見ながらコーヒー飲んでパンを齧ったら、なかなかオシャレじゃないかな。

 心の隅っこが満たされて。
 でもまだまだ空っぽのわたし。

「……まずは寝ようかな」

 明日も朝日を見るために。

 何年振りとなるだろう。わたしはその日、とても心地よく寝た。
 そして明日のために、引きこもりの部屋から抜け出すと、美味しいパンを買いに行こうと靴を磨くことにした。

6/2/2024, 11:45:19 PM

短歌ブーム中。

 【六月】

 静かだね 相合傘も 紫陽花も

 戦場に ひまわり咲く日 夢見てる



 【正直】

「わたし平気よ。戦争へ行くことなんて、ちっとも怖くないわ」

 そう上手に笑った彼女だが、手だけは正直に震えていた。
 僕の傷だらけな手で握りしめると、彼女のあまりに小さな手から、トクントクンと小さな命の音が伝わってくる。その消えそうな温もりに、目頭が熱くなるのを感じていた。

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