【何でもないフリ】
兄貴が俺の世話をやかなくなった。
ああ、それはそれで幸せだって、思っていたんだけどな。
両親を幼い頃に亡くしてから、何かと兄貴が親代わりだった。これをしろ、仕事を覚えろ、家を継げ。みたいな言葉が口癖だった兄貴。
鬱陶しくてうんざりしていたはずなのにな。
兄貴が結婚して家を出てから、俺が家督を継ぐと、兄は何も言わなくなった。
俺の周りは静かだ。
静かすぎて。ちょっと孤独だ。
寝坊しても怒られないけど、おはようという相手もいない。
狭いはずの家は、今は広い。
喧嘩相手も特にない。
あぁ、なんつーか。こう。
兄貴の声が懐かしいっていうか。
そんなことを考えていたら、スマホが鳴った。
短い言葉で、「子供が生まれた」と兄から届く。
ちゃんと飯食えてるか、とも届いて、急に声が聞きたくなった。
急いで電話しようとして、立ち止まる。あっちは今頃賑やかなんだよな。
……。
「うん。子供おめでとう」
素っ気なく返す。寂しさなんて何もないふり。
なのに兄貴は「今度、久々に会おう」と言葉をくれるから。
俺の胸が少しだけ騒がしくなった。
12/11/2024, 8:18:02 PM