ゆじび

Open App
3/30/2026, 12:53:33 PM

「幸せな結末を」



とある女の子が言った。
「私は一人でええ。」
酷く傷つきボロボロになった自身の体を見下ろし
震える唇を強く噛み締め言った。
「泣かんとって」
目には涙が溜まり、溢れてしまいそうだった。
自分に声をかけた言葉なのかもしれない。
「泣かんといてよ」 その声は微かに怯えを含み
微かに空へと響いて消えた。


女の子がいた。 
生まれは兵庫県。育ちも兵庫県。
黒色髪を肩の上で切り揃えた髪の毛をなびかせ歩く。
前髪はサイドに分け、いわゆるセンター分け。
服は脛あたりまである黒色に白色の小さな花が書いているワンピース。
海辺を、足を砂に沈めて一人で歩く。
風が潮をのせて吹き、微かに髪の毛を揺らす。
家族はもういなかった。
昔海で流されていった。
一人きり。
彼女は「海」。名前だ。
親を殺した海と同じ名前。
皮肉のように感じてしまったりするが親は海が大好きで、広く夢のある海と同じ「海」という名前がよかったという。


海は学校に行く。
よくみるセーラー服に身を包み高校に行く。
もう支えてくれる人はいなかった。
海辺の学校。窓を開けると潮風に乗ってかすかに海の匂いがする。
先生はいい人。優しくて時には厳しい先生。
「光示先生。今日暇ですか。」
「海。先生は生徒と遊びに行きません。」
何度も海は先生を遊びに誘った。だって好きだから。
「ええやんか。光示先生彼女おらんの?」
「いや居ないけど。」
「なるほど非モテか。」
「海ー。海はいけないことをいいました。」
「ごめんごめん。光示先生。許してや」
「はぁ。今日は親御さんの命日でしょ。早く帰ってあげて。」
「はいはい。親に伝えとくわ。先生と付き合いましたってー」
「やめろやめろ。先生社会的に死ぬわ。」
「へへへ。」

雑談程度の会話。それでもすごく楽しい。
親の命日を知っているのは、今私は3年生で1年のとき
に親が死んだから。
まだまだ私を子供としてみてるけどそれでいい。
先生と笑えるなら。

3年生の教室は1階の端の方。端の方にも門があるから
帰るときはすぐに学校から抜け出せる。
田舎の学校で生徒は少ない。だから担任の先生も
ずっと光示先生だった。

想いを持ち始めたのは親が死んだとき。
葬式のとき式場の外でずっと立っていた。
さすがに入るのは良くないと思った。と言って外に
ずっといた。夏の終わりが近づいているとはいえまだまだ暑苦しいのに。私に言いたいことがあったって。

「海。海は一人になったって思ってる?」
「事実じゃないですか。」
「確かにね。でもね海には僕がいるよ。」
「先生?」
「うん。まだまだ知り合って時間はたってないけど
僕は海を近くで支えていける。」
「先生が?」
「そうだよ。先生も随分昔に親を亡くしてね。
あの頃は辛かったな。一人になったと思って死んだ親をどうして一人にしたんだと恨んでしまったよ。
大好きな親だったんだけどね。自分に嫌悪感を抱くようになったのはその時からだった。」
「今はどうなんですか?」
「沢山の仲間が僕を支えてくれたよ。
はじめは友達に名前を呼ばれるのも一人じゃないと
言ってくる教師も大嫌いだった。
でもねだんだん気付いた。僕は1人じゃないってね。
勝手に1人だと思い込んで、嫌悪感を抱いて。
バカらしくなったんだ。親のことを恨んでもきっと親は気にもしてない。だから嫌悪感を抱くのもお門違いだって。
それに僕がようやく笑えるようになって親友といつもどうり話をしたときアイツの顔ったら。ハハッ。すごく面白い顔してた。」
「そう。なんですね」
「うん。…今は分からなくてもいいから、少しずつ受け入れていってほしい。先生は、友達は、思ってたよりも近くにいて、親御さんたちも好き亡くなった訳じゃない。きっと親御さんたちも海には笑っていてほしいよ。」
私は涙が止まらなかった。
親が死んでから止まっていた私の時間が動き出した。
そんな気がした。
私の背中をさする先生の手がお母さんの暖かい手と
お父さんの少し固くなった手を微かに思い出させた。


これが私が先生に恋したきっかけだ。

今思うとあのときの先生はすごく、かっこよかった。

愛してる。
先生も友達も。町の人も。
高校に入って、新しい友達ができた。
親友と言える友達ができた。
茶色のがかった髪の毛を肩の上で切り揃え、前髪は
頭の上でピンでとめている。いわゆるポンパドール。可愛らしい女の子の「御幸」
大好きでだいすきで、私は今幸せだ。

ある日。

学校で5時間目の授業を受けていたとき。
世界史の勉強で所々寝ている生徒もいた。
今日は歴史の担当である光示先生がお休みで、変わりに新人らしい女の先生が授業をうけもっていた。

突然放送が響いた。
「校庭に怪物が侵入しました。教室にいる先生と生徒の皆さんは扉と窓を直ちに施錠。扉の前に机を重ねてください。生徒は1ヵ所に集まり先生は生徒を誘導してください。全員落ち着いて行動してください。
繰り返します――」
その瞬間緊張感が教室に漂った。
努めて落ち着いて放送する教頭先生の声が聞こえる。
我にかえった先生と生徒が率先して窓をしめ、机を動かす。みんな焦りがにじみ出ている。
だって怪物が侵入してきたら一番に入ってくるのはおそらく端で扉の近いこの教室だから。

施錠し終わり端にみんなで固まった。
カーテンをしめ、扉の方にみんな注目している。
放送がなった。
ジー。
放送がなる前の微かな電子音。
これは避難訓練で何度も聞いた。
怪物が校舎に入ってきたのだ。

ガンッ。ガンッ。
壁になにか金属のようなものが当たる音。
おかしい。いま廊下には誰もいないはず。
ドンッ。ドンッ。
扉を叩かれる。
バンッ。
扉が開いた。鍵をかけていたのにどうして。
この校舎は古くなっていた。だから鍵が壊れたのだ。

そこにはボロボロになった服を着ていて、
金属バットを持った「なにか」がいた。
目は赤く、体は魚と鳥とトカゲと人間が微妙に混じったような容姿。
そうか。これが。
何度も話だけは聞いた。怪物。
怪物はおもむろに言った
「みんなみーんな。死んじまえよ。」
そう言ってバットを振りだした。
それが女の先生に当たった。
先生は床に落ちていった。
キャーッ。
教室が一気に恐怖に包まれた。

どうにかしなければ。そう思った。
微かに持っている勇気を持って。
先生がくれた愛と勇気を。

手を痛いぐらい握りしめた。

「なぁ。あんたさぁ。いい加減にしたほうがええんとちゃうん。」
「はぁ?」
「怪物がなんや。バットがなんや。
あんた生臭いなぁ。生ゴミでも食ったん。」
「はぁ?」
私は走り出した。これでも陸上部エース。
扉を抜けて校庭に走っていった。
授業で習った。怪物は圧倒的な身体能力をもっている。きっと殺されてしまうだろう。
怪物は狙い通り私を追って校庭にでてきた。
どうやら今の世のなか「愛奪還組」とやらがいるらしいがきっと間に合わない。
すると3年生の教室の窓が開いた。
「海―。待ってよっ―」
御幸だ。叫ぶような声だ。泣き声混じりだ。
私は答えた。
「御幸―。生きてや」
この声は御幸にとどいただろうか。
私は自分に訴えるようにいった。
「私は私という物語が最後に「幸せ」で締め括られるなら。私は一人でもええ。一人で逝ってもええ。」
「泣かんとって。」「泣かんといてや」
涙が溢れてしまいそうだ。 
どうかどうか御幸がたっくさん生きられますように。
光示先生も私の勇姿を聞いて惚れ直してくれるかな。
なんて考えたり。
「幸せやったなぁ―――」



怪物は校庭の真ん中で立ち尽くした。
血まみれになった。体とバット。
立ち尽くしている間に愛奪還組が到着したようだ。
大きなゴーグルを着けた男が怪物を銃で撃ち抜いた。
怪物は呆気なく倒れていった。
その横から黒い長い髪を高い位置で一つに括り、男の子と同じ大きなゴーグルをかけた女の人が髪をなびかせ走っていった。
「ごめんなさい。」
女の人は動かなくなった海を抱き泣いた。
女の人の隣で男もその隣で拳を握りしめた。


これを御幸は目に焼き付けた。
黒髪の女の人はもう亡くなっているのだとは知らずに。


御幸は産まれながら死んだ者が見えるのだ。


その後光示先生は海の話を聞き、
瞬きすることなく、涙を流したという。
先生の左手薬指には新品のような指輪が光っていた。


初めてだった。愛奪還組に自ら志願する者は。
17歳。
訓練をすることなくすぐに戦場へ行く事になった。
「御幸」 銃を扱う男の隣で拳をふるう。
生まれ持った力を発揮し、愛奪還組にてエースである
春来の横で言葉通り拳を振るった。




生きるため。海の愛を受け継ぐために。








3/29/2026, 10:38:50 AM

「I'm mess」


見つめられると思い出す。

幸せなあの頃を。


「七菜。」
「父さん。どうしたの?」
「今日の晩飯お好み焼きにするか」
「本当に?やった!」

私と父さんの2人暮らし。
裕福な暮らしじゃなくても幸せだった。
お好み焼きは我が家のご馳走で、お父さんの給料日にたまに食べる程度だった。

私は父さんに拾われたらしい。
お父さんがパチンコから帰ってきたとき、ゴミ捨て場に捨てられていたそうだ。
私の名前は縁起がよさそうだ。という意味でラッキーセブンからとった7。
大好きな名前。
七菜の「菜」は私がはじめて家で食べたものが野菜だったからだそうだ。

幸せだった。
幸せだった。
ご飯のない日もあって寒さに凍える日もあった。
けどいつも父さんがそばで私を暖めてくれたから。
私は愛を知れた。
大切にしたいと思えた。


ある日。
私は父さんと行きつけの安いスーパーでもやしを買った。今日のご飯はもやし炒め。焼肉のたれをかけて食べる。すごく美味しい。
私はレジで会計をしているお父さんの隣で立っていた。私は7歳。
すると窓が割れた。
バリッ。バリッ。
遠くを歩いている怪物だ。
怪物の歩みに合わせ建物全体が動いた。
怪物はこっちに近づいてくるようだ。
怪物はスーパーから100メートルもない場所にいる。
すると父さんが言った。
「―七菜。父さんな、もともと消防士さんだったんだ。怪我しちまって引退したけどな。」
「父さん。そんなことよりも怪物が―。」
「だから父さんな。人を救いたいんだ。
七菜。お前は生きろ。生きて生きて、人を愛して愛されるんだ。そしたらきっと愛に溺れて生きていける。」
「とう…さん」

そう言って父さんは走って出ていった。
声を張り上げ父さんは走った。怪物はそれを追いかけ山の方に消えていった。
「とう、さん?」
一人残された七菜は消え去りそうな声でそう言った。

その後政府の使者というものがスーパーに訪れた。
親のいなくなった子供。つまり私に愛を奪い返すための組織に入らないか?というものだった。
私は父さんが、愛が帰ってくるのなら。と思い、
ついていった。
本当は返ってこないって分かってたのに。

私は「愛奪還組」という組織に入った。
とは言っても私は訓練兵。
私は14歳まで訓練施設へ行く事になった。

訓練施設ではいろいろな子供がいた。
笑う子泣く子さまざまだった。
そのなかで私に最初に話しかけてきた
「愛桜」あいらちゃんという女の子がいた。
少し茶色かかった髪の毛を低い位置で二つにくくっている。私よりも一つ年上だった。

「七菜。よろしくね」
「愛桜さん。はい。」
「愛桜でいいよー」
「愛桜ちゃん?」
「へへ。いいねー」

可愛らしくて大好きな人だった、
私をずっと愛してくれた。
一緒に訓練をしたり、うどんを一緒に食べた。
都会に遊びにいけるような自由のない愛奪還組でも
笑える日が増えたと思う。

それから、六年が経った。
もう少しで愛桜ちゃんが愛奪還組の待機場に移動になり、戦場に立つ。
愛桜ちゃんは私に言った。
「七菜。私はね戦いにでても手紙とか遺書は残さないよ。だからこれから先、来年七菜が戦場に立つようになるまで言葉を伝えることはない。」
「そうなんですか。なんでなんです?」
「私は死なないからね。死ぬことの怖さだって感じないし。」
「愛桜ちゃん。また会いに行きますからね。」
「へへ。告白みたいね。―待ってる。
あっそうだ。渡したいものがあってね。」
「渡したいもの?」
「はいっ」
ゴーグルだった。
大きくて戦場に立つときに使うようなもの。
「七菜に似合うと思ったの。やっぱり黒い髪によく似合うっ。」
「ふふ。そうです?ありがとうございます。
絶対これつけて会いに行きますからね。」
「楽しみにしてるっ」

そう言って愛桜ちゃんは沢山の14歳を向かえた訓練兵たちと大きな扉を開き、歩いていった。

次の日私の元に届いたのは。
愛桜ちゃんのネックレスだった。
愛奪還組の兵たちは常に自身の特定に使うネックレスを身に付けている。
これは愛桜ちゃんのもの。
つまり愛桜ちゃんは死んだんだ。

私は泣いた。泣いた。
すると目を真っ赤に腫らした愛桜ちゃんと同い年の兵が一人、私の元に歩いてきた。
「愛桜は先日の初戦にて勇敢に立ち向かい散って行きました。」
嘘。愛桜ちゃんは臆病で勇敢に立ち向かう訳がない。
「愛桜は…あなた。七菜のことを沢山。話していました。可愛らしくて優秀な子だと。来年再会するのがとてもたのしみだと。」
これは本当。同じことを愛桜ちゃんにも言われた。
「愛桜から七菜に向けた手紙が届いております。」
私に手紙を差し出した。すると兵は礼をし目元をこすり元の居場所に帰っていった。
私は涙が止まらなかった。

手紙。愛桜ちゃんは手紙を残さないと言っていた。
なのに残して行ったのだ。
なにか、あったのだろうか。


七菜へ。
元気?私は多分死んでるのかな。
私が死んだら届けてって言ったからね。
七菜。手紙を残さないって言ったのに残してごめんね。怖くなっちゃったんだ。大好きな七菜に忘れら れるのが。だから手紙を書かせてね。
七菜。私はあなたが羨ましかった。
勇敢で強くて沢山の愛されて育ってきたんだなって
思ってたから。私は親に叩かれて育ってきたから怪物に親が殺されたときちょっと嬉しかった。
そんなのどうでもいっか。
七菜。七菜はいつも消えてしまいそうな雰囲気があった。だからあなたが強く生きられるようにあなたに
目標をつけさせて。
愛されること。今までで一番死にたくないと思った時に人生を終えること。自殺しろとかじゃなくて幸せになってから死んで。
愛されて、愛して、愛に溺れて死ぬこと。
分かった?
長くなってごめんね。
愛しているよ。大好きな七菜。

PS,あえなくてごめん


   あなたの愛桜ちゃんより         」



所々濡れたように丸いシミがついている。
これは愛桜ちゃんのもの?それとも私のもの?
わからない。わからないよぉ。
愛桜ちゃん。大好きな愛桜ちゃん。
おいていかないでよ。



それから3年がたった。
私にも後輩ができた。
私はもう戦場で2年間戦ってきた。
この二年で沢山の仲間が死んだ。
仲間が死ぬたびに私の後輩。「春来」は深く落ち込み、下を向いていた。
ある日春来が言った。
「七菜先輩はどうして笑えるんですか。」
その一言が私の胸に深く深く刺さった。
「私は強いからね。」
そう言いたかったが声が突っかかった。
好きで強くなった訳じゃないのに。
強くはない。
ただ強がっただけ。

笑ってやり過ごした。

目標だとか色々語ってしまった。けど、言いたかったのは結局「一人にしないでね」それだけだった。






「みんなに。いつか、あいにいくからね」

3/28/2026, 9:59:12 AM

「You are mess」



恨めしかった。

こんな世界に生まれてきた僕が。

そんな僕にいつも渇をいれてくれるのは貴女だった。

「また下向いてる。どした?」
「…別に」
「…はぁ」

そう言って僕の隣に座った。
真っ黒で腰まで伸びた髪の毛を高いところで一つに
くくっている。瞳は迷いのないようにまっすぐで、
頭に大きなゴーグルをつけている。

「…なんで七菜先輩はそんなに笑っていられるんですか?」
「うーんとね。君。春来はきっと目標がないんでしょ。」
「目標?」
「そう。この世界で生きるためには、笑えるようになるなら、きっと何よりも大切だよ。」
「七菜先輩はあるんですか?」
「うんっあるよ。でもね秘密」
「…は?  何言ってるんですかっ」
僕は思わず吹き出した。
「あっ笑ったねー」
「…本当ですね」
僕らは立った。次の仕事に行くために。

僕は春来。
顔は覚えていないが母親が言っていた。
あなたの名前は苦しい冬が来てもまた春が来る。という意味だと。
彼女は七菜。
どうやら孤児だったらしくたまたま彼女を拾った育ての父親が縁起が良いだろとラッキーセブンの7から名前をつけたそうだ。

僕らはおかしな世界に生まれ育った。

怪物が蔓延る世界。
怪物。どこから生まれたのかわからない。
ただある日突然この世界に生まれた。
怪物は人々を襲い殺す。

そんな怪物に対抗すべく政府は怪物に親を殺されたひとりぼっちになった子供を集めた。
その子供たちに政府は「愛奪還組」と名付け、親を殺された恨みを怪物にぶつけるよう教育し、圧倒的な力をつけさせた。
僕らはその「愛奪還組」の一員である。
怪物が現れると滅しに行けと命令を受け殺しに向かう。
今まで約3年間現地で戦ってきた。
訓練はもっと前から。
14歳で戦場に送り出されるため、僕はいま17歳。
七菜先輩は僕よりも2歳年上で、現地で5年戦ってきた。

僕らのなかまたち。愛奪還組の仲間はいままでに沢山死んできた。
今年一年だけでももう22人。
次に誰が死ぬかなんてわからない。


七菜先輩はいつでも頼れる人だった。
待機所でも沢山の新人を励まし、愛してきたし、
僕も彼女に救われている。
彼女はきっと愛奪還組のなかでの唯一の光で、愛されているだろう。


とある日。雨が強く降り注ぎ空が泣いているような日だった。

愛奪還組の待機所に大きな音が鳴り響いた。
赤色の光が部屋を照らす。
『緊急事態発生。――市にて怪物発生。
 愛奪還組10名送るも全滅。自衛隊も壊滅状態。
 これは命令である。愛奪還組出動せよ。
 及び愛奪還組にてTopの実力を誇る。
 七菜.春来は現場に急行せよ。 他にも―』

「さてとお呼びのようだし行きますかっ」
「はい。…先輩」
「ん?」
「ここに帰ってきたらお酒でも飲みましょうか」
「ふふ。私たちはまだ未成年でーす。
まぁ、誰にもバレなきゃセーフだけどねっ」
楽しそうに笑う先輩はきっとこの世界で何よりも
かわいらしい。
その横で笑う僕。
2人ならきっと。



戦場についた。
何度も足を運んだ場所。
武器や装備は最先端らしく軽く丈夫だ。
武器なんてなんでも多少同じ。
なんなら使いなれたものではないから逆に心配だ。
まぁなんとかなるだろう。

七菜先輩は待機所とは打って変わって真剣な顔をしている。
大きなゴーグルをかけ、唇を強く噛み締めている。
先輩のルーティンだ。
「ふぅー。―いくよ」
「はい。」


対象の怪物はいつもよりも何回りも大きい。
目は赤く血走っており、体には愛奪還組の装備の破片が刺さっている。
口もとには血が付着し、歯に愛奪還組が常につけている誰の死体が判別するためのネックレスが引っ掛かっている。
僕は唇を噛み締めた。
その恨みを深く深く怪物に向けた。

「春来―」
「はい。―七菜先輩。」


僕らは武器を怪物に向ける。
僕は銃を。
先輩は短刀を2本持つ。

辺りには鉄臭い匂いが充満している。
砂ぼこりさえ血が染み、辺りが薄く赤に染まる。

2人同時に地を蹴った。

ドンッ。銃の音を皮切りに刃の音が甲高く響く。
僕、先輩、他にもいままでに何度も顔を合わせた
仲間たちがさまざまな武器を手に怪物に向かっていく。
槍、刀、薙刀、毒。

怪物は苦しんでいるようだ。

僕は怪物に何度も鉄の塊を打ち込んでいく。
僕が愛奪還組のTopに入り込んだのには理由がある。
それは過度な集中だ。
銃を手に1度鉄の鉛を打つ。それを合図に僕の意識は敵に集まる。瞬時な装填。
その状態の僕が聞こえるのは命令だけ。
攻撃されても受けたダメージに意識は向かない。
殺す。これだけが頭に残る。
生物兵器。圧倒的な忠誠。だから僕は愛奪還組のなかで優れていると言われてきた。


打ち込む。打ち込む。
ひたすらに。「殺す」ために。
だから、気付かなかった。
僕の命をさらう怪物の大きな手が迫っていることに。

ドンッ。

銃の音とは違った音が聞こえた。
熱く、鉄臭く、ドロッとした感触をおぼえた。
あ?僕は唇を震わせた。
死んだと思ったからだ、帰れないとおもったからだ。
横に視線をずらした。

七菜先輩がいた。
「七菜先輩?」
「春来―。言ったじゃない。過度な執着は命をさらうって。」
「先輩?」
「ほんと、仕方がない後輩だ。」
「先輩―なんで。」


「―先輩に爪が刺さってるんですか?」
先輩の体には大きく鋭く尖った怪物の爪が深く深く
刺さっていた。

怪物の爪がゆっくりと抜けていった。

先輩の体は力なく落ちていった。

「先輩!」

先輩の口からは血が止まることなく溢れていく。

訓練を沢山受けてきた。死んでいく仲間を沢山みた。
だから分かってしまう。
もう、助からない。

「春来―私はね目標があったんだよ。」
「?」
「私はっ。愛に溺れて死にたかったっ!」
貫通した腹に力を込め最後の叫びのように言った。
先輩はボロボロになっている。
血、泥だらけ。
それでも誇らしそうに涙を目にため言った。
「その為ならっ、命なんて惜しくなかったっ。」
僕の目にもいつの間にか涙がたまっていた。
唇を強くかんだ。
「惜しく、なかったんだけどな。」
先輩の涙が頬に流れた。
「春来―お前がいたせいで、惜しくなっちまった。」
「先輩ぃ―」
「泣くな後輩っ。私は愛されたかった。だから人を愛した。お前が来るまでにもそうやって生きてきた。
でもな―本当に私を愛してくれるヤツなんていなかった。」
「私を愛したのはお前だけだった。
死んでいったヤツを思って戦えるお前は大丈夫だ。
そんなお前が大好きだ。
な?私は愛に溺れて死んでいくだろう。」
「先輩―僕はそんなに良いヤツじゃないですよ」
「ふふっ。そうかならそれを目標にしたら良い。
誰もが憧れる「良いヤツ」になれ。
おい春来。―まだ敵が生きているぞ。」
「はいっ。先輩―」

僕は立った。泣くな。泣くな。笑え。
僕は笑えるようになったって言うように。
心配をかけないように。
「いってきます。先輩」
僕は走った。銃を構える。
過度な集中はしないように。


「本当に良い後輩だ。いってらっしゃい」
七菜の声は微かに響き消えていった。
声が途絶えてから少しのあいだ。
啜り声が軽快に響いていた。



先輩はすごい人だった。
僕を愛してくれた。
腹に風穴が空いてからもあんなに喋れるものなんだな。
本当に貴方はめちゃくちゃだ。
大好きだ。大好きだ。
戦闘中に感情を出すのは危ない。
涙で視界が霞むときがある。
それでも止めることなんてできなかった。





2年後。

「先輩っ。春来先輩っ」
愛奪還組の待機所で声が響く。
「あ?どうしたんだ」
「お酒ほどほどにしてくださいね。」
「…」
「あっ。また飲んだ。早死にしますよー」
「大丈夫。大丈夫ー」
「もぉー」
若々しい女の子の声がした。
彼女は御幸。茶色がかった髪の毛で肩の上の切り揃えている。前髪は頭の上でピンでとめている。いわゆるポンパドール。可愛らしい女の子。格闘技で戦うそうだ。戦うときには髪を一つにまとめる。
春来より2歳年下の後輩。
あの頃の春来と同じ17歳。
まだまだ新人だ。
「春来先輩。そもそもまだ19歳でしょ。未成年ー」
「バレなきゃセーフ」
「もうバレてますよ!先輩が愛奪還組のTopだから見逃されてるだけですー」
「はいはい」
「もぉー。「はい」は一回!」
「はいはい」


待機所の端で2人が囁き声で話ている。
「春来先輩。またやってるよ。」
「御幸ちゃんも大変だねー」
「でも春来先輩ってかっこいいよね。」
「な。分かる」
「さすが愛奪還組のエース。」
「本当に良いヤツだわー」
「良い性格してるねー」





春来は銃で怪物をうつ。
七菜がつけていた大きなゴーグルをつけて、
鉄の鉛を撃つ。
出動するときには強く強く唇を噛む。


「七菜先輩。僕は良いヤツやれてますか。」


時折思い出す。
あの日の約束を。
「僕ね、お酒飲みましたよ。苦くて美味しくなかったなー。ボロボロになって医療室で隠れてお酒飲んだんですよ。お酒がマズかったからかな。涙が止まらなくてお医者さんにお酒のことバレてバチバチに怒られましたね。」
一人で笑いながら目を伏せた。



「あいたいなぁ。」

3/27/2026, 8:51:35 AM

「殺し愛」



恋愛。

一言で言うには簡単な言葉だけど、結局は相手に自分のなかにはないものを求めているもの。
愛の感情も、人に夢中になる経験も、貴方にしかない暖かみを、私にはない優しさを。
結局はないものねだり。
愛を、幸せを求めた結果行き着く先。

辞書で調べるとどのようなことが分かるのか。
それは
「特定の異性に特別の愛情を感じて恋い慕うこと。また、その状態」とのことだ。
異性という部分は近年変わってきているそうだ。
慕う。それも結局はないものねだり。
つまり「恋愛」とは自分にはないものを得るための手段でしかない。

なにかを得るための手段だ。
つまり私と貴方が仕事として殺し合い、敵であったことも成果を得るための手段だった。
つまり私たちは愛し合っていたのではないか?
私たちがしていたことは殺し愛。

今日私は貴方に勝った。貴方を殺した。
私は成果を得た。

なぁ。こんな私の穢れた愛を。
貴方は受け取ってくれるか?

なぁ。こんな私のそばにいてくれ。


そばに…いてくれよ。



とある愛に飢えた殺し屋の2人の恋物語はこうして幕を閉じた。

3/25/2026, 12:37:58 PM

"Liar."

"I love you."

I said.

But your eyes saw right through me.

"You're lying, aren't you?"

Huh...
The moment I said that, I froze.

I never imagined you could see right through me.

"That can't be true."

I tried to pretend to be calm.

"No, that's a lie too."

Ah. It seems I can't. You saw right through me.

"...How did you know?"

"Because...I've been watching you all this time."

"...Huh?"

I got goosebumps.

Because...
I don't know you.

Besides, I just moved here.

There shouldn't be anyone who knows me.

"I love you so much. Hey. You love me too, don't you? Even if it's a lie. If you'll be mine."

I couldn't stop trembling.

"...I'm so sorry. It was all a lie. Please forgive me. I'm sorry. I'm really sorry."

She somehow managed to string together the words.

"You know what a lie is, right? You know what words are, right? Once you say them, you can't take them back."

What happened after that?

Sirens blared throughout the city.

A woman went missing.

Apparently, the woman had a habit of seducing men. Many sensible people considered it unavoidable,

and the woman's memory quickly faded from people's minds.

Liars are surely beyond redemption.

No matter the reason. Surely.




あの女性の言葉は風のように軽いから、花弁のように飛んでいくから、きっとああなってしまった。

彼女は悪くないのかもしれない。

そんな彼女を作った「周囲」がよくなかったのかも。

母親?友達?恋愛関係?

わからない。わからないから人は人を信じられない。

この話を自業自得と呼ぶのなら少し無責任だと思わない?

彼女は異常者?
それともこんな社会が産み出した被害者?
わからない。わからないね。
わからないから―怖い。



貴方はこの話をどう受け取った?

Next