「You are mess」
恨めしかった。
こんな世界に生まれてきた僕が。
そんな僕にいつも渇をいれてくれるのは貴女だった。
「また下向いてる。どした?」
「…別に」
「…はぁ」
そう言って僕の隣に座った。
真っ黒で腰まで伸びた髪の毛を高いところで一つに
くくっている。瞳は迷いのないようにまっすぐで、
頭に大きなゴーグルをつけている。
「…なんで七菜先輩はそんなに笑っていられるんですか?」
「うーんとね。君。春来はきっと目標がないんでしょ。」
「目標?」
「そう。この世界で生きるためには、笑えるようになるなら、きっと何よりも大切だよ。」
「七菜先輩はあるんですか?」
「うんっあるよ。でもね秘密」
「…は? 何言ってるんですかっ」
僕は思わず吹き出した。
「あっ笑ったねー」
「…本当ですね」
僕らは立った。次の仕事に行くために。
僕は春来。
顔は覚えていないが母親が言っていた。
あなたの名前は苦しい冬が来てもまた春が来る。という意味だと。
彼女は七菜。
どうやら孤児だったらしくたまたま彼女を拾った育ての父親が縁起が良いだろとラッキーセブンの7から名前をつけたそうだ。
僕らはおかしな世界に生まれ育った。
怪物が蔓延る世界。
怪物。どこから生まれたのかわからない。
ただある日突然この世界に生まれた。
怪物は人々を襲い殺す。
そんな怪物に対抗すべく政府は怪物に親を殺されたひとりぼっちになった子供を集めた。
その子供たちに政府は「愛奪還組」と名付け、親を殺された恨みを怪物にぶつけるよう教育し、圧倒的な力をつけさせた。
僕らはその「愛奪還組」の一員である。
怪物が現れると滅しに行けと命令を受け殺しに向かう。
今まで約3年間現地で戦ってきた。
訓練はもっと前から。
14歳で戦場に送り出されるため、僕はいま17歳。
七菜先輩は僕よりも2歳年上で、現地で5年戦ってきた。
僕らのなかまたち。愛奪還組の仲間はいままでに沢山死んできた。
今年一年だけでももう22人。
次に誰が死ぬかなんてわからない。
七菜先輩はいつでも頼れる人だった。
待機所でも沢山の新人を励まし、愛してきたし、
僕も彼女に救われている。
彼女はきっと愛奪還組のなかでの唯一の光で、愛されているだろう。
とある日。雨が強く降り注ぎ空が泣いているような日だった。
愛奪還組の待機所に大きな音が鳴り響いた。
赤色の光が部屋を照らす。
『緊急事態発生。――市にて怪物発生。
愛奪還組10名送るも全滅。自衛隊も壊滅状態。
これは命令である。愛奪還組出動せよ。
及び愛奪還組にてTopの実力を誇る。
七菜.春来は現場に急行せよ。 他にも―』
「さてとお呼びのようだし行きますかっ」
「はい。…先輩」
「ん?」
「ここに帰ってきたらお酒でも飲みましょうか」
「ふふ。私たちはまだ未成年でーす。
まぁ、誰にもバレなきゃセーフだけどねっ」
楽しそうに笑う先輩はきっとこの世界で何よりも
かわいらしい。
その横で笑う僕。
2人ならきっと。
戦場についた。
何度も足を運んだ場所。
武器や装備は最先端らしく軽く丈夫だ。
武器なんてなんでも多少同じ。
なんなら使いなれたものではないから逆に心配だ。
まぁなんとかなるだろう。
七菜先輩は待機所とは打って変わって真剣な顔をしている。
大きなゴーグルをかけ、唇を強く噛み締めている。
先輩のルーティンだ。
「ふぅー。―いくよ」
「はい。」
対象の怪物はいつもよりも何回りも大きい。
目は赤く血走っており、体には愛奪還組の装備の破片が刺さっている。
口もとには血が付着し、歯に愛奪還組が常につけている誰の死体が判別するためのネックレスが引っ掛かっている。
僕は唇を噛み締めた。
その恨みを深く深く怪物に向けた。
「春来―」
「はい。―七菜先輩。」
僕らは武器を怪物に向ける。
僕は銃を。
先輩は短刀を2本持つ。
辺りには鉄臭い匂いが充満している。
砂ぼこりさえ血が染み、辺りが薄く赤に染まる。
2人同時に地を蹴った。
ドンッ。銃の音を皮切りに刃の音が甲高く響く。
僕、先輩、他にもいままでに何度も顔を合わせた
仲間たちがさまざまな武器を手に怪物に向かっていく。
槍、刀、薙刀、毒。
怪物は苦しんでいるようだ。
僕は怪物に何度も鉄の塊を打ち込んでいく。
僕が愛奪還組のTopに入り込んだのには理由がある。
それは過度な集中だ。
銃を手に1度鉄の鉛を打つ。それを合図に僕の意識は敵に集まる。瞬時な装填。
その状態の僕が聞こえるのは命令だけ。
攻撃されても受けたダメージに意識は向かない。
殺す。これだけが頭に残る。
生物兵器。圧倒的な忠誠。だから僕は愛奪還組のなかで優れていると言われてきた。
打ち込む。打ち込む。
ひたすらに。「殺す」ために。
だから、気付かなかった。
僕の命をさらう怪物の大きな手が迫っていることに。
ドンッ。
銃の音とは違った音が聞こえた。
熱く、鉄臭く、ドロッとした感触をおぼえた。
あ?僕は唇を震わせた。
死んだと思ったからだ、帰れないとおもったからだ。
横に視線をずらした。
七菜先輩がいた。
「七菜先輩?」
「春来―。言ったじゃない。過度な執着は命をさらうって。」
「先輩?」
「ほんと、仕方がない後輩だ。」
「先輩―なんで。」
「―先輩に爪が刺さってるんですか?」
先輩の体には大きく鋭く尖った怪物の爪が深く深く
刺さっていた。
怪物の爪がゆっくりと抜けていった。
先輩の体は力なく落ちていった。
「先輩!」
先輩の口からは血が止まることなく溢れていく。
訓練を沢山受けてきた。死んでいく仲間を沢山みた。
だから分かってしまう。
もう、助からない。
「春来―私はね目標があったんだよ。」
「?」
「私はっ。愛に溺れて死にたかったっ!」
貫通した腹に力を込め最後の叫びのように言った。
先輩はボロボロになっている。
血、泥だらけ。
それでも誇らしそうに涙を目にため言った。
「その為ならっ、命なんて惜しくなかったっ。」
僕の目にもいつの間にか涙がたまっていた。
唇を強くかんだ。
「惜しく、なかったんだけどな。」
先輩の涙が頬に流れた。
「春来―お前がいたせいで、惜しくなっちまった。」
「先輩ぃ―」
「泣くな後輩っ。私は愛されたかった。だから人を愛した。お前が来るまでにもそうやって生きてきた。
でもな―本当に私を愛してくれるヤツなんていなかった。」
「私を愛したのはお前だけだった。
死んでいったヤツを思って戦えるお前は大丈夫だ。
そんなお前が大好きだ。
な?私は愛に溺れて死んでいくだろう。」
「先輩―僕はそんなに良いヤツじゃないですよ」
「ふふっ。そうかならそれを目標にしたら良い。
誰もが憧れる「良いヤツ」になれ。
おい春来。―まだ敵が生きているぞ。」
「はいっ。先輩―」
僕は立った。泣くな。泣くな。笑え。
僕は笑えるようになったって言うように。
心配をかけないように。
「いってきます。先輩」
僕は走った。銃を構える。
過度な集中はしないように。
「本当に良い後輩だ。いってらっしゃい」
七菜の声は微かに響き消えていった。
声が途絶えてから少しのあいだ。
啜り声が軽快に響いていた。
先輩はすごい人だった。
僕を愛してくれた。
腹に風穴が空いてからもあんなに喋れるものなんだな。
本当に貴方はめちゃくちゃだ。
大好きだ。大好きだ。
戦闘中に感情を出すのは危ない。
涙で視界が霞むときがある。
それでも止めることなんてできなかった。
2年後。
「先輩っ。春来先輩っ」
愛奪還組の待機所で声が響く。
「あ?どうしたんだ」
「お酒ほどほどにしてくださいね。」
「…」
「あっ。また飲んだ。早死にしますよー」
「大丈夫。大丈夫ー」
「もぉー」
若々しい女の子の声がした。
彼女は御幸。茶色がかった髪の毛で肩の上の切り揃えている。前髪は頭の上でピンでとめている。いわゆるポンパドール。可愛らしい女の子。格闘技で戦うそうだ。戦うときには髪を一つにまとめる。
春来より2歳年下の後輩。
あの頃の春来と同じ17歳。
まだまだ新人だ。
「春来先輩。そもそもまだ19歳でしょ。未成年ー」
「バレなきゃセーフ」
「もうバレてますよ!先輩が愛奪還組のTopだから見逃されてるだけですー」
「はいはい」
「もぉー。「はい」は一回!」
「はいはい」
待機所の端で2人が囁き声で話ている。
「春来先輩。またやってるよ。」
「御幸ちゃんも大変だねー」
「でも春来先輩ってかっこいいよね。」
「な。分かる」
「さすが愛奪還組のエース。」
「本当に良いヤツだわー」
「良い性格してるねー」
春来は銃で怪物をうつ。
七菜がつけていた大きなゴーグルをつけて、
鉄の鉛を撃つ。
出動するときには強く強く唇を噛む。
「七菜先輩。僕は良いヤツやれてますか。」
時折思い出す。
あの日の約束を。
「僕ね、お酒飲みましたよ。苦くて美味しくなかったなー。ボロボロになって医療室で隠れてお酒飲んだんですよ。お酒がマズかったからかな。涙が止まらなくてお医者さんにお酒のことバレてバチバチに怒られましたね。」
一人で笑いながら目を伏せた。
「あいたいなぁ。」
3/28/2026, 9:59:12 AM